ショパン ピアノソナタ第2番変ロ短調Op.35
(*:提示部の繰り返しなし)
- Lazic(Channel Classics<2000>)(6:41/5:53/7:59/1:23)◎-○
ジャケット→
第1楽章は力のこもった序奏が終わると、第1主題がはじけるような猛スピード(おそらく手持ちの中で最速)。
「速い部分はより速く」という姿勢もここに極まれりという感じ。
スタカート気味のタッチを多用しているもの特徴。
ポゴレリチの演奏をさらに猛烈にした感じ(そういえば彼はポゴレリチと同郷)だが、それでいて強弱やアゴーギクの付け方などに自然な歌心、センスが感じられる。
スケルツォも畳み掛けるテンポで軽快感抜群だが、後半のオクターヴ連打の後あたりで微妙にテンポが落ちる感じがあるのが惜しい。
トリオ部分でもテンポを落とし過ぎないのが(個人的には)好ましい。
葬送行進曲は割とすっきりめ。
終楽章は出だしをゆったりと始めて加速していく。表情というかアクセントもたっぷり。音量も大きめでsotto voceというよりはもっと激しい感じ。
全体的にかなり刺激的演奏で、多少ハッタリ的要素も感じられないこともないが、それを支えるテクニックも十分で、面白い演奏であることは確か。
- オールソン(Arabesque<90>)(5:14*/7:08/7:09/1:28)◎-○
第1、2楽章の特に急速部分が私好み。やや大味だが深々とよく響く打鍵が力強く、強弱のメリハリもあり、第1楽章第1主題のfとpの交替部分の対比(エコー効果)もはっきりしているのが嬉しい(ここはなぜかあまり強弱差をつけない人が多い。コルトー版の注釈の影響?)。
スピード感、切迫感もあり(ありすぎてテンポが走り気味のところもあるが)、ここぞというとこでのアクセントもしっかり付けるので聴いていて気持ちがよい。展開部での第1主題動機の執拗な繰り返しもタメが利いて思わず力が入る。
スケルツォも後半の半音階上昇からのオクターヴ連打、跳躍部分の迫力が出色。あと(これは編集の問題だが)第1楽章が終わって間髪を入れず(ataccaのように)第2楽章が始まるのもなかなか効果的。
ただしトリオなどの緩徐部分はやや退屈か。やたらテンポを落として急速部分との対比を大きくとっているが、わざとらいしい感じもする。葬送行進曲のトリオも(ppとはいえ)ちょっと音が弱すぎる感じ。
終楽章は(凝った演奏が多い中では)ちょっとおとなしい。音が何かボヤっとしている。
- ポゴレリチ(LaserLight<80>L)(5:32*/6:02/6:08/1:11)◎-○
'80年ショパンコンクールライヴ。
音を切り詰めたようなスタカート気味のアーティキュレーション、弱音を効果的に用いたデュナーミクなど解釈が独特。また(勢い任せでなく)タッチを綿密にコントロールしている様子がうかがえ、全体的に何か異様な緊張感に包まれている。
急速部のスピード感も(その後のDGへのスタジオ録音と違って)十分。
響きが少ない録音のせいもあって、贅肉がそぎ落とされた感じがする。
スケルツォも(気合いが入り過ぎて多少ミスはあるが)ポゴレリチらしい技巧のキレがある。
特にトリオ後の主部の再現のところは鬼気迫るものがある(これでノーミスなら言うことないのだが…)。
それに比べると終楽章は(テンポは相当なものだが)もう一工夫あってもよいかもしれない。
傷は結構あるが、それをあまり気にさせないほど演奏が充実しており、これでファイナルに行けなかったのだから、アルゲリッチが怒って審査員をやめてしまうのもわかる。
- アンスネス(Virgin<91>)(7:20/6:42/8:23/1:43)○-◎
第1楽章の第1主題はもう少しスピード感があった方が好みだが、ダイナミクス、アクセントの付け方はツボを押さえている。
特に提示部終結部の和音連打での畳み込みは爽快。
スケルツォ主部も(多少発音が不明瞭なところはあるが)かなりのスピード。ただ(個人的には)最後の連続跳躍のところは思い切りスタカートに歯切れよくした方が好きである(原典版では確かにスタカート指定はないが)。
葬送行進曲も表現が自然で勿体ぶったところがない。特にトリオでの(じっくりとクレシェンドしていくよな)デュナーミクやアゴーギクにセンスを感じる。
終楽章も各音へのアクセントの付け方などよく練られていて、それでいて音楽性を感じる佳演。
