ショパン エチュードOpp.10 & 25
- ロルティ(Chandos<86>)◎-○
ジャケット→
爽やかさと瑞々しさという言葉が似合う。
技術と音楽性のバランスがよくとれていて(というか私好み)、かつ音が非常に良い。
ドライ過ぎず、響き過ぎず、しっとりとした潤いがある明晰な音。
テクニックも非常にしっかりしているが技巧に走った感じではなく、うまく音楽を支えている。細部の仕上げも丁寧。
歌い方や表情付けは決して大げさでなくむしろ繊細。微妙なタッチの変化も散りばめられており、詩情が感じられる。
特にOp.10がいい感じで、10-1は私の最も気に入っている演奏であるし、10-7(私の最も好きな曲の1つ)はこの盤を聴いてその魅力にハマったと言ってよい(出だしの左手がイイ!)。
10-8も模範的演奏。
残念なのはいまひとつの曲が多少あること。
特に25-10は、他の曲がこれだけ弾けているのになぜ?というくらいモッサリしている。
また緩徐系の曲は遅めのテンポをとるが、今ひとつ面白みに欠ける。特に25-7は遅さに見合うだけの工夫が欲しいところ。
また繊細さの反面、もう少し力強さやアクセントがあってもよいと思う曲もある(10-4など)。
- K.ヤブロンスキ(BeArTon<98>)◎-○
全体的に速めのテンポで明晰な音、端正な解釈でロマン的というよりも古典的な佇まいを見せる。
ルバートなどは最小限にとどめ、ペダルも控えめ。
録音のせいもあってかやや軽めの音が小気味良い。
(25-6などペダルで誤魔化すところがない。逆に言えばもっとレガートであってよいと思う人もいるかも。)
穴の無さという点ではポリーニ盤に迫るものがあり、禁欲的な解釈といい、「ミニ・ポリーニ」盤といった感がある。
むしろポリーニ盤ほど音がズシリとしていない分、聴き疲れしなくてよいかも。
個々の曲で個性を出すというより全体を通して聴いたときの安定感、質の高さが売りの盤だと思うだが、
それでも10-4や25-12での左手の雄弁さ(粒立ちの良さ)、25-12での運動能力、10-6での速めのテンポ設定(ペライア盤と同様のアプローチ)などが印象的。
穴が無いと言ったがその中で一番穴に近いのが25-8か。ちょっともっさりして流麗さに欠ける。
エキエル版を使用しているため、10-3など通常と違う音がして慣れないとギクっとするかも。
- ポリーニ(DG<72>)◎-○
説明不要の超有名盤だが、私が特に感心するのは穴がないというか、明らかにイマイチと思えるような曲がないこと。
24も技巧的な曲が並べば1つや2つは苦手な曲が出てきても不思議はないのだが、それがないところが当時のポリーニの凄さか。
確かに25-6など、多少甘いかなと思う曲もないことはないが、それでもイマイチというほどではない。
逆によいと思うのが10-1、10-4、25-8、25-10、25-11あたり(10-1、25-10、25-11はショパンコンクールでも弾いており、彼の得意曲なんだろう)。
ただ音が明晰な上にアプローチが峻厳過ぎて、続けて聴くと聴き疲れするところがある。(というわけで個人的には最近はやや敬遠気味。)
以前から言われるように彼のタッチには1音1音に重量感・存在感がありすぎるところがあるので、ときにはもう少しleggieroな音も欲しくなる。(たとえば10-10の13小節目のstaccatoのところ。その前のレガートの部分との対比があまり感じられない。)
- 横山幸雄(Sony<92>)◎-○
メカニックの精確さをとことんまで追求した一枚。
細部まで一点の曇りも無い明晰さと粒の揃い。隅々まで定規で測ったような演奏。やり過ぎてどこかコミカルな印象さえ受ける。
たとえば10-2など、(レガートというよりは1音1音がクッキリしているが)粒の揃いが完璧と言ってよい。人工美の世界である。
全体的には比較的外面的な技巧を要求するOp.10の方が彼の特長が出ているが、Op.25でも25-6、25-11なども秀逸。
ただし詩情とか微妙なニュアンスとかセンスのある歌い回しとか、そういったものには乏しい(が、そういうところを聴く盤ではないだろう)。
というわけで10-3や10-6、25-7など緩徐系の曲ははっきり言ってつまらない。
そのほか25-10もややもたついた感じがするし、25-12も妙におとなしい。25-2,8,9あたりももう少しスピード感があってもよいか。
ただ(同じくメカニックで聴かせる)ポリーニ盤に比べると音が軽いためあまり聴き疲れしないのはいいところかも。
