プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番ハ長調Op.26
- バルトー/A.デイヴィス/ロンドンpo.(EMI<88>)(9:05/10:03/9:42)◎-○ ジャケット
歯切れよく力強いタッチがプロコフィエフ向きである。それでいて緩徐部分では抒情性豊か。強弱、緩急等の表現の幅も大きく(やや極端に走るきらいはある)、ただバリバリ弾くだけでなくよく考えている感じがする。第2楽章の第3変奏がモッサリしているのは気に入らないが、最終変奏でのダブルオクターヴの迫力はたいしたもの。終楽章でもAllegro主題での打鍵の力強さと、piu mossoになってからスピード感が秀逸。録音がオフマイク気味でピアノがちょっと引っ込んでいるのが残念(これが自然なんだろうけど)。
- アルゲリッチ/アバド/ベルリンpo.(DG<67>)(8:55/9:00/8:57)◎-○
彼女の十八番の曲だけに、技巧的にも音楽的にも文句をつけるようなところはあまりない。解釈は正攻法で小細工や凝ったところはなし。考え抜いたというより、自分の感性のままに弾くという感じ(偏見かな?)。そこが(私の好みと違って)物足りないと言えば物足りないところだが、でも豪快な技巧は魅力(特に終楽章)。ただスタジオ録音のせいかライヴ盤に比べるとどこか抑え気味である。また録音がイマイチなのか綿でくるんだような音(ヌケがよくない)なのが惜しい。
- アルゲリッチ/シャイー/ベルリンpo.(Artists<83>L)(8:40/9:20/8:55)◎-○
スタジオ録音に比べると(録音が良いせいもあるが)出だしから一段とノリがよく、自由闊達で(ちょっとノリ過ぎのところもあるが)、まさに水を得た魚のよう。興に乗っているようで、ライヴというのは彼女に合っているのだな、と思う。第2楽章などの緩徐部分での弱音もニュアンスたっぷりで美しい。ただライヴだけに(傷とまでは言わないものの)スタジオ録音だったらきっと録り直しただろうな、と思うところも多少ある。
- トラーゼ/ゲルギエフ/キーロフ歌劇場so.(Philips<96>)(9:40/10:25/10:28)◎-○
左手を強調するなど工夫(小細工)というか凝った表現が多く、なかなか面白い。タッチもしっとりとした潤いがあり、ここぞというところでは強さもある。第1楽章再現部での両手の16分音符のユニゾン音型ではスピード、キレがあり、ここは特筆もの。第2楽章も落ち着いたテンポで丁寧。相変わらず小細工は多い。ただ最終変奏はややモタモタした感じがして、テンポも少し不安定。終楽章出だしは遅めのテンポで、さすがにもったいつけ過ぎな感じ(piu mossoになっても遅い)だが、終盤では普通のテンポに戻り、ここからは悪くない。やはり左手の音に異様にアクセントをつけるなど、ちょっと変わっている。全体的に丁寧かつ表現が練られており、普通のストレートな演奏に飽き足らない人にはおすすめ。
- ベロフ/マズア/ライプツィヒゲヴァントハウスo.(EMI<74>)(9:26/9:01/9:21)○
1音1音かみしめるような明晰なタッチで、テンポも落ち着いている。オケをグイグイ引っぱるのではなく、その逆で若干遅れ気味になる感じで、慌てたところがないのだが、そこがややのんびりしているというか、重い感じを受けないでもない。終楽章ではスピードも多少出てきたが、その分タッチの明晰性が失われた感もある。第1楽章では第1主題に出てくるトリルを強調(クレッシェンド)するのが印象的。
- デミジェンコ/ラザレフ/ロンドンpo.(Hyperion<95>)(9:32/9:28/9:52)○
いつものデミジェンコらしくソツなくまとめている。技巧のキレや迫力、スピード感はそれほどでもないが、表現にコクがあり、技術的にも安定している。第2楽章では各変奏ごとの変化のつけ方がうまい。1つの1つのフレーズが音楽的に弾かれていて、コンクールだったら審査員に受けがいいだろうな、と思う。終楽章も打鍵が力強く、それでいてうまく力をコントロールしていてスマートな感じがする。ただ、どこか優等生的で食い足りない感じが残るのも確か。