- エル=バシャ(Forlane<99>)(5:23*/6:06/8:04/1:27)○
端正な解釈で派手さはないが、彼らしく細部まで明晰な音作りで好感の持てる演奏。なんと言っても音がきれいなのがよい(特に高音フォルテ)。
ただ第1楽章提示部終結部の和音連打のところはあまり加速されずもっさりした感じになるのはもうひとつ。
また再現部の第2主題の終盤(b.199)では二点ト-三点トのオクターヴにタイを付けないで弾くはちょっとびっくりする(エキネル版解説によると確かにどの資料にもタイは書かれていないそうであるが)。
スケルツォもまずまず安定した技巧を見せる。トリオ部でだらだらしたテンポをとらないものよい。
葬送行進曲も、トリオ部であまりセンチな表現に陥らず(物足りないと思う人も多いだろうが)、あくまで端正。
終楽章は粒立ちが明晰すぎて「墓場に吹く風」のような感じとは少し違うかもしれないが、悪くない。
- キーシン(RCA<99>)(5:19*/6:06/10:38/1:29)○
技術的には素晴らしいが、例によって解釈の面で私とあまり波長が合わないところがあるのが残念。
特にアゴーギクに関して、スッと流れるべきところで流れないというか、妙にタメを入れるところが少し気になる(細部まで表情を付けようとしているのだろうが、もったいつけすぎというか、考えすぎのように思える。
個人的には、神童と呼ばれていた頃の自発性に富んだ天真爛漫な演奏がなつかしい)。
それでもスケルツォの技巧的な部分の鮮やかさは見事。純粋に技術的にはベストの演奏かも。
葬送行進曲はかなり遅めのテンポで、トリオ部はppの天国的な音色が印象的なのだが、遅さに見合った面白さがそれほど感じられない。
終楽章はsotto voceかつ表情がよく付いており、ここはスケルツォと並んで一番評価できるところ。「墓場に吹く風」の雰囲気に一番近い演奏ではないかな。
- ラフマニノフ(RCA<30>)(5:52*/5:17/6:09/1:25)○
第1楽章から強弱・緩急が激しい。
アゴーギクが独特で、提示部終結部は妙に粘るし、展開部では止まりそうになるほど大きなタメを作ったりするが、聴いていて意外と違和感はない(ロシア的ショパンとでも言おうか:-)。
第1主題で割と音を短く切るのはポゴレリチの解釈にも多少通じるところがあるかも(もちろんこちらが先だが)。
スケルツォは彼のヴィルトゥオーソぶりがよくわかる。特に後半のオクターヴ連打以降はテンポが速く(最速かも)、まさに突進という感じ。
葬送行進曲はデュナーミクが彼独自のもの。
pからfへとだんだん音量を上げていき、トリオで一旦pとなるが、再現部では再びffで始め、終わりに向かってディミヌエンドしていく(当然楽譜の強弱指定は無視)。
行進が遠くから近づき、また去っていくイメージだろう(「俺ならこう書く」というところか:-)。
終楽章も結構激しい。
音はサーフィスノイズが多少気になるが、録音年の割にはよい方か。
- ポゴレリチ(DG<81>)(5:56*/6:23/6:33/1:23)○-△
ショパンコンクール直後の録音だが、コンクールライヴに比べると、細部のタッチの精確さ・コントロールにこだわるあまり、勢いがやや失われている感じがする。
全体的にテンポが遅めになっていて、妙に落ち着いてしまっているというか、切迫感、疾走感のようなものが薄れている。
特に第2楽章。確実さを重視したのか、何物をもなぎ倒していくような迫力は減ってしまった(ちょっと安全運転気味)。もちろん完成度は高まっているが。
- アムラン(Isba<94>)(5:17*/5:54/8:02/1:28)○-△
第1楽章はテンポも軽快で技巧的に余裕はあるのだが、力強さ、迫力の点では多少物足りないところもある。たとえば第1主題のf,pの交替の対比があまりないのは(彼に限らないが)少しもどかしい。展開部でも、第1主題動機のffでの繰り返しで、途中で少し力を抜くようになるのは賛成できない。
スケルツォ主部もスピードはあるが、フレーズの間に微妙に間が入るところと、後半のオクターヴ連打のところで微妙にタメが入るところが残念。
葬送行進曲はゆったりしたテンポで重々しい(繰り返しは省略)が、トリルの前の音にアクセントを置かないなど(そういう版があるのか?)、多少違和感も残る。
