ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」Opp.33 & 39(全曲盤)
- ルガンスキー(Vanguard<92>)(2:58/2:22/5:51/3:38/1:40/1:51/4:05/2:36//3:03/7:01/2:32/3:38/5:15/2:45/7:41/3:15/3:39)◎ ジャケット
技巧がシャープでキレがあり、スケールも大きい。純粋に技術的(メカニカル)な面ではもう完璧と言ってもよいかも(私のリファレンス盤となっている)。表現はあくまで冷静(醒めているとも言える)だが、ここぞという場面での技にキレには胸がすく。分厚い和音での打鍵に余裕があって響きが深々としている(ラフマニノフはこうでないと)。解釈も正統的でまさに王道を行く感じ。ただ例によって音楽的なセンスというか面白味の点では(例えばアンゲリッチに比べると)もう一つというところ(特に緩徐系の曲で、テンポが遅めな割りに工夫が少なく、退屈な感じ。Op.33-1などもリズムがやや硬直的)。なお、Op.33ではなぜか演奏順序を一部変えている。
- N.アンゲリッチ(HMF<94>)(2:37/2:41/6:10/3:00/1:44/1:43/4:34/2:45//2:59/8:22/2:45/3:35/5:16/2:36/7:20/3:23/3:41)○-◎
技巧的にも優れているが、それに加えて音楽的センスを感じる。打鍵は決して荒々しくなく、自分の音をよく聴いている感じ。特に弱音がきれいで透明感がある。抒情派、リリシストとでも言おうか。Op.33-3などはかなり遅いテンポだが、しみじみと聞かせる。Op.39-5も騒々しくならないし、Op.39-9もヒステリックにならずに、落ち着いていていい味を出している。ただ(例えばOp.33-7の冒頭など)強音の部分で力をセーブし過ぎるのか、少し物足りなさを感じないこともない。(ちなにみ彼は'92日本国際音楽コンクール第5位だったが、ファイナルを聴いた限りではもっと上位に入っていいと思った。)
- H.シェリー(Hyperion<83>)(2:26/2:15/4:24/2:30/1:32/1:38/3:38/2:40//2:56/5:38/3:04/3:28/4:52/2:37/6:24/3:28/3:33)○-△
技術的に安定していてまずまずなのだが、ルガンスキーほどのキレがあるわけでなく、アンゲリッチほどの音楽性が感じられるわけでもなく、特に面白い解釈をみせるわけでもなく、他の盤にない魅力という点で(個人的には)積極的に手を伸ばしにくい盤になっている。個々の曲では、Op.39-6では中間部のスピード感にやや欠け、Op.39-9はルバート(タメ)が多くてちょっともったいぶった感じなのが少し気になる。Op.33-6での右手の細かい走句の滑らかさがもうひとつか。全体的には決して悪くないと思うが。
- オフチニコフ(EMI<89>)(2:52/2:21/5:47/3:22/1:45/2:01/4:25/3:05//3:13/7:41/3:09/3:24/5:31/2:46/8:56/3:44/3:58)○-△
これも技術的には非常に安定しているのだが、全体的にスピード感に欠ける感じがある。例えばOp.39-3。彼の解釈なのかもしれないが、覇気がないと言われても仕方無いくらい(次の39-4は良いのだが)。Op.39-5もかなり重い。しかも左手の(3連符の)和音連打がちょっとうるさくなっている。全体的にごまかしがないというか、キッチリ弾いているのだが、ちょっと安全運転すぎるのかもしれない。
- オグドン(EMI<74>)(2:08/1:51/3:30/2:43/1:23/1:52/3:51/2:27//3:17/5:44/2:33/3:50/4:15/2:25/7:05/3:31/3:44)△
全体的にテンポが速く(と言っても急速系の曲で特にスピードがあるというわけではないが)、あまりタメを作らずにどんどん先に進む感じ(突進型)。打鍵に迫力があるが、タッチがやや雑というか、乱暴。無造作に鍵盤を叩いているように聞こえるところも多い。細かい急速音型などで音がクリアでないところもある(録音のせいもあるだろうが)。細部を磨く(完成度を高める)という考えはあまりないのかも。よく言えばおおらか。Op.39-5など、馬力で攻める感じで、かなり騒々しい。ただOp.33-3のかなり速いテンポ設定は、私には結構合っているかも。
- I.ホブソン(Arabesque<89>)(2:52/2:28/4:27/2:46/1:40/1:40/3:44/2:46//3:00/5:45/2:50/3:28/4:37/2:38/6:31/3:04/3:28)△
これも全体にテンポが速めで、思い入れがないというか、素っ気ない感じ(Op.33-5など)。弾き飛ばしているとまでは言わないが、細部までキッチリ弾いているとは言い難いところがある。技巧的に下手というわけではないが、詰めが甘いと言おうか。ぎこちなく聞こえる曲もある(Op.39-1など)。彼の演奏は(録音数が多いという先入観もあって)どうも「質より量」という印象が付きまとってしまう。Op.39-5でクライマックスで主題が戻ってくるところであまりタメを作らずにインテンポで進むところなどは面白いと思うが。
未記入盤
- コラール(EMI<78>)(2:05/2:11/4:59/2:44/1:33/1:46/4:04/3:07//2:57/6:06/2:55/3:20/5:07/2:21/7:46/3:03/3:22)
- ハイルディノフ(Chandos<2005>)(2:50/2:19/4:55/3:12/1:46/1:52/3:56/3:04//3:25/6:26/2:58/3:48/4:47/2:50/6:37/3:21/3:56)(ブログ記事)
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