リスト ノルマの回想S.394(ベルリーニ)
- G.ベルッチ(assai<2000>)(16:19)◎-○
ジャケット→
迫力や勢いの点ではウェイクフィールドやリャードフにやや譲るものの、表現のキメが細かく仕上げが丁寧。
技巧的にもすぐれている。
それでいてアムラン盤で感じられるような薄味さもないし、語り口の上手さというか、バスや内声の出し方などのセンスが随所に感じられる。
問題の最難所についても、リャードフほどの迫力、アムランほどのキレはないかもしれないが、それでも十分に合格点をあげられる。
(2回目の繰り返しで音量が小さくなるのは最初は逃げかと思ったが、確かに楽譜を見ると1回目はff、2回目はfである。)
前半の行進曲風部分も、(リャードフほどの躍動感はないものの)まずまずキビキビしている。
カットもないし、もちろんウェイクフィールド盤のような最難所などでの一発録りか?と思うようなミスタッチもない。
特に印象的なのは最後のストレッタのテンポの速さで、まさに最後の追い込みという感じがする。
ウェイクフィールド盤やアムラン盤はやや音質が大味なところがあるだけに、録音が良いのも嬉しいところ。
- V.リャードフ(fontec<94>L)(15:15)○-◎
'94浜松国際ピアノコンクールライブ。
出だしはゆったりとしているが、前半の行進曲風のAllegro decisoのところ(「おお、ドルイッド教徒よ、丘に登れ」の部分)ではテンポが速くかつ左手オクターヴ伴奏音型が飛び跳ねるようなスタカートで、これを聴くと他のCDがすべて物足りなくなるほど(楽譜ではここはスタカティッシモ指定だが、そう聞こえない演奏が多い)。
後半のクライマックスの最難所(「戦争だ!戦争だ!」の部分)の迫力とスピードもかなりのもの。(実はこの演奏は生で聴いており、まさに鬼気迫る感じであった)。
中間部の緩徐部分(「ああ!あの子供たちを」や「あなたがどのような心を裏切り」のところ)では遅めのテンポでじっくりと歌っており、基本的にはよく歌うピアニストである。
ライヴなので多少傷はある(例の最難所も1回だけミスって音が抜けている)がそれほど気にならない。
ただ残念なのは前半のAllegro部分の一部とコーダのストレッタ(sempre marcatissimoのところ)をカットしていること。
前半部分はともかくストレッタがないのはちょっと物足りない(本人の弁ではこの部分は'uninteresting, unnecessary'だそうだが)。
なお、私はCDではなくテープで持っているのだが、CDだと音がマイルドになってテープほどの迫力がなくなっているようである。
- ウェイクフィールド(Symposium<90>)○-◎(15:18)
良い意味でヴィルトゥオーソ的演奏。
歌い方、勢い、スピード感など解釈に関してはケチをつけるところがほとんどなく、この路線の演奏としては理想形と言えるかも。(別の路線としてはギンズブルクやDeveauのようなしみじみ路線がある。
前半のAllegro部分も左手がちゃんとスタッカートになっており、リャードフ盤のような躍動感があるし、緩徐部分も速めのテンポだが歌うツボは押さえている。
ただ全体的に仕上げが少し粗いというか、細部の完成度にやや難があるのが残念。
特に問題なのは「戦争だ!〜」の最難部分で、3回目の繰り返しでもテンポが落ちない加速感は相当なのだが、音が明確に出てないというか、多少ハズしているように聴こえる。(これ以外にもミスタッチと思われるところがところどころあって、スタジオ録音だと思うのだが、なぜ?)。
この部分だけアムラン盤と置き換えられれば…。
- アムラン(Music&Arts<91>)(16:46)○-◎
技術的に非常に整ったというか安定した演奏。
前半のAllegor部分はリャードフに比べるとややもっさりしているが、他のCDを聴くとこれがまあ普通なのかもしれない。
冒頭のAndanteや中間の緩徐部分の歌い方も淡泊な割にテンポが遅めで、アゴーギクなど個人的には何かしっくりこない(これはアムランの他のCDの緩徐楽章でもよく感じることだが)。
