ラヴェル 道化師の朝の歌(「鏡」より)
- チュウ(HMF<94>)(6:35)◎-○ ジャケット→
リズムの躍動感やアクセントは少し抑え気味で、一聴するとややパンチ(死語?)に欠ける面もあるが、それよりむしろ微妙な強弱の変化や精緻なタッチに惹かれる。
この曲は意外とpやppという指定が多いのだが、それをよく感じさせてくれる。
特にpでの同音連打の羽根のような繊細さが印象的。(同音連打の部分はpからfと細かい指定があるがその対比が出ている演奏は少ない。チュウの演奏も必ずしも楽譜に忠実というわけではないが。)
逆にffのところでもあまり強烈に弾かないのはやや物足りないところもあるが(m.36のffなど)。
- ロルティ(Chandos<89>)(6:32)○-◎
ラヴェルの他の曲でもそうだが、ロルティの演奏は正統的、模範的でケチをつけるところはあまりない。健康的な明るさがある。
チュウとは逆にffがよく効いている。
タッチも明晰で音の粒立ちがよい。
あとさらに望むとすれば微妙な陰影あるいは(チュウのような)詩情のようなものか。
- ルディ(EMI<87>)(6:29)○
これもツボを押さえた佳演で、模範的演奏タイプ。
上品かつキメるべきところはキメている。
あえて欲を言えば同音連打の粒がもっと揃っていたらよかった。
心なしかタッチに安定感を欠くと感じられるところもなくはない。
- リパッティ(EMI<48>)(5:41)○
出だしからテンポがかなり速く、それでも颯爽と弾ききるテクニックはたいしたもの。
インテンポで一気に突き進む感じ。
個人的にはもう少し微妙な「間」があってもよいと思う(「もう少し落ち着け!」という感じ(笑))。逆に中間部はむやみに停滞せずよいと思うが。
また録音が古いせいか、微妙な音色や表情の変化はあまり聴き取れない。
すべてmf以上で弾いているように聞こえる。剛球一本勝負のような演奏(本当は違うんだろうけど)。
- 小山実稚恵(Sony<93>)(6:26)○
出だしからビートが利いていて、歯切れがよく、躍動感に満ちている。
音の輪郭もくっきりしている。ブリリアントで硬質な音。
メリハリの強さも、下品になる一歩手前で踏みとどまっている。
逆に中間部の音がやや硬い感じがして、もう少し音色に柔らかさがあってもいいか。
また前半の同音連打部分で(明確に音を出そうとしているせいか)テンポがややもたつく感じがあるのは惜しい。
- エル=バシャ(Forlane<94>)(6:57)○
冒頭のリズムが杓子定規的でアゴーギクをほとんどつけないのが確信犯的で面白い(正統的とは言えないと思うが)。
例によって輪郭のはっきりした明確なタッチで、特に同音連打のキレは清々しい。
m.36の両手交互打鍵も何か機械的で面白い。
中間部も何か即物的な響きがする。
全体的に何か打ち込み音楽風の趣がある(必ずしも悪口ではない)。
- ケフェレック(Virgin<90>)(7:10)○-△
テンポはやや遅め(リズムもやや重め)だが、打鍵が力強く、音にも輝きがある。華やか。
ただここぞというキメどころを強調し過ぎる感もあって、私などは却って鼻白む気がしないでもない。
(チュウ盤を聴きなれたせいか)気品というかさりげなさも欲しいところ。
- W.ハース(Philips<64>)(6:06)○-△
残響の多い録音のせいか、ボワっとしていて音に締まりがない感じがする。
もう少しリズムを歯切れよく、音ギレをよくしたい。
同音連打などテクは悪くないのだが、精緻という感じからは遠くなっている。録音でかなり損をしている感じ。
後半の同音連打前の重音グリッサンドなどはかなりの迫力。
- ティボーデ(Decca<91>)(6:37)○-△
割と落ち着いたテンポだが、部分的にリズムの処理に少し癖が感じられる。
音色も輪郭は明確だがやや人工的(Decca特有の録音のせいか)。
技巧は安定しているのだが、彼のようにやや機械的に弾くタイプであれば、非人間的なまでの技巧の冴えがないと(つまり人並みでは)ややつまらない。
後半の3度の連続グリッサンドの最後の上行をノンレガートにしていて、その精妙さが印象的。ここがこの演奏の白眉かも。
- ギレリス(M&A<63>L)○-△(5:46)
テンポがやや速めで、ギレリスらしい技巧のキレがあって悪くないのだが、ライヴだけにところどころ傷があるのが残念(特に終盤のは結構目立つ)。