世界的プロデューサー、W.エリクソンがこの盤を聴いて彼をプロデュースする気になった(Lisztの超絶)という話も個人的には肯ける。
- ルガンスキー(Erato<99>)○-◎
ルガンスキーの弾くエチュードということで、Vanguard盤でのSchumannやRachmaninovと同じようなシャープでキレキレな演奏を期待してたのだが、実際は(たとえばポリーニ盤と比べると)思ったより大人しいというか、むしろ抒情性を重視している感じで(併録の3つの新エチュードを聴くとさらにその印象が強い)、少し肩透かしをくらった感じ。
(人によっては一皮むけたと言うのだろうが…個人的には少し寂しい。)
技術と音楽性のバランスをとっているとも言え、その点でロルティ盤に近いものがあるかも。
ただ録音はロルティ盤ほどではなく、10-1などを聴くとやや残響多めというか多少細部がぼやけた感じに聴こえる。
(逆に言うとロルティ盤は音の良さが全体の印象においてかなり重要なファクターになっているのかも。)
個々の演奏では、10-8が彼らしいキレキレのメカニックの冴えを見せた秀演。
25-6もsotto voceという指定に最も合った演奏ではないか。
25-12も個人的にはこの曲のベストの演奏の1つ。
逆に10-11は重い足取りに少し違和感。
- ソコロフ(Opus 111<85>L)(Op.25のみ)○-◎
表現の振幅が大きく、かつよく歌う。ロシア的なスケールの大きさを感じさせる演奏。
Op.25だけであるが、その各曲にうまく変化をつけ、全体をひとつのまとまりとして一気に聴かせる。
最初は静かに始まり、後半の25-8以降だんだん白熱していき、最後の3曲で一気に頂点に達する。
25-10はリズムに多少癖はあるが迫力抜群だし、25-11も鬼気迫る感じ。
最後の大洋も非常にピアニスティックで、ChopinというよりLisztかRachmaninovを聴いているかのよう。
じっくりと深く歌う25-7はさしずめ緩徐楽章というところか。
前半の(どちらかというと地味な曲と思われる)25-3,4,5もメリハリがあって生き生きとしている。
ただライヴのため全体にやや瑕が目立つのが惜しい。(明らかなミスタッチも残っているので後で編集はほとんどしていないのだろう。)
25-6もスタジオ録音ならばもっと技術的に完璧に弾けるのだろうけど…。
- J.Zayas(Music&Arts<83>)○
表現に自然な勢いがあり、かつタッチや音色の変化など細かい表情も付いている。
いわゆる聴かせ上手。
バスや内声など左手の歌い方が上手く、その点で10-5、10-7、25-7などが印象的。特に25-7は個人的にはソコロフ盤などと並んでベスト演奏のひとつ。
25-8、25-10なども非常に勢い、スピード感があり、リズムも生き生きしている。
ただ、音楽的には非常に充実しているのだが、その分細部の正確性や明晰さが多少犠牲になっている曲もある(たとえば25-11)。
特にメカニックの安定性、強靭さ(ちょっと押したくらいではビクつかない感じ)の点で少し不満が残る。(技術的にやや線が細いと言ったらいいか。)
10-1や10-4などテンポが微妙が揺れたり、難所でタメを入れたりするのはもうひとつ。
- ガヴリーロフ(EMI<88>)○
速い曲は滅茶苦茶速く、音楽よりもスピードを追い求めたかのような演奏だが、人間の限界業を見る思いがして面白い。
(速いだけで弾き飛ばすのであればしょーもないのだが、彼には正確性もある。)
特に10-4、10-5、25-10、25-11あたりが凄い。
ただし10-1はフレージングが流れ気味(曖昧になりがち)だし、10-2は粒の揃いがもうひとつ(特に中間部)というように、もっと細部の仕上げが丁寧ならば…という曲もある。
また特に速く弾いていない曲もあって、逆になぜなのか(苦手の曲?)と勘ぐりたくなるほど。そういう曲は概して面白くない。
10-6や25-7など緩徐曲は一転して遅いテンポをとるのだが、遅さに見合うだけの聴かせる工夫に欠ける感がある。
25-5はコーダがやけにもったいぶっている(ソコロフも似たところがあり、こういうのがロシア流?)。
- G.オールソン(Arabesque<96>)○
表現が自然で硬さがまったくない。リラックスしている。
技術的にも余裕が感じられ、相当弾ける人であることは間違いないのだが、(全集の中の1枚という先入観もあると思うが、)サラっと一通り弾いて「こんなもんかな」みたいに済ませた印象を受けないでもない。