ただ最難所部分はテンポが速くかつ安定しており、スタジオ録音CDでは一番満足できる。
コーダのストレッタ部分もキレがある。
- ブレンデル(Vox>)(15:43)○
さすがに昔はリスト弾きで売っていただけあって(特別なキレというか凄みはないものの)技術的には安定している。
難所でもルバートでごまかしたりテンポが揺れることもない。
ダイナミズムとは無縁で淡々としているというか、落ち着いた演奏。
ケレン味というか、これみよがし的なところとがないのは好印象。それでいて最難所での技巧もまずまずで盛り上がりを見せている。
ただこれも残念なことに、最難所の少し手前の、12小節にわたって派手なアルペジオをバックに歌い上げる部分をカットしている(ここはリャードフのとは違って作曲者のカット可の指示があるところだが、やはりこれがないのは大いに物足りない)。
また全体にもう少し歌ってもよいかなと思う。
音質がかなり悪いのも惜しいところ。
- J.トーザー(Chandos<95>)(16:13)○-△
派手さはないが端正な演奏。
前半のAllegro部分もなかなか溌剌としている。
欲を言えば、緩徐部分などで音がやや硬い感じがして、もう少し音色の変化のような手練手管ががあってもよい。
後半の最難部もまずまず健闘しているが、両手が激しく交差する問題の3回目の繰り返しはこの部分の難しさがよくわかるような演奏と言ったらよいか。(それでも私的には許容範囲だが。)
それよりむしろその後のストレッタ部分が(内声をよく出しているのは良いのだが)ややモタモタしているのがもうひとつ。
- D.Deveau(Centaur<92>)(15:25)○-△
どことなく詩的な雰囲気が漂う演奏。ヴィルトゥオーソ路線とは一線を画す。
ただ技術的制約からか、ここぞという技術的見せ場でも(丁寧ではあるが)微温的というかおとなしく、そういうものを期待する人には不満が残るだろう。
前半のAllegro部分ではスピード感がいまひとつ(左手が交差するところなど)だし、後半の最難部も3回目の繰り返しがかなり安全運転なテンポなのは(仕方ないとは言え)はやり少しもどかしい。
(ブレンデルと同様にアルペジオ部分をカットしているのも残念。)
むしろ中間の緩徐部分での、声高にならない繊細な歌い方に惹かれる。
最後のストレッタでの内声(テノール)の歌い方もまずまず。
全体的に物静かな感じがするノルマで、その点では存在(希少)価値がある盤と言えるかも。
- ギンスブルク(Melodiya<52>)(15:07)○-△
音楽的で格調が高い。
ヴィルトゥオーソ的演奏は対極にある。
細かいデュナーミクや音色に気を使っており、なんでもないフレーズにもセンスを感じる(特に左手)。
緩徐部分の歌い方も大袈裟なところがなく、静かに歌う感じ。
ただし最難部分はテンポが遅い上に力強さもなく、ここははっきり言ってあまり盛り上がらない。
その直後の長調に戻って右手がスケール弾きながら左手で歌うところもやや機械的。
また(ブレンデルなどと同様)最難部分手前のアルペジオをカットしているのに加え、(リャードフと同じように)最後のストレッタもカットしている。
というわけで後半はちょっと残念。
- モチャーリ(Timpani<90>)(14:14)○-△
演奏時間最短だが、これは主に緩徐部分のテンポが速いことによる(急速部分も速いけど)。
そのため緩徐部分ではすっとばしていく感じがしないでもないが、一応歌っている。
アゴーギクがかなり大胆というかテンポが結構コロコロ変わり、こういう曲(回想もの)で自由度が大きいとはいえ少し気になる。
最難所部分ではテンポが速いのはいいが、苦しさからテンポが走ってリズムが寸詰まりになってしまうのはいだだけない。
もうすこし正確なリズムというか一貫したテンポ感がほしいところ。
全体的にやや雑というか弾き飛ばす感がある。
- ハワード(Hyperion<89>)(16:58)○-△
