プロコフィエフ ピアノソナタ第7番Op.83
- ポリーニ(DG<71>)(7:29/6:10/3:13)◎-○ ジャケット
模範的演奏。特に終楽章がよい。かなり速いテンポながら正確にインテンポをキープし、かつ打鍵にも余裕がある(苦しさを見せず、また勢いまかせにならない)。第1楽章も技術的にはもちろん文句をつけるところはないのだが、主題の音型をレガート気味に弾くのが私の趣味と違っている。速めのテンポながら流れるような技巧で、淀むところが全くない。安定感抜群。細かいところでは(主に解釈の面で)もう少しこうしてくれたら、と思うところはあるが、総合的には一番欠点がない。
- グレムザー(Naxos<94>)(8:43/6:51/3:18)◎-○
第1楽章は主題がノンレガートで歯切れがよく私好み。無機的で冷徹な感じがよく出ており、かつメリハリもある。ただ第2主題(や第2楽章)のような緩徐部分はテンポは遅く、その遅さに内容がついて行かない(「聴かせる」要素に乏しい)感じがして盛り上がりに欠けるきらいはある。第3楽章もタッチが明晰で、スピード感、技巧のキレも十分。ただ特に終盤の技巧的難所でポリーニほどは打鍵がコントロールされていない。
- グールド(CBS<67>)(8:19/7:36/3:22)○-◎
グールド特有の乾いて歯切れのよい、しかも暖かみのある音が魅力。特異な解釈はないが、冷静、知的でよく練られている。第2楽章は速めのテンポで始まり途中からだんだん遅くなってくるが、表現力というか音楽センスが感じられる。終楽章ではテーマで左手のオクターブの方が強調されるのが面白い(左利きだからかな)。ただ、最後の方の和音連打の手前で一旦ちょっとテンポを落とすのは(解釈なのかもしれないが)傍目には「逃げ」に聞こえるし、その手前の右手の大きな跳躍のところでちょっと間が空いてしまうのもちょっと気になる(これは多分技術的問題)。
- ヤブロンスキ(Decca<92>)(8:47/7:07/3:37)○
非常に整った演奏。スマートで技術的にも洗練されていて、(ドラムをやっているせいか)リズムも正確。ただ緩徐部分では音楽をややもてあまし気味の感がある。録音のせいか音色の点でやや魅力に欠けるのも惜しいところ。終楽章もいたって冷静。普通の人なら色気を出して特定の音を強調するなど小細工するのだが、そういうところがない。楽譜をそのままコンピュータへ打ち込んだらこんな感じになるのかと思わせるほど。無色無臭の演奏。
- オフチニコフ(EMI<93>)(8:13/6:58/3:46)○
これも整った演奏だが、ヤブロンスキほど無味乾燥な感じはなく、個性も感じられる。その代わり細部でわずかに欠点というか物足りないところもある。第1楽章はスピード感やリズムの推進力があってなかなか良い。ただ展開部の、右手が9度と4度くらいの交互の重音で素早く下降するところ(見せ場)が心無しかいまひとつぎこちない。第2楽章はオーソドックス。終楽章も遅めのテンポながら技巧は安定していて悪くないのだが、最後の方の例の右手跳躍のところで間が空くなど苦しさも見える。
- ラエカリオ(Ondine<88>)(7:59/6:54/3:00)○
出だしから畳み掛けるような迫力。熱気にあふれ、表情もたっぷり、まるでロマン派の曲を聴いているよう(ヤブロンスキと好対照)。たたテンポが揺れるところがあるのは少し気になる。終楽章はスタジオ録音では多分最速で、鬼気迫るような迫力を感じる。ただ、ここまで速く弾けるぞ、みたいで、解釈というよりは単に技巧を見せつけるために速いテンポをとっているように聞こえる(生で聴いたらさぞかしと思うけど)。途中でテンポが微妙に揺れるところもあるし、コントロールされているとは言い難い(「指に聞け!」型演奏に近い)。ライヴでこのような演奏になるのは不思議ではないが、スタジオ録音ではちょっと珍しい。
- アルゲリッチ(Galileo<>L)(6:51/4:24/3:04)○-△
かなり速めのテンポで、いかにもアルゲリッチらしい「天馬空を行く」ような演奏。録音のせいか音は軽くて乾いた感じだが、例によって1音1音の粒立ちが良く、音が「立って」いる。展開部の見せ場の重音での下降のところはさすがアルゲリッチという感じでメチャ速い。第2楽章も記録的に速いテンポ。先に進むにつれてテンポが速くなり、ほとんど回転数を間違えてかけたレコードのよう。終楽章も相当なスピードで打鍵も気力充実。ただ終盤など、細部に多少無理がきている感じのところもある。途中でテンポが揺れるところもあって、もう少し完成度が欲しいところ(ライヴなのでしかたないか)。傷もやや多い。