よく言えば健康的、神経質過ぎないでないということだが、細部の推敲というか緻密さがもう少しあってもよい気がする。
10-1など、タメが少なくややせわしない感じを受ける曲もある。
その中では25-10が、13度届くと言われるだけあって(違ったかな?)音の運びに余裕がある。
10-11や25-1なども表情付けやアゴーギクにセンスを感じる。(こういう抒情的な曲が結構合っている。)
録音はやや音が軽いというかマイルド過ぎて、少し輝きに欠ける感じがある。
- ペライア(Sony<2001>)○
技術的にもちろん不足はないし、音楽的にも細かな表情も付いていて、ある意味模範的演奏と言ってもよい。
ただ個人的にはもうひとつ(繰り返し聴きたいと思わせるような)魅力が薄い感じがする。その一因として音自体の魅力がやや薄い(瑞々しさや輝きにやや欠ける)ことがあるように思う(恐らく録音の問題)。
また彼のどちらかというとモノクロームな音色はロマン派にはやや地味過ぎる気がする。
(同じSONYでも横山幸雄のような無機質路線ならばむしろ合っているのかもしれないが。)
またどの曲も技術的に安定しているのだが、さらに凄みとか人一倍のキレを感じさせる曲が幾つかあれば面白みが増えたのかも。
25-6では出だしなどフレーズの最初をゆっくり始めるところがあるが、私には少し逃げに聴こえる(最初からトップスピードで入るのが技術的見せ所なのに)。
そのほか10-9、25-8などでも曲の出だしに結構タメを入れることが多く、個人的にはあまり好みでない。
個人的に一番評価しているのは10-6で、彼の異例に速いテンポが作曲者の意図に合っているのかどうかはわからないが、遅く弾くほど情感がこもると思っているような演奏が多い中、彼の解釈には共感できる。
- F.チュウ(HMF<97,2001,2003>)○-△
乾いたキレのあるタッチを駆使して個性的な解釈を聴かせる。
出だしの10-1から、各フレーズに楽譜にはない微妙な表情をつけていてなかなか面白い。
10-4や10-8は歯切れのよいタッチとスピード感が印象的。(プロコフィエフやリストで見せたアクロバティックな技巧を思い出させる。)
10-6では一転してかなり遅いテンポをとっていたりと、慣習的な解釈にとらわれず自分の独自性を主張する演奏である。
ただ10-10や10-11など解釈に疑問がある曲もある。特に10-10は普通に弾けないのか、あるいは単なる解釈かわからないがどこかギクシャクして違和感がある。
10-2は技術的に少し詰めが甘いか。[以上Op.10]
後に録音されたOp.25の方は違和感のある解釈がより多くなって個人的にはあまり感心しない。
Op.25全体の曲の傾向からか、乾いたcrispyな音というよりは情感を込めた表現が目立つのだが、リズムが粘るというか、
勿体ぶったようにフレーズの始めにタメを入れることが結構多くて鼻につく(25-6など)。
また全体的にもう少し技術的な精度の高さが欲しいところ。(というわけでOp.25としての評価は△。)
その中では25-4に彼らしい指捌き見られる。
- シフラ(Phlips<63>)○-△
不意を撃つアクセント、突然の加速、響き渡る轟音、音の追加、例によって思い切りデフォルメを加えた(園田高弘風に言えば「歪曲の限りを尽くした」)エチュード。
(最初に10-1に聴いたときはほとんど出鱈目かと思った。)
が、エンターテイメントというか一種のパフォーマンスと割り切って聴けば楽しめる。
中でも左手に迫力がみなぎる10-12、最速の25-6(重音も悪くない)、怒涛の25-8などが(よい意味で)印象に残る。また25-5の中間部の歌いっぷりもなかなかのもの。
ただ25-11など単に荒っぽいだけでイマイチの演奏も(当然のことながら)少なからずある。
ガヴリーロフ盤と同様、ひたすらスピードを追求した曲も多く、10-4もガヴリーロフ盤とほぼ同じ演奏時間だが、テンポは揺れ(揺らし)まくりで、ガヴリーロフの精密機械のような演奏とは同列に語れない。
ただここまでくるとタッチのコントロールとか粒の揃いとか、そういうことを言うのは無粋なのだろう。
- M.バリーニ(Phoenix<98>)○-△
随所に音楽センスが感じられる、なかなか個性的な演奏。
ただ表現意欲は旺盛なのだが、勢いを重視するあまり細部まで十分にコントロールできていない(なんとなく勢いでごまかされた感じ)になっているところも多々ある。そのあたりがエチュード演奏としてはやや弱い。