エチュードや真面目(原曲に忠実)な編曲物では細部の詰めの甘さと言うかいい加減さが気になるハワードだが、こういうテンポ設定やアゴーギクの自由度が多い曲は向いているみたい(ルバートでごまかしが効く?)。
多少荒さはあるが、よく歌い、豪快で盛り上げ方もうまい。
ただ難所ではやはり少しもたつく感じがある。
特に最難部分では(インテンポでは弾けないせいか)テンポがやや揺れる。
- カンパネラ(Philips<72>)(16:06)△-○
(私の中では)あまりテクニシャンという印象はないカンパネラだが、この曲ではツボを押さえた表現で思ったより健闘している。
表現の起伏が大きく、アゴーギクなどはややもすると少しもったいぶった感じもするが、迫力はある。
最難部分も音の分離がもう一つなもののテンポは速めで標準以上の出来。
ただ音楽作りがどことなく大味で、もう少し繊細さや洗練された感じも欲しい。
(省略可になっている)アルペジオのところの歌い方もやや機械的でイマイチ(ここはたっぷり歌って欲しいところ)。
コーダではやっぱりストレッタ部分をカットしている(こうしてみるとここをカットする人は結構多い)。
- シェパード(EMI<82>)(16:19)△-○
全体的には悪くないのだが、もうひとつ打鍵などが洗練されていない印象。
緩徐部分で歌うときの伴奏音型がややおざなりでセンスに欠ける(うまく歌うには旋律部分だけでなく伴奏も鍵だと思うのだが…)。
また最難部分ではテーマを繰り返すたびにどんどん音が小さくなっていくのははっきり言ってヘン(安全策か?)。
コーダのストレッタ部分もやや苦しいというかぎこちない気がしないでもない。
- J.ナウマン(Newport Classics<96>)(18:57)△-○
全体的にゆったりしたテンポでたっぷり歌っている。
その歌い方はなかなかよい(特に左手)のだが、急速部分では技術的な問題からかテンポが上がらずもっさりした感じになるのが残念。
特に最難部は聴いていてもどかしい。
また中間の緩徐部分はさすがにテンポが遅すぎる感がある。
緩徐部分ではセンス良く歌い、急速部分(技巧的見せ場)は鮮やかに料理する、そんな演奏はなかなか難しいものである。
- グラント(Altarus<93>)(19:10)△
技巧的なキレはないものの誠実・真面目に弾いている。
そういう意味で個人的には好感の持てる演奏姿勢なのだが、テンポが全体的に遅くかつ一本調子で面白みに欠ける。
特に緩徐部分はかなり遅いテンポなのでちょっとダレ気味。
リズムが弾まず「重い」感じがあり、デュナーミクの幅も狭い。
最難部分でもテンポが揺れないのはいいのだが…。
最初にこのCDを聴いたらノルマの回想の面白さがまったく伝わらないのではないかと危惧しないでもない。
未記入盤
- Plessis(Pavane<92>)(17:55)
- 永岡信幸(Live Notes<2003>)(16:09)
- D.ワイルド(EMI<68>)(16:50)
- J.ハット(CACD<95>)(19:10)(ブログ記事)
- ブロッホ(accord<88>)(18:49)(ブログ記事)
- J.ウレーン(SR Records<2004>)(20:42)(ブログ記事)
- ゴールドストーン(Divine Art<2008>)(17:04)(ブログ記事)
- モーグ(claves<2008>)(17:03)(ブログ記事)
- Maltempo(Gramola<2008>)(17:27)(ブログ記事)
- ウォルフラム(Naxos<2009>)(16:39)(ブログ記事)
- Gallo(quartz<2012>)(17:55)
- Viner(Piano Classics<2016>)(17:49)○-◎
- Filipec(Goran Filipec Productions<2012>)(16:16)○-◎
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