録音ももうひとつだが、デッドで乾いた音なのはこの曲に合っているかも。
- T.Bruins(Philips<53>)(6:17)○-△
主部はテンポが速め、ffをかなり強調したりして、結構「熱い」演奏。ライヴのような雰囲気がある。
中間部の歌い方もなかなか聴かせるものがある。
その分、細部の精密さや丁寧さがやや犠牲になっている感もある。
- トラーゼ(EMI<85>)(6:18)△-○
テンポが速く、技巧が優れいていることがわかるのだが、それが前面に出すぎていて、品というか奥ゆかしさ、繊細さに欠ける感じがする。
(これだからラヴェルは難しい。)
ここぞという場所ではタメが入っていたりして、(偏見だと思うが)いかにもロシアの人のラヴェルという感じがする。豪快系の面白さはあるが。
同音連打の部分で微妙にテンポが落ちるのも少し気になる。
- ドノホー(gmn<98>)(7:05)△-○
リズムが少し重く、線がやや太過ぎるというか、大味な感じ。
これみよがしな強打が癇に障るところがある。
個人的にはこの曲は豪快系よりも精緻さや繊細さ(と適度なメリハリ)があるような演奏に惹かれる。
最初の部分でややテンポに揺れがあるのも気になるところ。
- ロジェ(Decca<74>)(6:26)△-○
基本的にオーソドックスな演奏で特にこれと言って悪いところはないのだが、逆に特長にも乏しい。
無難ではあるが、(同曲異演奏が多いと個人的には)取り出して聴こうという気もなかなか起こりにくい。
- ペルルミュテール(Nimbus<73>)(6:24)△
これもオーソドックス(というか作曲者本人から学んでいるので正統的と言うべきか)な演奏だが、技術的な面でキレに欠け、細部に不明瞭なところが出てきてしまっているのが惜しい。
ミスがあるのにそのまま残していると思われるところもある。
70歳直前のときの録音で、技術的な衰えは仕方ないというところか。
もう少し若いとき('50年代前半)の録音もあって、そちらの方がよい出来だったと思う(VoxからCD化)。
- エルフェ(HMF<70>)(6:31)△-×
技術的に細部の詰めが甘い感じ。
特に同音連打はやや曖昧で向上の余地あり。
技術的にも解釈的にもやや平凡な演奏という印象。
- フランソワ(EMI<67>)(7:14)×-△
出だしからテンポがかなり遅めで、リズムの癖も大きい。
同音連打部分もテンポ的にはこの盤がおそらく一番遅い(ただ、ここまで1音1音が明確に聴こえる演奏はなく、ここは却って面白いかも)。
技術的には一時代前のものという感じ。
世の中ではこれが名盤として通っているらしいが、私などはこの盤を最初に買ってしまったおかげで、この曲の魅力がなかなかわからなかった。
(実際、ラジオでたまたま別のピアニストによる演奏を聴いてこの曲の良さに気がついた。)
公平に言っても、最初に聴く盤にはお薦めできない。
未記入盤
- ペルルミュテール(Vox<55>)(5:59)
- Rozanova(HMF<2001>)(6:28)
- N.アンゲリッチ(Lyrinx<97>)(4:57)
- E.Himy(Ivory Classics<2002>)(6:12)
- 野島稔(Reference Recordings<89>)(6:38)
- A.タロー(HMF<2003>)(6:18)
- N.コール(Decca<2002>)(6:18)
- ラ・サール(naive<2002>)(6:29)(ブログ記事)
- シュフ(Oehms<2004>)(6:31)◎(ブログ記事)
- T.ホートン(Avi<2005>L)(7:12)2005年ルール・ピアノフェスティバルライヴ(ブログ記事)
- エッカードシュタイン(Avi<2006>L)(6:27)2006年ルール・ピアノフェスティバルライヴ(ブログ記事)
- バルト(Ondine<2006>)(7:23)(ブログ記事)
- シェフチェンコ(Delphian<2010>)(6:46)(ブログ記事)
- ヴィニツカヤ(naiive<2011>)(6:07)(ブログ記事)
- ハフ(Hyperion<2011>)(6:25)(ブログ記事)
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