左手が雄弁で、25-4など左手にこれほど表情がある演奏はあまりない。
10-11で和音の中から旋律を浮き立たせるところも面白い。
また10-6、25-7のような緩徐系も聴かせる(弱音の使い方が上手い)。
アゴーギクも結構凝っているというかむしろ癖があるといった感じで、ややケレン味がかっているのは好悪を分けるかも(10-4や10-10など)。
また(このレーベルはいつもそうだが)ポツポツと乾いた録音のせいか音的な魅力に欠けるのが残念。
- R.Saitkoulov(EMI<99>)(Op.25のみ)△-○
スケール感はそれほどないが技術的には非常に安定しているし、そこそこ歌ってもいるのだが、聴き終わった後にあまり印象に残らない。
一言で言うと個性、特徴に乏しい。
表現のメリハリが少ないと言うか、強弱、緩急の幅が狭めで、どこか淡々としている。
アクセントも少なく、キメの部分でスッと流してしまうようなところもある。
(Op.25だけというのも全体の印象を薄くしてしまう一因かも。)
他にArensky, Scriabin, Stravinsky, Prokofievなど様々な作曲家のエチュードを集めて一枚にするという選曲は悪くないと思うのだが、さすがに名演の多いショパンとなるとアピールするにはやや弱い。
(EMI Debutシリーズということで、確かな技術を持つピアニストであることは伝わっているが。)
あとつまらないことだが曲間のポーズが妙に長いのは流れが途切れるようで少しマイナス。
- アシュケナージ(Melodiya<59>)△-○
技術的に悪くないのだが、音質がかなり悪く、それを覆すだけの魅力には乏しい感じ。
解釈的にはオーソドックスだが、録音の古さのせいか打鍵がどこか荒々しく、その後のDecca時代の冷静沈着路線のイメージからすると(ちなみに72年のDecca盤は未聴)結構攻めている。
(併録のメフィストワルツなどはさらに熱く、「若気の至り」的な演奏になっている。)
聴きものは25-6で、出だしは音が明確過ぎてsotto voceという感じではないが、まるで単音で弾いているかのようにスムーズかつ明晰。
鬼火もそうだがこういう重音系の曲は昔から彼の得意技のようである。
逆に25-10は(手の小ささが関係しているのか)ややゴリゴリしている感じである。
25-11もモッサリしていて彼ほどのメカニックの持ち主にしては意外に不出来。
25-12もやや迫力に欠ける。
- コルトー(EMI<33>)△-○
清潔感とセンスの良さを感じる。
解釈的には素っ気無さ過ぎず、かといって変な癖もなく、微妙な緩急や強弱のつけ方が上手い。お手本にするには良いのかも。
ただし昔から言われているように技術的には瑕が多い。
と言っても下手とか能力的に無理があるということではなく、単純にミスが多い。
テンポは安定しているし、細部も弾き飛ばしたり勢いで誤魔化すようなところはない。(一部10-2や25-11のように単なるミスの問題とは思われないものもあるが。)現在のように録り直しや編集が好きなだけできればかなり良いものになったであろう。
解釈は正統的と言ったが、10-11と25-5だけは現在の標準からするとかなり速いテンポをとる(バックハウスもそうなので、案外昔はそれが普通だったのかも)。
音質は録音年を考えればよい方。
- バックハウス(Cantus Classics<28>)△-○
音が相当に悪く、ノイズというか靄の中から目的の音を拾い出して聴く状態。
パガニーニ変奏曲の項でも書いたように、往時のバックハウスは確かな技巧を持っていたことがわかる。が、それでも現代の精密なテクニックと比べられてしまうと(恐らく一発録りということもあるだろうが)少し分が悪い。
また、よく聴き取れない部分を想像力でうまく補完(≒理想化)して聴いているということを幾分差し引いて考えなければけない。
(隣の部屋から壁越しに聴くと実際より上手く聴こえるという話。)
演奏時間最短の曲が多いが、それほど猛スピードで弾いているという印象はない。どちらかというと素っ気無い感じ。
- コーリ(Music&Arts<99>)△-○
1832年のブローッドウッドを使用しての演奏。
楽器のせいかあるいは本人の腕前のせいか、細部がよく聴こえず、速いテンポと相まって全体的に弾き飛ばしているような印象。
