リスト ドン・ジョヴァンニの回想S.418(モーツァルト)
- N.ペトロフ(Olympia<87>)(18:52)◎-○ ジャケット
全体的にゆったりとした歌い回しだが、アゴーギクなどが私のfeelingに合っている。
クズミンほどおふざけにならず、デュシャーブルのように四角四面でなく、技巧一辺倒でなく品のある歌心に溢れていると言ったらよいか。
最初の騎士長のテーマの部分、小刻みに動く16分音符をゆっくりとスタカートで弾くのもなかなか印象的。
技巧も安定。ただシャンパン・アリアや「お手をどうぞ」の一部の変奏のところはテンポがちょっと安全運転過ぎるかな、と思わないでもない。(ハワードと同様)フル・バージョンを弾いていると思われ、ハワードの演奏がアレだけにそれもうれしいところ。
- アムラン(Hyperion<96>)(15:25)◎-○
技術的にも音楽的にも洗練されている。流麗で余裕があり、上手いことは非常に上手いのだが、80%の力でサラリと弾くような感じがあって、そこらへんがどうも物足りない感じもする。
表現が淡泊で面白みが少ないと言ったらいいか。
また彼の演奏で(他の曲でも)しばしば感じるのだが、ここぞというところでフレーズの頭でフッと力を抜いたりルバートを入れたりと、アゴーゴクやデュナーミクに(個人的に)多少違和感が残るところもある。
- アムラン(Music&Arts<91>)(16:46)◎-○
Hyperion盤と解釈的に大きな違いはないが、部分的にテンポがやや遅めで、その分名人芸的な畳み掛けの要素は少なくなっている。また録音がデッドなせいか多少硬い印象を受ける。
- デュシャーブル(EMI<94>)(15:10)◎-○
生真面目で楷書的、技巧もしっかりしていてある意味で模範的なのだが、オペラ・パラフレーズにしては肝心の歌があまり感じられないのが惜しい。特に「お手をどうぞ」主題提示の部分はリズムが杓子定規過ぎて、もうちょっとタメを作ってじっくり歌ってくれてもいいのに、と多少欲求不満になる(実際のデュエットをあまり彷彿とさせない…)。それでも、技巧的な変奏ではこれもインテンポでサクサク進むので、なかなか気持ちがよい。特にシャンパン・アリアの前あたりのところからは技巧が冴えている。
- ラエカリオ(Ondine<93>)(ブゾーニ編)(14:36)◎-○
デュナーミクやアーティキュレーション、音色の変化がうまく、聴かせるツボを心得ている(表現の上手さでは1番かもしれない)。技巧も熟達しているが、多少勢いに任せる感じになるところもなきにしもあらず。ブゾーニの編曲はリストのフル・バージョンの稿と取り入れているところもあり、その意味ではリストのオリジナルと大きな違いはないのだが、ただ終曲直前に冒頭の騎士長のテーマが戻ってこないのは、ハンガリー狂詩曲12番の最後で冒頭のテーマが戻ってこないのと同じくらい物足りなさを感じる(この分裂症的なところが魅力なのに…)。
- クズミン(Russian Disc<92>)(ブゾーニ編)(13:48)○-◎
アゴーギクというかテンポの変化が相当に自由で、ゴムのように伸び縮む感じ。全体的には(彼の演奏は一般的にそういう感じがするが)なにかやたら先を急ぐような、せわしない印象を受ける(まさに勢いで一気に持っていった演奏)。ただ、そういうせわしないところでも技巧が乱れないのは大したもの。まさに名人芸、ヴィルトゥオーソ的だが、曲が曲だけにそういう演奏も許せる。
- ラネリ(fontec<97>L)(14:59)○-◎
'97日本国際音楽コンクールライヴ。やや直線的で生硬なところはあるが、技術的に高いレベルで安定している。デュシャーブルと同じような路線だが、彼ほど即物的でなく、適度な表現力もあって模範的演奏と言えるかも。ライヴと思えないほど傷も少ないし、終盤はかなり畳み掛けているが、最後まで乱れない。コンクールライヴとしてはかなりの完成度の高さと言える(実は私は生で聴いていたが、そのときより後でこのCDを聴いたときの方が感心した)。
- S.バレル(Pearl<36>)(15:32)○
「お手をどうぞ」のテーマを非常にゆったり弾いたかと思うと、別の変奏は猛スピードだったりして、テンポの変化が激しく、しかも意表を突いている。クズミンが1つのフレーズ内でテンポを揺らすのに対し、バレルは部分ごとにテンポを急激に変化させる感じ。いずれにしてもヴィルトゥオーソ的演奏と言える。ただ細部が多少曖昧に聞こえるところもあるのは録音のせいか。