終楽章は音の流れが明晰でなかなかよい。彼のよさはこの楽章に一番出ているのかもしれない。
- アルゲリッチ(DG<75>)(6:42/6:03/8:36/1:27)○-△
第1楽章は表現が自然だが(アルゲリッチにしては)それほど奔放な感じでなく、もう少しアクセントやダイナミクスの幅が大胆でもいいかな、と思うところもなきにしもあらず。展開部ではらしさを見せるが、全体的には意外とオーソドックス。
スケルツォも速いテンポで彼女らしい豪快な演奏なのだが、音の明晰さがもうひとつと感じるところもある。特にオクターヴ連打の後のところでの前打音の扱いが少し曖昧になるところは気になる。トリオの歌い方は結構あっさりしている。
葬送行進曲も陰々滅々というよりはどこか健康的(高らかに歌っている感じ)。フォルテでの打鍵が少々きつ過ぎるのではないかな。
終楽章は(sotto voceとは言え)ダイナミックスの変化が少なく、アルゲリッチにしてはいやにおとなしい。
最後の和音強打だけが妙に浮いている感じがしないでもない。
- ゲキチ(VAI Audio<97>L)(7:46/7:00/8:30/1:27)○-△
アゴーギク、アーティキュレーション、デュナーミクともに相当にユニークというか、かなり癖がある。真面目なショパンとは対極的。好き放題をしている感じだが、表現にメリハリがあり、内声を浮き立たせたりするところなどセンスもあって結構聴かせる(センスだけで弾いている感もあるが)。
第2楽章も相当に恣意的で、技巧的にも(やや勢い任せのところもあるが)キレがある。
葬送行進曲は割合まとも。
全体的に好悪が分かれるタイプの演奏だと思うが、個人的には結構面白く聴ける。ただし完成度の点では不満が残る。
ライヴだけに多少傷はある。
- ワイセンベルク(EMI<77>)(6:41/6:05/9:43/1:32)△-○
残響がかなり多めの録音で、まるで響きの洪水の中にいるようだが、第1楽章は表現のツボを押さえていてそれほど悪くない。(音がもう少しよければいいのだが…多少暴力的。)
第2楽章はちょっと遅いというかもっさりしている。例によって音が響き過ぎる上にガンガン鳴らすのでさすがに気になる。
葬送行進曲もかなり遅めのテンポ。しかもデュナーミクの幅がこれみよがし的に大きく、何か鼻白む感じ。
終楽章は遅めのテンポで1音を1音ははっきり出していて、ちょっと機械的なところがワイセンベルクらしい。
- ポリーニ(Hunt<60>L)(7:11/5:44/6:59/1:27)△-○
'60年ショパンコンクールライヴ。楷書的で非常に真面目な演奏だが、面白みは少ない(やや教科書的)。'80年のポゴレリチの演奏と比べると(時代の流れなのか)何かのんびりした感じもする。色気とかセンスを見せようとか、そういうところはないが、このようにストレートに弾くところがポリーニの持ち味なのだろう。
葬送行進曲は速めのテンポで素っ気ない感じもしないでもないが、強弱にメリハリもあるし、遅くなり過ぎないのはよい。
終楽章もペダルを抑えめにした歯切れのよい音が私好み。
技巧的には特筆すべきところはないが、全体的に安定している。傷は全くと言っていいほどない。音はかなり悪い。
- ペライア(DG<74>)(7:42/6:08/8:06/1:25)△-○
全体的に音が硬く、隅々まで明確に弾かれ過ぎて、その分やや聴き疲れする感じがなきにしもあらず。律儀過ぎるというか終始力が入りすぎて、力を抜くところがあまりないからかもしれない。テンポもやや落ち着き過ぎか。
スケルツォもテンポは決して遅くないのだが、前のめりにならず、常に後ろに重心が残っている感じ。どっしりしている。
葬送行進曲も重々しい。
終楽章が彼の持ち味が出るところ。風という感じではないが、1音1音を明確に弾くところがペライアらしい。
- ソコロフ(Opus111<85>L)(7:50/7:15/9:53/1:18)△-○
強弱や緩急のつけ方が個性的で、よく練られている。
ただその解釈が私の趣味と合わないのが残念なところ(これが彼の考え抜いた結果なのだからしかたないけれど。それでも安易に慣習に染まっていないことだけは確か)。
たとえば展開部の第1主題動機の繰り返しはタメを入れすぎのような気がするし、提示部終結部の和音連打もあまり切迫感がなく変に落ち着いている。