肝心の時代楽器の音も、高音部の音がか細くて低音部だけが妙に響くといった風であまり魅力的でない。
時代楽器であること以外の大きな特徴はショパンのメトロノーム記号に従っていることで、
そのため全体的にテンポがかなり速い。(そのテンポで正確に弾き切れればよかったのだが…。)
特に速いのが10-6で、ペライアやヤブロンスキが速いテンポをとっているが、それでも2分半(通常は3〜4分)なのに対し、コーリはそれを1分半で弾いていおり、これだと内声の16分音符の伴奏音型が本当にエチュードっぽく聴こえる。
10-3もかなり速いがこちらは(個人的には)それほど違和感がない。(むしろ元々ショパンはこの曲にVivaceという指定をしていたそうだが、その発想での演奏を聴いてみたいものである。)
全体的に演奏はイマイチだがネタとして聴くには面白い一枚である。
- G.Boganyi(Ondine<2002>)(Op.25のみ)△
オーソドックスな演奏で、そこそこ悪くはないが、技巧が特に優れているわけでもなく、音楽センスに溢れているほどでもなく、独自の解釈もあまり見当たらない。
というわけで他盤になり魅力や特徴に乏しい。全体的に流れがやや硬い感じである。
特に後半の25-9や25-10、25-11、25-12あたりがテンポも遅めでぎこちない。
25-6は勢いがあって悪くない。
- G.トマッシ(EMI<97>)△
精密機械系ではなく、自然で勢いのある表現に持ち味のあると思われる彼女だが、それにしてもメカニックの点で不満が残る。
確かに勢いはあるが、難所などやや勢い任せに乗り切ろうとする嫌いがある。
特にテンポの安定性の面で難があり、10-4や25-6など、部分によってテンポが揺れて(走って)しまう。
また10-2は粒の揃いの点で少し心許ない。
10-3や25-7など緩徐系の曲はあまりベタベタせずに速いテンポをとるところは好感がもてる。
音は全体的に軽め。
- 小菅優(ram<99>)△
トッマシ盤とは逆に、メカニックは悪くないのだが表現の点でもうひとつ。
一言で言うと平板。
表情をつけていないというわけではないが、全体的に起伏が足りない(一本調子)。
音色やタッチの変化にも乏しく、単調に流れる。
メカニックの方も、例えば横山盤ほどの精度とか、チュウ盤のような(特定の曲での)異常なキレみたいなものが見られれば面白いのだが、あくまで「よく弾けました」というレベルにとどまっている。
- R.Schirmer(Berlin Classics<2002>)(Op.10のみ)△
録音のせいか音がやや硬い。
解釈は非常にオーソドックスで、技術的にも大きな破綻は無いのだが、細かく見るといろいろ弱いところがある。
10-1は多少粒に不揃いなところがあるし、
10-3は中間部の動きがやや硬い。
10-4はテンポが少し不安定だし(右手と左手でテンポが微妙に変わる)、
10-7は音の運びにもう少し滑らかさが欲しい、等々。
せめてもう少し柔らかい音だったらよかったかも。
- M.Magin(accord<69>)△
音楽的に雰囲気は出ているものの、技術的にやや大味。細部が曖昧になったりテンポが微妙に走ったりするところがある。
あまり細部の緻密さや完成度にこだわった演奏ではない。
強いて言えば快速の25-2などが面白い。
- A.Simon(Vox<76>)△
埃っぽい録音のせいもあるだろうが、それを考えても技術的にもうひとつパッとしない(粗さが残るというか詰めが甘い)。
これで独自の解釈とかキラリと光る音楽センスとかがあればまだよいのであるが、そういうところも見当たらず、要するにこれといった美点が見出せない。
(あえて言えば値段の安さか。)
- ワイルド(Chesky Records<92>)△
表面的には何とか弾けているのだが、基本的なメカニックの部分、特にタッチの安定性、粒の揃い、滑らかさといったところに難がある。
(ヴィルトゥオーゾ系編曲物はこなせても、こういう基本テクニックが露になる曲には向いていないのか。)
10-7などは相当に怪しい。25-6も出だしはまずまずなのだが後がよろしくない。25-8、25-9もかなりごつごつしている。
76歳の時の録音ということでキレがないのは仕方ないとして、それ補うコクがあればよいのだが…。
むしろ併録の新練習曲の方が(技術的負担が少ないのか)味が出ているようである。
- チアーニ(Dynamic<65>)△
録音が古いせいもあって、素朴で鄙びた音。
入念に推敲したというよりは、一気にサッと弾いた感じの演奏で、よく言えば肩の力が抜けている。
