ベートーヴェン/リスト 交響曲第6番Op.69「田園」, S464-6
(*: 提示部繰り返しあり)
- グールド(Sony<68>)(12:21/20:51/7:32/3:48/10:45)◎ ジャケット→
彼の演奏するハンマークラヴィーア・ソナタやショパンのロ短調ソナタ、あるいはブランデンブルク協奏曲と同様、全体的に緩やかなテンポでマッタリ感が漂う。
リスト編曲であるから当然のことながらかなり技巧的な曲のはずだが、そういうことをまるで感じさせない。
テクを誇示するというような低次元(?)のことには全く興味がなく、ただ純粋に原曲の良さを伝えようとしている。
(その意味ではホロヴィッツのような演奏とは対極にあると言える。)
ヴィルトゥオージティ、あるいは編曲者リストの存在を感じさせない演奏と言ったらよいか。
中でも終楽章が白眉で、個人的には原曲よりもこの曲の良さを伝えているのではないかと思う。
(実はこの演奏を聴いてこの楽章が好きになった。)
特に第117〜139小節の各パートの弾き分けのセンスには改めて感服する。
放送用ライヴ録音であるため多少の瑕はあるが、大した問題ではなく、また音質も良いとは言いがたいが、音の輪郭が多少ボケ気味なのは却って曲に雰囲気に合っているのかも。
また例によってデュナーミクの指示を守っていないところが散見されるが、これは恐らく確信的なもの。(彼はいかにもベートーヴェン的な急激なfとpの交替やsfがあまり好きではないらしく、ソナタの演奏などでもしばしば無視している。)
ともかく、グールド好きの私にとっても5本の指に入る愛聴盤である。
ただ第2楽章の遅さだけはさすがにちょっとやり過ぎではないかと思うが。
- ダルベルト(HMF<86>)(9:28/12:49/6:15/3:29/8:45)○
これと言った特徴や派手さはないが、丁寧な演奏で好感が持てる。ヴィルトゥオージティをあまり前面に出さない姿勢もいい。
強調するパート(声部)がグールド盤とは違っていたりして、また別の面白さがある。
ただ終楽章はもうひとつで、(これはグールドの演奏が素晴らし過ぎるのかもしれないが)技術的な難所でやや悪戦苦闘している感じがあり、嵐の後の穏やかでのんびりした雰囲気の表出にはもうひとつというところ。
- グールド(Sony<68>)(9:56)(第1楽章のみ)○
前出の放送用ライヴと同じ年の演奏だが、解釈はかなり違う。
テンポがずっと速く(こちらの方が楽譜の指示に近い)、もっとキビキビした感じ。
また、さすがにスタジオ録音だけあって細部まで隙なく仕上げている。
個人的には放送用ライヴのマッタリ感の方が好きだが、こちらの解釈で残りの楽章を弾いたらどうなったのか是非聴いてみたかった。
- カツァリス(Teldec<81>)(12:20*/13:04/5:38/3:40/9:17)△
世評の高いカツァリスのリスト編ベートーヴェン交響曲全集の中の一枚だが、個人的にはあまり感心しない。
肝心の技巧がイマイチで、難所でテンポが走るというか、余裕がなく慌てた感じになることがしばしば。
(特に第3楽章のトリオや終楽章など。)
そのような不可抗力(?)のテンポの揺れは仕方ないとして、それ以外にも恣意的というか、原曲にはないようなテンポの変化が非常に気になる。
(純粋なピアノ曲であればそのようなテンポの揺らしは自然なのかもしれないが、この曲はあくまで交響曲を弾くつもりで演奏してもらいたいところ。)
また楽譜にない音を加えたりしているようだが、個人的にはそんなことをしている暇があったらもっと落ち着いて丁寧に弾いて欲しいという感じ。
終楽章などガチャガチャとして煩い感じでのんびりした雰囲気には程遠い。
- シチェルバコフ(Naxos<2000>)(8:45/12:09/5:20/3:47/9:20)△
これもカツァリス盤と同じような傾向。
フォルテ和音での輝かしい音など、リストにはピッタリなのだが、残念ながらベートーヴェンの姿はそこに見えないというか、原曲の面影はあまり感じられない。
この演奏を聴くと曲の技巧的な難しさに本当によく伝わってくる。(まさに「リストの曲」という感じ。)
特に第4楽章など、よく頑張っているな、という感じだが、でもそれを感じさせたらこの曲の演奏としては成功していないということだろう。
また技巧派のシチェルバコフにしては技術的にももうひとつのところも散見されて、例えば終楽章の終盤の3度進行などちょっとぎこちない。
彼もリスト編交響曲を全曲録音する予定のようで、確かにシリーズの最初の盤(2番と5番)はかなり良い出来だと思ったのだが、後になるにつれて低落傾向にあるのかもしれない(シリーズ物の録音ではよくあることだが)。
未記入盤
- マルティノフ(Zig-Zag<2011>)(12:24*/13:50/4:48/3:42/9:48)(ブログ記事)
- ウェイス(Orchid Classics<2011>)(14:06*/16:12/6:35/3:59/10:59)〇-◎(ブログ記事)
- バルドッチ(Dynamic<2012>)(12:15*/14:04/5:03/3:53/9:27)(ブログ記事)
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