その録音状態は決して良くないが、'36年録音にしては悪くない。
- ワイルド(Vanguard<91>)(17:04)○-△
ヴィルトゥオーソタイプのワイルドにしては意外に堅実で普通の演奏。タッチがやや生硬で洗練されていない感はある。
全体的に特にこれといって悪いところはないが、特長にも欠けるか。
- グラント(Altarus<93>)△-○(18:50)
全体的に妙に落ち着いている。技術的な見せ場でも慌てず騒がず丁寧で、勢いにまかせたり、無謀な冒険に走ることがない(己を知っている?)。聴いていてアドレナリンが分泌されないような演奏と言ったらいいか。テンポは当然遅めだが、もったいぶったようなルバートがないので個人的にはそれほど悪い印象はない(技術がないのにケレン味があると最悪)。もちろんもっと軽快感やスピード感が欲しいところもあるのは確かだが。なお、有名な左右同時跳躍がないなど、弾いている稿が少し違う。
- ギンスブルク(Melodiya<70>)(17:36)△
ノルマの回想と同様、派手さはないが静かに歌う感じで悪くないと思ったが、それも前半まで。後半は技術的な物足りなさ目立ってくる。特にシャンパン・アリアのところはスピード感不足は否めない。普通はうずもれてしまうようなメロディーを浮き立たせるなど音楽的センスはところどころに見せるが…。
- A.シモン(Vox<80>)(17:53)△
録音のせいか軽めで乾いたタッチでスケールなどはきれいに響く。
が、技術的にはあまり流麗という感じではなく、特にシャンパン・アリアに入ってからはテンポも遅くぎこちない。律儀なまでに丁寧に弾いて、適当に弾き飛ばすところがないのはよいが、一応ヴィルトゥオーソタイプとされるにしては売り物(?)のはずの技巧のキレは見られない。
- ハワード(Hyperion<89>)(19:29)×-△
冒頭からこれ以上ないほどのもったいぶった表現で、音の迫力はあるものののちょっとやり過ぎの感もある。テンポが遅めな割には余裕があるという風でもなく、技術的に冴えないというか、正直言って聴いていてちょっとつらくなるところも多い(最後のシャンパン・アリアの部分はそれでも健闘しているが)。しかも歌い方にもあまりセンスがなく、美点を探すのが難しい。なお、弾いている稿はライナーによると"fullest possible version"で、通常の版より少し長い。
- オグドン(EMI>)(16:53)×-△
洗練された演奏とは対極にあり、武骨でゴツゴツしている。それだけならまだ許せるが、全体的に雑で、細かい音型など、タッチの粒が揃ってないところが多い。ハワードの場合は技術的な苦しさが見えても一応楽譜通りに弾こうとする姿勢が見えるのだが、オグドンの場合はそういうところがいいかげんに弾き飛ばされていくような印象を受ける。
未記入盤
- C.ローゼン(CBS<63>)(17:30)
- M.ポンティ(Vox<75>)(16:14)
- Bresciani(Dynamics<96>)(20:17)
- O.ケルン(fontec<2000>L)2000年浜松国際ピアノコンクールライヴ
- P.デ・マリア(VAI<2001>L)(18:44)
- E.Himy(自主制作盤<92>)(16:22)
- ヴァシャーリ(DG<61>)(17:34)
- S.バレル(Cembal d'amour<51>)(16:08)
- ラン・ラン(DG<2003>L)(16:24)
- 岡田将(Accustika<2003>)(17:36)
- トカレフ(MusikLeben<2001>L)(15:12)
- J.ヤング(HMF<2005>L)(18:04)2005年ヴァン・クライバーンコンクールライヴ(ブログ記事)
- C.フィッシャー(Genuin<2006>)(17:30)(ブログ記事)
- M.キャメロン(Cala<2006>)(17:38)(ブログ記事)
- ロザム(Mediaphon<95>)(18:29)(ブログ記事)
- ロルティ(Chandos<2013>)(15:01)
- S.パチーニ(Warner Classic<2016>)(17:07)
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