悪く言えば雑で、ミスのようなところもそのまま残っている(一発録り?)。
技術的にも万全とは言い難い、と言うよりむしろ拙い。
10-1は右手が不安定だし、10-2などかなり怪しい(弾けてないというべきか)。
全般に音が結構抜けていたりする。
正直言って最後まで聴き通すのがつらい。
未記入盤
- 岡田博美(Camerata<2005>)(ブログ記事)
- クドヤロフ(Classical Records<2005>)(Op.10のみ)(ブログ記事)
- ナジャーフォヴァ(Delos<2006>)(Op.10のみ)(ブログ記事)
- ヌーブルジェ(DiscAuvers<2003>)(ブログ記事)
- リットナー(MDG<2011>)(ブログ記事)
各曲の演奏時間(ピンクは最短、黄色は最長のもの)
奏者 | Op.10 | Op.25
|
---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12
|
---|
ロルティ | 1:55 | 1:19 | 4:29 | 2:05 | 1:39 | 4:01 | 1:29 | 2:19 | 2:07 | 2:04 | 2:15 | 2:43 | 2:35 | 1:34 | 1:44 | 1:33 | 3:21 | 2:04 | 6:12 | 1:06 | 0:57 | 4:38 | 3:39 | 2:31
|
K.ヤブロンスキ | 1:52 | 1:28 | 3:40 | 1:59 | 1:37 | 2:29 | 1:33 | 2:24 | 2:14 | 2:06 | 2:25 | 2:26 | 2:14 | 1:22 | 1:55 | 1:50 | 2:57 | 2:02 | 4:58 | 1:16 | 0:59 | 3:52 | 3:34 | 2:17
|
ポリーニ | 1:55 | 1:25 | 3:41 | 2:01 | 1:38 | 3:08 | 1:29 | 2:20 | 2:05 | 2:03 | 2:14 | 2:37 | 2:11 | 1:27 | 1:51 | 1:40 | 2:54 | 2:02 | 4:50 | 1:04 | 0:57 | 3:56 | 3:32 | 2:30
|
横山幸雄 | 2:01 | 1:17 | 4:25 | 2:02 | 1:39 | 3:41 | 1:27 | 2:28 | 2:10 | 2:07 | 2:29 | 2:32 | 2:22 | 1:53 | 1:56 | 1:40 | 3:23 | 1:55 | 5:43 | 1:08 | 1:01 | 4:16 | 3:39 | 2:42
|
ルガンスキー | 2:00 | 1:16 | 4:06 | 1:57 | 1:39 | 3:56 | 1:31 | 2:07 | 2:02 | 2:06 | 2:59 | 2:42 | 2:31 | 1:31 | 1:45 | 1:33 | 3:24 | 1:49 | 5:24 | 1:04 | 1:01 | 4:10 | 3:31 | 2:30
|
ソコロフ | | | | | | | | | | | | | 2:28 | 1:36 | 1:40 | 1:30 | 3:41 | 1:51 | 6:21 | 0:58 | 0:54 | 4:46 | 3:25 | 2:25
|
Zayas | 2:02 | 1:22 | 3:53 | 2:02 | 1:43 | 3:46 | 1:30 | 2:26 | 2:06 | 2:17 | 2:24 | 2:35 | 2:14 | 1:41 | 1:59 | 1:39 | 3:28 | 1:44 | 5:00 | 1:05 | 0:58 | 3:33 | 3:36 | 2:30
|
ガヴリーロフ | 1:54 | 1:13 | 4:14 | 1:48 | 1:29 | 4:21 | 1:33 | 2:11 | 1:42 | 2:11 | 2:14 | 2:22 | 2:14 | 1:31 | 1:33 | 1:32 | 3:29 | 1:52 | 5:30 | 1:12 | 0:57 | 3:48 | 3:13 | 2:20
|
オールソン | 1:46 | 1:30 | 4:21 | 1:58 | 1:38 | 3:35 | 1:24 | 2:25 | 2:10 | 2:05 | 2:41 | 2:29 | 2:33 | 1:32 | 1:46 | 1:55 | 3:25 | 1:55 | 5:40 | 1:04 | 0:54 | 4:03 | 3:32 | 2:25
