リスト パガニーニによる大練習曲S.141(1851)
- ラエカリオ(Ondine<91>)(4:36/4:49/4:17/1:54/2:23/5:01)◎ ジャケット
どの曲もテンポが速いが鮮やかに弾き切っており、爽快。勢いがあり、表現の振幅やダイナミックレンジも広く、良い意味でヴィルトゥオーソ的演奏。第6番が特にテンポが速く、すっとばしていく感じもあるがちゃんと弾けているのがえらい。全体的に(ちょっと強引なところもあるけど)欠点が少なく、個人的には超絶技巧練習曲におけるオフチニコフ盤のようなレファレンス盤的位置を占めている。
- クレショフ(Philips<93>)(4:48/4:45/4:13/1:53/2:48/5:32)○
'93クライバーンコンクールライヴ。ライヴのせいもあるのか全体的にラエカリオ盤よりさらに身振りが大きく、いわゆる「聴かせる」演奏。技巧にはキレがあり、左手を強調するなど小細工もある。終わったときはブラヴォーの嵐であるが、そういう「ウケ」る要素が多い演奏なので聴衆の気持ちもわからないでもない。傷がちょっと多め(2番では目立つところではずしている)なのが残念。ちなみこのとき彼は第2位。
- ワッツ(EMI<85>)(4:54/6:11/4:31/1:57/3:14/5:51)○
演奏自体は悪くないのだが、録音(or楽器?)のせいか音に芯がないというかLisztらしい深々とした響きに欠ける感じがして、そこらへんがやや不満。演奏はバリバリ弾くというよりは全体に軽めのタッチで軽快な感じ。ただしテンポは全体に遅め。(実はこのCDは人にあげてしまって手元にないので昔聴いた印象で書いている。今聴いたらまた違うかも。)
- Y.Didenko(Vista Vera<95>)(5:36/5:32/4:54/2:25/3:16/5:50)○
ラエカリオのような華麗さやヴィルトゥオーシティはないが、堅実で安定した技巧を聴かせる。
特に音が良いのが魅力的。1音1音がよく鳴っていて、和音にも深々とした豊かな響きがある。
表現も正統的でケレン味が少ない(やや微温的な感じもするが)。
中でも第6番がよい出来。基本的が技術がしっかりしている感じ。
全体的にこれでもう少しスピード感があればさらによい(時々なんとなくもたついた感じがするのが惜しい)。
- マガロフ(Philips<61>)(4:21/4:09/4:39/2:02/2:54/5:07)○
録音のせいか、乾いたタッチで清潔感のある演奏。
ダイナミックレンジ等の表現の起伏は少ないが、音の粒がよく揃っている。
特に第4番などは針の先でつついたような繊細なタッチが印象的。
第6番がやや技巧的な鮮やかさに欠けるのが惜しい。
なお、弾いている稿が通常のものと少し違う(ただしジャケットにはS.140と書かれているが基本的には1851年版である)。
4番や5番(1838年版を一部取り入れている模様)などはこちらの方が変化があって面白い。
- Merzhanov(Melodiya>)(5:06/4:52/4:55/2:04/2:45/5:14)○-△
録音年は不明だが古いことは確かで音はイマイチ。演奏はそんなに悪くないだけにそこが少し残念。演奏はオーソドックスかつ適度のヴィルトゥオーシティがあり、技巧も安定している。ただラ・カンパネラはテンポの変化が大きく(最後は盛り上がるものの)ややもったいぶった感じがしないでもない。3番で最初の音だけ変に伸ばすのは(個人的には)ちょっと違和感がある。
- ワッツ(CBS<70>)(5:00/5:32/4:21/2:00/3:15/5:43)△
どの曲も技術的に不満が残る。
細部の詰めが甘い。適当なところで妥協しているというか、多少ごまかし気味のところもある。
'85年のEMI盤の方が技術的に洗練されているというか、少なくとも丁寧である(EMI盤が手元にないのではっきりは言えないが)。
解釈的にもリズムがややdullでピシッとキマっていない感じがある。
- ケントナー(Vox>)(4:46/5:43/5:06/2:15/3:21/5:19)△