一番印象に残るのは葬送行進曲で、かなり遅めのテンポだがそれに見合うだけの充実感がある(トリオ部は少し素っ気無い感じだけど)。
ライヴだが傷はほとんどない(ただし聴衆の咳などの会場ノイズは入っている。それより彼自身の唸り声の方が結構気になる:-)。
- ポリーニ(DG<85>)(7:16/6:14/8:24/1:23)△
ショパンコンクールライヴと基本的にあまり違いはない。が、響きが豊か過ぎるというか、音ギレが悪いというか、やや音にしまりがない印象を受ける(コンクールライヴの方は基本的な音質がよくないので「夜目遠目」でそういう細かいところは気にならないのかもしれない。あるいはデッドな録音が幸いしたか)。
スケルツォは終盤の連続跳躍部分のスピード感がいまひとつ。
- ギレリス(Testament<55>)(5:46*/6:53/9:14/1:16)△
第1楽章はテンポは普通かやや遅めだが、強弱や緩急の使い方というか盛り上げ方はなかなか堂に入っている。いわゆる語り口が上手い。
第1楽章展開部の和音連打など力が入っている。
スケルツォはスピード感はまあまあなのだが、録音のせいかフォルテ和音で音が汚い。
傷も多少ある。
葬送行進曲は特にトリオで表情付けが少なく淡白。
全体的にはそれほど悪くない演奏なのだが、音が悪いのと特徴が少ないのとであまり積極的に聴く気が起きないというのが正直なところ。
- アミーロフ(Octavia<2000>)(5:40*/5:47/6:49/1:40)△
なにかこぢんまりしている。
それほど悪くない演奏ではあるが、個性的な演奏が目白押しの中ではやや影が薄い。
全体的に行儀が良すぎるというか、表現がおとなしい。録音のせいか音もやや硬くて色彩の変化に乏しい。
スケルツォもテンポが遅めで迫力があまりない。
私には第4回浜松コンの2次のライヴCDの方が、(実演を聴いているせいもあるが)傷はあるが表現にメリハリがあって魅力的である。
(そのCDも限定10部とはいえ一応市販されていたので、聴き比べに載せてもいいのかもしれないが。)
ちなみにこの録音はコンクールより3ヶ月前のもの。
- ホロヴィッツ(CBS<62>)(5:22*/6:47/7:49/1:24)△
全体的にやや動きがにぶいというかもたれる感じ。
曲芸的な指回りを見せることもなく、轟音や重低音を響かせることもなく、ホロヴィッツらしさと言えば乾いたような独特のタッチを使うところくらいか(それでも彼のファンからすればすごく魅力的なんだろうけど)。
解釈的にも割とオーソドックス。
スケルツォもスタカート気味の軽いタッチを多用するのが彼らしいが、テンポは遅めで、技巧的見せ場にしてはキレはもうひとつ。
アルゲリッチと同様、オクターヴ連打の後のところでの前打音の処理に少し違和感がある。
- シフラ(aura<63>L)(5:28*/5:39/7:17/1:13)△
拍子抜けするほど普通の(よく言えば誠実な)演奏。
スケルツォなどは轟音ととともに爆走してもよさそうなものだが、妙におとなしい。
結局最後までシフラ節は聞かれない。
となると技術的水準や完成度もそれほど高くないだけに魅力は少ない。
終楽章では一瞬音を忘れたのかと思うところがあってドキッとする。
音質はもうひとつで傷もある。
未記入盤
- ポゴレリチ(FKM<83>L)(5:18*/5:46/6:00/1:10)
- Pompa-Baldi(HMF<2001>L)(5:33*/6:55/7:02/1:24)2001年ヴァン・クライバーンコンクールライヴ
- ミケランジェリ(Archipel Records<52>L)(8:17/8:02/10:31/1:34)
- J.Zayas(ZMI<99>)(8:04/7:19/7:09/1:18)
- ジャニス(Philips<56>)(5:17*/6:05/7:39/1:23)
- クズミン(Russian Disc<92>)(5:13*/5:03/5:43/1:10)
- フランソワ(EMI<56>)(5:17*/5:04/6:33/1:20)
- R.ライト(ABC<2000>L)(5:48*/7:18/8:55/1:52)2000年シドニー国際コンクールライヴ(ブログ記事)
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