|
ペライア | 2:01 | 1:24 | 3:51 | 2:01 | 1:40 | 2:25 | 1:29 | 2:21 | 2:09 | 2:12 | 2:15 | 2:32 | 2:24 | 1:35 | 1:40 | 1:42 | 2:53 | 1:54 | 5:08 | 1:08 | 1:00 | 3:52 | 3:29 | 2:38
|
チュウ | 2:00 | 1:24 | 4:41 | 1:57 | 1:38 | 4:52 | 1:34 | 2:11 | 2:09 | 2:10 | 3:10 | 2:59 | 2:46 | 1:31 | 2:00 | 1:27 | 4:09 | 2:10 | 5:34 | 1:10 | 1:00 | 4:14 | 3:34 | 2:36
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シフラ | 1:48 | 1:18 | 4:14 | 1:47 | 1:29 | 3:33 | 1:28 | 2:12 | 2:19 | 2:04 | 2:30 | 2:28 | 2:20 | 1:17 | 1:31 | 1:29 | 3:08 | 1:39 | 5:08 | 0:57 | 0:56 | 4:33 | 3:31 | 2:37
|
バリーニ | 1:57 | 1:20 | 4:18 | 2:04 | 1:42 | 3:20 | 1:26 | 2:29 | 2:14 | 2:19 | 2:56 | 2:40 | 2:34 | 1:30 | 1:18 | 1:32 | 3:20 | 2:02 | 5:26 | 1:09 | 1:00 | 4:22 | 3:48 | 2:40
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Saitkoulov | | | | | | | | | | | | | 2:24 | 1:45 | 2:01 | 1:48 | 3:27 | 2:05 | 5:17 | 1:12 | 1:02 | 4:14 | 3:39 | 2:51
|
アシュケナージ | 2:04 | 1:19 | 4:19 | 2:05 | 1:39 | 4:04 | 1:27 | 2:22 | 2:17 | 2:25 | 2:37 | 2:39 | 2:54 | 1:45 | 1:47 | 1:29 | 3:20 | 1:52 | 5:28 | 1:07 | 0:59 | 4:34 | 3:52 | 2:48
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コルトー | 1:58 | 1:22 | 3:54 | 2:00 | 1:34 | 3:06 | 1:29 | 2:17 | 2:17 | 1:54 | 1:46 | 2:34 | 2:07 | 1:24 | 1:43 | 1:37 | 2:43 | 1:53 | 4:46 | 1:05 | 1:00 | 3:04 | 3:31 | 2:40
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バックハウス | 1:57 | 1:16 | 4:27 | 1:55 | 1:29 | 3:08 | 1:24 | 2:20 | 1:55 | 2:22 | 1:38 | 2:29 | 2:06 | 1:18 | 1:41 | 1:41 | 2:38 | 1:52 | 4:36 | 1:08 | 0:53 | 3:37 | 3:03 | 2:18
|
コーリ | 1:57 | 1:21 | 2:53 | 1:54 | 1:33 | 1:34 | 1:28 | 2:06 | 1:44 | 2:05 | 2:12 | 2:31 | 1:57 | 1:22 | 1:46 | 1:39 | 2:33 | 1:59 | 3:38 | 1:12 | 1:04 | 3:38 | 3:02 | 2:35
|
Boganyi | | | | | | | | | | | | | 2:22 | 1:35 | 1:47 | 1:55 | 3:22 | 1:51 | 5:14 | 1:08 | 1:03 | 4:23 | 3:36 | 2:51