- プロコフィエフ/コッポラ/ロンドンso.(Pearl<32>)(8:20/7:40/8:31)○
音は悪いし、技術的にもいいところなく、普通のピアニストの演奏であれば箸にも棒にもかからないところだが、自作自演ということで作曲者の解釈が聴けるのが興味深い。第1楽章は第2主題で(直前のob,clでのテンポを無視するように)さっさと先に進む。第2楽章第1変奏では盛り上がりの右手の分散和音のところでかなりテンポを速める。第2変奏は途中の腕を交差するところだけ急激にテンポが落ちる(これは技術的問題?)。第3変奏は超ハイテンポ。この変奏を落ち着いたテンポで弾く人がいるが、作曲者の意図とは違うようである。最終変奏は終始アッチェレランドしていく感がある。終楽章は中間部(緩徐部分)がそれほど遅くなく、今のピアニストがやったら素っ気ないと思われそうだが、私もこのくらいの速めのテンポの方が好きである(一体に現在の演奏は緩徐部分でテンポを落とし過ぎるというか、感傷的になりすぎるきらいがあると思う)。Allegroのところも部分部分でテンポが結構変わるが、これは技術的問題からきているのだろう。
- アシュケナージ/プレヴィン/ロンドンso.(Decca<75>)(9:43/9:13/9:36)○-△
全体的に落ち着いたテンポで技術的には安定しているのだが、角がとれたというか、リズムや打鍵の鋭さに欠ける印象がある。その分、緩徐部分などは語り口のうまさを見せるのだが、やはりそれだけでは物足りない。ただ終楽章終盤のAllegroでのスピードとキレはなかなかのもので、最初からこれくらいやってくれれば、と思う。その前の中間部の緩徐部分では内声のメロディーをぶつけるように弾くのはちょっとデリカシーに欠ける。
- グティエレス/ヤルヴィ/ロイヤルコンセルトヘボウo.(Chandos<90>)(8:56/8:54/9:18)○-△
ピアノの音が大きく録られているせいか全体的に元気がいいのだが、その分やや大味な感じがして、もう少し細部までキチッっとしていてもよい気がする。技巧は派手さはないが堅実で安定している。ただ、ときどき微妙にテンポが揺れるところがある。終楽章では出だしのテンポがかなり速くて期待を持たせるが、piu mossoになって逆に少し遅くなるのはやや違和感。
- キーシン/チスチャコフ/モスクワpo.(Melodiya<85>L)(9:27/9:12/9:26)○-△
打鍵がややひ弱というか微温的な感じがするが、13歳のときの演奏であればしかたないところか。それでもキーシンらしいピチピチした張りのあるタッチやリズム感の良さもときどき見せる。緩徐部分での歌い方はこの頃から堂に入っている。演奏は尻上がりに良くなっていく感じで、特に終楽章はひ弱さも感じさせず、ここだけなら十分推せる。テンポは落ち着いていて冷静、アーティキュレーションも明確でライヴにしては完成度が高い。
- キーシン/アバド/ベルリンpo.(DG<93>L)(9:27/9:12/9:26)△-○
同じく新旧2種の録音があるピアノソナタ第6番と同様、こちらも新盤の方が妙に落ち着いていて、キーシンらしい溌剌とした感じが乏しくなっている(特に第1楽章)。反応が鈍いと言ったらいいか。そういう意味で平凡。第2楽章は曲想から、その落ち着きがいい方に働いている感じもするが。魅力の点では85年盤の方に魅かれる。
- アルゲリッチ/デュトワ/モントリオールso.(EMI<97>)(9:39/9:39/9:47)△-○
第1楽章の出だしのキレのあるタッチはいつものアルゲリッチという感じだが、そのあと(第1主題後半)の和音連打のところでテンポがちょっと落ちて、アレっと思う。展開部の緩徐部分もかなりゆったりと歌うようになっている。再現部では再びキレが戻る(crispyなアーティキュレーション)が、畳み掛けるような迫力は少なくなったかも。第2楽章も同様。全体的にテンポが遅くなり、特に第3変奏は重くなった。終楽章も丁寧で落ち着いてはいるが、アルゲリッチらしい奔放さ、豪快さが減ったように思える。コーダで微妙にテンポが落ちるところがあるのも気になる。