良く言えば落ち着いて淡々としているが、素直に言えばスピード感、迫力に欠ける。1番ではクライマックスの普通はアチェレランドして畳み掛けるところでテンポが上がらないし、2番では中間部のオクターヴのところが(piu animatoなのに)安全運転すぎるテンポで盛り上がりに欠ける。技術的にはハワードのような危なっかしいところなくまずまず安定しているのだが、鮮やかな技巧と言う感じではない。音はMerzhanov盤と同様、よくない。
- ダルレ(EMI<70>)(4:18/5:08/4:42/2:04/2:42/5:04)△-×
1番、タッチがやや硬く、もう少し柔らかさが欲しいところ。クライマックスでは技術的に苦しさが見える。
2番は両手で降下する部分のクリアさ、キレがもうひとつ。
3番は堅実だが華麗・洗練という感じにはほど遠い。
4,5番はこの中ではマシな方か(それでも多盤に比べて優れているというわけではないが)。
6番も健闘はしているが、ラエカリオ盤などを聴き慣れていると、細部での危うさ、ぎこちなさの方がどうしても気になってしまう。
全体的に技術的にも音楽的にも美点があまり見い出せない。
- ハワード(Hyperion<97>)(5:06/5:16/4:38/2:19/3:11/5:31)×
1番はタッチが生硬で流麗さに乏しい。2番は細かい音型がやや曖昧で(特に両手一緒に弾くところ)、中間部は何ともテンポがスローでのんびりしている。3番や4番ではスタカートのタッチがぎこちなく安定性・均一性に欠ける。6番も変奏によっては技術的苦しさが見えてしまう。雰囲気で弾く(?)で弾く傾向があるハワードだけに、こういうキッチリ弾かなければいけない曲ではさすがにアラが目立つ。
- P.モス(Centaur<94>)(5:21/5:52/5:21/2:27/3:21/6:27)×
全体的にテンポが遅めで、その分丁寧に弾くことを心がけているようであるが、それでも技量不足が露呈してしまうのはつらい。
1番など技術的制約からかクライマックスでアッチェレランドせず盛り上がらないこと甚だしい(好意的に解釈すれば己の技量を良く知って、ある程度余裕をもって弾けるテンポをとっていると言えるが)。
2番も丁寧の上にバカがつきそうであり、技術的には音コンの予選でももっと上手く弾くのがゴロゴロいそう。
3番以降も同様。さすがに丁寧さと誠実さだけでは全曲聴き通すには忍耐が要る。
未記入盤
- グラフマン(RCA<59>)(4:49/4:29/4:14/1:51/3:07/4:57)
- 大井和郎(Deutsche Schallplatten<2000>)(5:44/6:09/5:05/2:14/3:15/6:22)
- ブレンデル(Vox<59>)(4:40/5:39/5:02/2:10/3:16/5:14)
- アムラン(Hyperion<2002>)(4:36/5:12/4:42/2:00/2:53/4:58)
- M.ポンティ(Meridian<86>)(4:22/4:48/4:18/1:53/2:34/4:40)
- J.ローズ(Vox<77>)(4:23/5:15/4:14/2:12/2:51/5:38)
- M.Pasini(Dynamics<2000>)(4:37/5:07/4:58/2:06/3:02/5:34)
- ルバッキーテ(Lyrinx<96>)(4:38/5:53/4:52/2:03/3:15/6:13)
- ラザリディス(Linn<2006>)(4:22/5:02/4:50/1:58/2:43/4:53)(ブログ記事)
- クレショフ(VAI<2005>)(4:59/3:48/4:31/2:08/3:15/5:28)(ブログ記事)
- 高田匡隆(fontec<2009>)(5:52/6:03/5:34/2:15/3:23/6:12)(ブログ記事)
- バルトリ(Brilliant<2011>)(ブゾーニ版)(5:40/5:29/5:07/2:19/3:49/5:56)(ブログ記事)
- Filipec(Naxos<2015>)(4:30/5:10/4:28/2:12/2:53/5:27)◎
- トリフォノフ(DG<2015>)(5:13/5:28/4:51/1:53/3:00/4:58)
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