|
トマッシ | 1:50 | 1:23 | 3:26 | 1:55 | 1:44 | 3:01 | 1:28 | 2:18 | 2:19 | 2:01 | 2:21 | 2:40 | 2:41 | 1:27 | 1:41 | 1:38 | 2:52 | 2:00 | 4:32 | 1:07 | 0:57 | 3:54 | 3:34 | 2:37
|
小菅優 | 2:03 | 1:24 | 3:53 | 1:59 | 1:42 | 3:38 | 1:33 | 2:30 | 1:52 | 2:12 | 2:17 | 2:26 | 2:07 | 1:28 | 1:38 | 1:46 | 3:41 | 2:02 | 5:11 | 1:08 | 1:02 | 4:21 | 3:23 | 2:39
|
Schirmer | 2:01 | 1:23 | 3:52 | 2:11 | 1:46 | 2:56 | 1:36 | 2:28 | 2:17 | 2:25 | 2:29 | 2:48
|
Magin | 1:58 | 1:16 | 4:15 | 1:54 | 1:27 | 3:38 | 1:24 | 2:08 | 1:59 | 2:00 | 2:30 | 2:29 | 2:29 | 1:13 | 1:38 | 1:29 | 3:04 | 1:48 | 5:14 | 1:05 | 0:55 | 3:40 | 3:14 | 2:32
|
Simon | 2:02 | 1:25 | 4:01 | 2:03 | 1:40 | 3:42 | 1:29 | 2:15 | 2:20 | 2:10 | 2:42 | 2:34 | 2:25 | 1:21 | 2:04 | 1:25 | 3:06 | 1:56 | 5:16 | 1:04 | 1:00 | 3:52 | 3:31 | 2:31
|
ワイルド | 2:15 | 1:36 | 4:28 | 2:08 | 1:44 | 3:49 | 1:36 | 2:27 | 2:04 | 2:10 | 2:32 | 2:33 | 2:41 | 1:31 | 1:54 | 1:54 | 3:13 | 2:04 | 5:05 | 1:12 | 1:00 | 3:49 | 3:42 | 2:42
|
チアーニ | 2:07 | 1:21 | 4:18 | 2:01 | 1:42 | 3:26 | 1:32 | 2:19 | 2:12 | 2:01 | 2:12 | 2:40 | 2:32 | 1:30 | 1:48 | 1:32 | 2:51 | 1:56 | 4:50 | 1:04 | 1:01 | 3:15 | 3:38 | 2:47
|
岡田博美 | 1:56 | 1:23 | 4:02 | 2:02 | 1:47 | 3:27 | 1:29 | 2:36 | 2:28 | 2:13 | 2:29 | 2:48 | 2:37 | 1:35 | 1:44 | 1:40 | 3:29 | 2:09 | 5:29 | 1:10 | 1:02 | 4:16 | 3:48 | 2:51
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クドヤロフ | 2:01 | 1:16 | 3:50 | 1:55 | 1:45 | 3:16 | 1:30 | 2:20 | 2:00 | 1:59 | 2:14 | 2:44
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ナジャーフォヴァ | 1:53 | 1:16 | 4:25 | 1:58 | 1:43 | 4:03 | 1:31 | 2:17 | 2:06 | 2:16 | 2:52 | 2:38
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リットナー | 2:03 | 1:29 | 3:29 | 2:04 | 1:35 | 2:40 | 1:40 | 2:25 | 1:59 | 2:08 | 2:18 | 2:41 | 2:18 | 1:33 | 2:00 | 1:57 | 3:19 | 2:04 | 4:25 | 1:10 | 1:05 | 3:47 | 3:35 | 2:23
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