ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」
- レーゼル(Deutsche Schallplatten<71>)(29:48)◎
ジャケット→
大きな特徴や個性があるわけではないが、いわゆる王道を行く演奏。
レーゼルというと真面目だがやや堅い演奏というイメージがあるのだが、この曲では音が深々としてがコクがあるし抒情性も感じられる。もちろん技巧的にも緻密で隙がない。
また勢い任せというかパッションが過ぎて荒々しくなったり悪趣味に走ったりしないのがよい。
もともと個人的にこの曲に対してはスケールの大きさとかオーケストラ的な響きよりも、むしろ純粋にピアノ曲的な端正さ、均整の取れた美しさを求めているので、その意味で私の理想形に近い。
録音も'71年とは思えないほど良い。
個々の曲でいうと、雛鳥の踊りやババ・ヤーガが秀逸。
- ワイセンベルク(EMI<72>)(30:57)○
機械のように揺るぎないテンポ、曖昧なところは微塵もないエチュードを聴くような演奏(そういう意味では正にワイセンベルクの面目躍如)。でも、もっと音楽的なコクやファンタジーを求めるような人には向いてないかも。
ビードロでは左手の伴奏音型をスタカート気味に鳴らすのが面白い(楽譜ではテヌート)。
キエフの大門の途中(47小節目から)のオクターヴで駆け巡るところも、テンポを上げてまさに一気呵成という感じで爽快。
またラストのところでも少し改変を加えている。
- デミジェンコ(Hyperion<97>)(34:00)○
解釈も正統的、技巧にもキレがあり、模範的演奏。スマートという言葉が似合う。コンクールなら満点を取りそう。ただ個性的な「展覧会の絵」ばっかり聴いていると「なにか物足りないなぁ」と思わなくもない。全力を出し切るのではなく、常に余力を残しているような演奏。
- オフチニコフ(Collins<90>)(33:30)○
やはり正統的な解釈で、デミジェンコをさらに真面目で重厚にしたような演奏。崇高さも漂う。もちろん技巧的には抜かりはない。でも、数多い「展覧会の絵」からどうしてもこれ、という魅力には欠けるかもしれない。
- ムストネン(Decca<91>)(31:44)○
技巧のキレというか、細部の磨きが尋常でない。特にレジェロ系というかスケルツァンド系の曲がよい(「ひな鳥」の中間部のトリルの几帳面なこと!)。彼独特のアゴーギク(一瞬溜めをつくったり、テンポを意図的に微妙に揺らす)がちょっと気にならないでもないが。思わぬところでスタカートを入れたり、アーティキュレーションにも工夫が多い。個性や強く現れたという点で好悪が分かれる演奏だと思うが、私はまあ好きである。とにかく彼の独創性というか才気煥発なところがよく出ている。
- リヒテル(Melodiya<58>)(30:26)○
全体的に速めのテンポですっとばしていくところが気持ちいい。でも音楽的であり、テクニックもまずまずで悪くない。特に最後の2曲は出色。全体的には細部に凝るというよりは音楽の流れを大切にした感じ。その分、現代の基準から見ると細部で技術的にやや曖昧なところがある(特に「ひな鳥」や「市場」のようなスケルツァンド系の曲)。なお、同じ年に有名なソフィアライヴの録音もあるが、試聴した限りではこの演奏をさらに荒っぽくした感じで(したがって傷も多い)、あまり感心しなかった。
- プレトニョフ(Virgin<89>)(35:16)○-△
プレトニョフらしく、解釈・表現に個性がかなり出ており、人によって好悪が分かれそう(私はあまり好きではない)。全体的に遅めのテンポだが、デュナーミクやアゴーギクなどの表現の振幅が大きい。細部でもう少しきっちり弾いてほしいところもある(恣意的?なテンポの揺れが結構ある。キエフの大門の鐘の音がワンテンポ遅れて入るのはワザとだろうか…)。彼の編曲も少し入っているが、ホロヴィッツのようなやりたい放題ではなく、ちょっとした薬味といった感じ。しかし重低和音を増強したキエフの大門の迫力は特筆もの。なおラヴェル版と同じく「リモージュの市場」の前のプロムナードを省略している。
