ヒナステラ ピアノソナタ第1番 Op.22(1952)
- T.ジャッド(Chandos<78>)(4:03/2:26/6:31/2:29)◎
ジャケット→
スピード感、打鍵の力強さ、技巧のキレ、どれをとっても(少なくとも手持ちのCDの中では)ダントツに推せる。
特に終楽章はこの曲が狙っているヴィルトゥオージティが最もよく味わえる。
中でも最後のクライマックスのfff possibile部分(右手が主題をオクターヴで弾くところ)は、まさになにものなぎ倒していくかのよう(トップスピードでそのまま入って維持しているのはこの盤くらい)。
あえて欲を言えば響きが少しライヴすぎる感があるので、もう一段の細部の明晰さと精緻さがあってもよいと思うが、まあ些細なこと(好みの話だし)。
第3楽章(個人的にはこの楽章はあまりピンとこないのだが)も、かなり遅めのテンポだが響きに細心の注意を払い、高い緊張感を保っている(終楽章との対比が秀逸)。
(LPでこれを聴いて以来CD化を待ち望んでいたのだが、やっとCD化された。できればLP音源をすべてCD化して欲しかったが。)
- ロドリゲス(ELAN<84>)(3:43/2:28/5:09/2:22)○
全体的に速いテンポで軽快なのはいいのだが、(録音のせいか)音が軽いというか芯がないように感じられるのがやや不満。
特に和音の強打で(鋼鉄のタッチとまでは言わないが)輝かしい響きが欲しいところ。
第2楽章はppのlegatissimoにしては音が大きく明晰すぎる感じで、ミステリアスな曲の雰囲気と少しずれているかも。
終楽章はかなり速いテンポ(ちなみ終楽章をメトロノーム指示通りに弾くと2:33くらいになるはず)のはずなのにそれほどスピードを感じないという不思議な演奏。
あくまで冷静というか、足取りが落ち着いているせいか。
終楽章がほとんどインテンポなのはえらいが、クライマックス部分(右手オクターブで主題を弾くところ)の手前でちょっとルバートが入るのは(他の人に比べれば少ない方だが)ちょっと残念。
ここは一気に突っ走って欲しいところ。
- 高雄有希(ABC<96>L)(3:22/2:21/4:25/2:48)○-△
'96年シドニーコンクールライヴ。
スピード感・ドライヴ感があり、(ロドリゲス盤と違って)音も輝いている。
終楽章の出だしはロドリゲス盤以上の速いテンポで始まり、これは凄いと思っていると、途中で冒頭のテーマが出てくるたびにテンポが落ちていき、最後のオクターブのところは結局、安全運転のテンポになっているのはちょっと残念。
彼はどうも一定のテンポをキープするという意識が薄いようだ。
第2楽章も少しそんな感じがある。
それでも終楽章の高揚感を考えると、演奏直後のブラヴォの嵐はわかる気がする。
ちなみこのとき彼は第2位(聴衆賞もとったかな)。
- Petchersky(Lorelt<94>)(4:38/2:41/5:51/3:09)△-○
残響の多い録音のせいか、やや音がぼやけた感じがある。和音にもう少しシャープさが欲しいところ。
第2楽章もおどろおどろしさを重視した解釈だが、もう少し表現に締まりがあってもよいか。
第3楽章は(いまひとつピンとこない楽章だが)響きに対して敏感な感じで悪くない。
終楽章は一転して音の輪郭がくっきりし、拍にアクセントがついてビート感がよく出ている。
インテンポ感もまずまず。
が、ときどき(跳躍のときに)タメが入るのは技術的制約からか。
最後のオクターヴの前もやはり大きなルバートが入る。
- B.ニスマン(Globe<81>)(3:34/2:32/4:28/2:35)△-○
テンポが速目、打鍵に迫力があって、音楽的にも自然な起伏がある。
細部に凝るというタイプの演奏ではなく、それが悪く言えばやや勢いまかせな感じにつながているかもしれない。
それでも第1楽章の一気呵成ぶりは悪くない。
第2楽章も陰にこもった部分とそれを放出する部分のコントラストがあって、雰囲気が出ている。
終楽章は最初のテンポ設定は意欲的なのだが、難所に来るとテンポが落ちるなど、インテンポ感に欠ける。(ロドリゲス盤とは逆にやや熱くなりすぎている感あり…ライヴみたいな演奏。)
この速いテンポを支えるだけの十二分なテクニックがあればよかったのだが…。
- 津田理子(Cypres<2000>)(4:20/2:32/6:04/2:43)△
第1楽章はまずまずだが、個人的には第1主題部分はもう少し速めのテンポで躍動感を出したい(彼女より遅い人も多いが)。
また途中の同音連打の部分はタッチにもう少し安定性が欲しい。
第2楽章はロドリゲス盤ほどではないがやはり音が明晰過ぎる感じがする。
明晰な分、タッチのわずかな不揃いが逆に目立って損をしているかも。
終楽章も丁寧ではあるが、技巧的に幾分苦しいところもあって(最後の右手オクターヴなど)、颯爽と弾き切るという感じではない。
- H.Somer(Phoenix>)(4:24/2:32/5:26/2:51)△-×
タッチに覇気がない。特に畳み込むような同音連打で推進力、ドライブ感に乏しい。
スピード感はなくてもPetchersky盤のように何かコクがあればいいのだけど、それもなくて何となく漫然と弾いてるように聞こえてしまう。
第2楽章もテンポが恣意的に揺れる。
終楽章は他楽章に比べればは悪くない方だが、やはりルバートで逃げるところが結構ある。
録音年はわからないがAADで音もよくない。
- M.Noguera(Arte Nova<96>)(4:47/2:48/6:15/3:12)△-×
どの楽章もテンポがほとんど一番遅い。
その分打鍵は丁寧かつよくコントロールされていて好感が持てるかな、と思ったがそれも第1楽章まで。
第2楽章や第4楽章は(おそらく)技術的制約に従ってテンポが変わり、聴いていてどうにもつらい。
- ポルトゥヘイス(ASV<93>)(4:41/2:48/5:54/3:01)×-△
テンポがモッサリしてる上にコロコロ変わり、ノリが悪いことこの上ない。
技巧も一番見劣りする。
ASVはヒナステラに関してはCDを何枚も出すなどだいぶ力を入れているようだが、ピアニストの人選に関してはセンスがいまひとつである(アルゼンチンでは大御所的ピアニストなのかもしれないが)。
未記入盤
- J.ファン(Reference Recordings<2008>)(4:06/2:24/4:20/2:46)(ブログ記事)
- ウルスレアサ(Berlin Classics<2009>)(3:44/2:36/7:00/2:36)〇-◎(ブログ記事)
- スタロドゥプツェフ(Anima<2010>)(4:32/2:36/4:51/3:10)(ブログ記事)
- ポワザ(Piano Classics<2015>)(4:15/2:31/5:32/2:33)〇
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