- ワイセンベルク/小沢征爾/パリpo.(EMI<70>)(8:41/9:23/9:46)△-○
第1楽章Allegro部分のテンポが猛烈に速く、かつワイセンベルクらしい歯切れの良い、やや機械的なタッチで、その意味では面目躍如と言っていいかも。ただ、ときどき(オケを無視するかのように)先へ先へと進むところがある。特に終楽章の終盤はオケと息が合っていないというか、ピアノが唯我独尊的テンポ(の揺れ)をとるためオケがアワ食っている感じ。どうして録り直しをしなかったのか不思議に思うほど(ちなみにこの後彼らの共演盤はないそうである)。第2楽章の最終変奏はワイセンベルクにしてはモッサリしていて迫力不足。
- カペル/ドラティ/ダラスso.(RCA<49>)(8:12/8:06/8:42)△
出だしのテンポが速く、推進力があってアルゲリッチのようにノリがいいが、和音連打のところで減速するのはちょっと興ざめ。その後もまさにヴィルトゥオーソ的演奏で熱気が伝わってくる(再現部の見せ場では腕が鳴ってしかたないという感じ)のだが、勢い余ってテンポが走りがちになるところもある。そういう意味で完成度はあまり高くない。終楽章は一転、遅めのテンポだが相変わらずテンポの揺れがあって、ワイセンベルク的になってくる(そこまでひどくないが)。ライヴでもないのにどうしてこう興奮した演奏になるのかちょっと不思議。
- ジャニス/コンドラシン/モスクワpo.(Mercury<62>)(8:56/8:56/8:57)△
1音1音の打鍵に力が入っているが、その分ゴツゴツしているというか、洗練されていない感じがする(タッチが十分にコントロールされていないと言ってもいいか)。第2楽章では最終変奏の後半のpのスタカートでの連続和音のところがいかにも不安定。終楽章の終盤Allegroのところは妙に力が入って、リズムが重いこともあってちょっと野暮ったい。
- グラフマン/セル/クリーヴランドo.(CBS<66>)(8:52/9:28/9:32)△
技術的に冴えてない。第1楽章では細かい走句でやや明晰性に欠ける(モヤモヤした感じ)ところがあるし、第2変奏は慨してスピード不足。特に最終変奏は打鍵に力強さもなく、ぎこちない。終楽章も全体的に微温的で、後半のAllegroも技巧的な非力さを感じる。
未記入盤
- K.W.パイク/Wit/ポーランド国立放送so.(Naxos<91>)(9:24/9:27/9:34)
- ペナリオ/ゴルシュマン/セントルイスso.(EMI<53>)(8:31/8:19/8:33)
- クライネフ/キタエンコ/フランクフルト放送so.(Teldec<92>)(9:00/9:49/9:12)
- フランソワ/ロヴィツキ/フィルハーモニアo.(EMI<63>)(9:50/8:39/9:34)
- アンスネス/Ruud/ベルゲンpo.(Simax<89>)(9:18/9:49/10:04)
- プレトニョフ/ロストロポーヴィチ/ロシア国立o.(DG<2002>)(9:53/9:03/10:35)
- アニクシン/D.ヤブロンスキ/ロシア国立o.(Bel Air Music<2001>)(9:14/9:20/9:56)
- ジャッド/ラザレフ/モスクワpo.(Chandos<78>L)(8:23/8:45/8:54)'78年チャイコフスキーコンクールライヴ
- エル=バシャ/大野和士/Monnaie so.(Fuga Libera<2004>L)(9:00/8:39/9:36)
- マルシェフ/Willen/South Jutland so.(danacord<2001>)(10:08/10:04/10:25)(ブログ記事)
- F.ケンプ/リットン/ベルゲンpo.(BIS<2008>)(9:37/9:36/9:52)(ブログ記事)
- ムストネン/Lintu/フィンランド放送so.(Ondine<2015>)(9:49/8:59/10:05)
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