- ホロヴィッツ(RCA<47>)(29:33)○-△
例によってホロヴィッツの編曲がかなり入っており、半ば別の曲だと思った方がいいかも(特に最後の2曲)。テンポは割と落ち着いているが、音の迫力というか、重低音が凄い。が、洗練されているとは言い難くあまり私の趣味ではない。録音はヒスノイズが結構大きい。これもラヴェル版と同じく「リモージュの市場」の前のプロムナードを省略している。
よく言われることだが、ムソルグスキーのピアノ原曲を弾いているというよりも、ラヴェルによるオケ版のピアノ編曲版と言った趣である。
- エコノム(Suoni e Colori<83>)(30:22)○-△
伸び伸びとしたタッチに勢いがあり、技術的にも悪くないと思ったのだが、ババ・ヤーガがいけない。
エネルギッシュではあるがテンポがコロコロと変わり、ややコントロールを失った感がある。
全体的に速めのテンポで(アタッカのように間髪を入れずに次の曲に進むこともある)、特にビードロなどは少しせわしない感じもしないでもない。
また録音のせいかピアノの音がやや金盥サウンドになっているのが残念。
- ブレンデル(Philips<87>)(32:35)○-△
落ち着いたテンポで淡々と弾いていく。スタティックな演奏というか、あまり過激なことはしない。こういうのを世間では「滋味豊か」とか「円熟味」とか言うのだろうなと思いつつ、疲れたときに聴くのにはいいのかもしれない。(そもそも疲れたときに「展覧会」を聴きたいとは思わないか…。)技術的には無理をしないせいか、かなり安定している。でもキエフの大門のおとなしさというか迫力のなさはやっぱり物足りないか…。
- ブレンデル(Vox<55>)(30:55)△
若い頃の演奏らしく、後年のPhilips盤に比べると細かいことはあまり気にせずに一気に弾いたという感じ。その分技巧がキレているとか溌剌としているとかあればいいのだが、それほどでもない。録音がイマイチのせいもあるが、打鍵もやや乱暴だし(フォルテなどで叩き付けるように聞こえるところがある)、細部の仕上げもまだまだという印象。ビードロではモヤのかかったようなpで始めて途中でテンポを唐突に変えるなど解釈が少し変わっているが(ちなみにPhilips盤では普通に弾いている)、あまり成功しているとは思えない。
- カッチェン(Decca<50>)(29:46)△
出だしでは思ったより冷静な演奏かと思ったが、曲が進むにつれてやはりカッチェンらしさというか、ヴィルトゥオーソらしさ(必ずしもいい意味ではない)が出てくる。「市場」など細かい指の動きが要求される曲ではしばしばテンポが走るし、それ以外にも恣意的な(音楽的説得力のない)テンポの変化がかなりあり、(速いところはオヤっと思わせるものの)あまり感心しない。
- ダグラス(Melodiya<86>L)(32:13)△
'86チャイコフスキーコンクールライブ。全体的にやや荒っぽい演奏。ライヴだからある面しかたないが、強弱や緩急の変化を大きくとった(しかもやや不自然)「ウケ」狙いの表現が多いような感じ。優勝したくらいだからそれがよかったんだろうけど…。後に入れたスタジオ録音ではそういう面が改善されているのかもしれない(聴いてないのでわからない)。技術的にはまあ普通。
未記入盤
- 赤松林太郎(虹工房<96>L)(31:29)
- M.ルディ(Calliope<85>)(31:27)(ブログ記事)
- ティエンポ(EMI<2005>)(30:27)◎(ブログ記事)
- リベッタ(VAI<2003>)(37:04)(ブログ記事)
- ギルトブルグ(EMI<2005>)(33:53)(ブログ記事)
- オールソン(Cesky Rozhlas<74>L)(29:04)(ブログ記事)
- F.ケンプ(BIS<2006>)(32:54)(ブログ記事)
- アンスネス(EMI<2008>)(31:59)(ブログ記事)
- ブニアティシヴィリ(Sony<2015>)△
[CD聴き比べ][HOME]