- アルゲリッチ(Hunt<67>L)(第3楽章のみ)(2:54)○-△
アンコールなので終楽章のみ。この楽章に関して私の知る限り最速の演奏。まさにprecipitato(猛烈に)を地で行くような演奏で、Galileo盤をさらに凄くした感じ。解釈とか完成度とか、そういう問題は超越したような、有無を言わせない迫力がある。傷もGalileo盤より少ない。Galileo盤とは対照的に響きが豊かであるが、いずれにしても音はよくない。
- ガヴリーロフ(DG<91>)(7:32/6:39/3:43)○-△
ダイナミックレンジが広く、打鍵に勢いがある。展開部のAllogro部分など、技巧的にスケールが大きい。ただ第2主題などの緩徐部分では(私と波長が合わないのか)あまり迫ってくるものがない。傾向としてポリーニの演奏に近い感じがするが、そこまでは整っていない感じ(逆に言えば個性が出ている)。終楽章はガヴリーロフらしく圧倒的な迫力でとばすのかと思いきや、腰のすわったテンポであわてない。ライナーで本人が書いているが、ことさら非人間的・機械的に弾いている感じ。ただ最後の方で気のせいかテンポが速まる感じがする(あるいは意図的かも)。
- チュウ(HMF<91>)(9:01/7:06/3:25)○-△
第1主題音型がノンレガートなのは私の趣味なのだが、テンポが遅めのせいかリズムがやや重い。音色やデュナーミクの変化をつけ、なかなか聴かせる。が、緩徐部分はかなり遅いテンポで、ちょっとやり過ぎというかもったいつけ過ぎの気がしないでもない。6番のソナタではキレだけで勝負していたのが、7番ではコクも重視している感じ。おかけでやや焦点が定まらない演奏になったかもしれない。終楽章も強弱や音色の変化が激しくて、表現意欲に溢れる。が、テンポまで少し変えるところがあるのは賛成できない。
- プレトニョフ(DG<98>)(9:11/6:41/3:36)○-△
第1楽章はかなり落ち着いたテンポ。特定の音にやたらアクセントをつけるなど、ややクセがある。1音1音よく考えているのだが、考え過ぎで生気があまり感じられない。解釈が普通とちょっと違うところなどはプレトニョフらしいのだが、それがあまり面白さにつながっていないようである。第2主題もかなりゆったりのテンポだが、強弱やアゴーギクの変化をつけないで、音色や響きに神経を使っている感じ。終楽章は調子が出てきている。遅めのテンポながら、機械のように正確とはこのような演奏を言うのかと思うほど最後までテンポが揺れず、また打鍵がコントロールされている。特に技術的に苦しさが出がちな終盤できっちりコントロールされているのが見事。
- ペトロフ(Melodiya<72>)(7:48/6:41/3:25)○-△
第1楽章はかなりノリがいい。ノンレガート主体のアーティキュレーションも私好みで気持ちがいい。例によって打鍵が鋭く力強い。ただ、力で押しまくる傾向があるため、やや聴き疲れがする感じがしないでもない(録音のせいもある)。しかし第1楽章展開部の重音下降部分の速さと迫力は特筆もので、ここだけでも聴く価値があるかも。第2楽章もダイナミックレンジが広く、ドラマティックな表現で盛り上げ方がうまい。終楽章はやや荒い。またテンポが部分部分によって微妙に揺れるところがあるのが気になる。
- リヒテル(Melodiya<63>)(7:59/6:10/3:30)△-○
第1楽章は軽快なテンポで推進力がある。解釈もホロヴィッツと比べるとだいぶ現代的というかドライになってきている。録音も古い割にはそれほど悪くない。ただ展開部でテンポが走るような感じがあるのが少し気になる。第2楽章もオーソドックス。終楽章も全体的に悪くないが、終盤が少し苦しくなっている。またグールドと同様、跳躍のところでかなり間が空く。最後の方は音が割れ気味になって聞き苦しい。
- K.W.パイク(Dante<92>)(8:14/6:43/3:07)△-○
録音のせいか、あるいは楽器のせいか、特に高音部で妙な音がする。演奏はスピード感があって悪くないが、タッチにデリカシーが欠けるというか、やや勢いにまかせる感じがする。第2楽章ももう少しタッチの繊細さ欲しい(これも録音のせいかも)。終楽章も同じだが、こちらはコントロールよりスピード重視路線を行っているようなので、ある面しかたがない。そのスピードを支える技巧は比較的安定しており、終盤の跳躍の苦しいところを除けば破綻なく弾き終えている。全体的に併録の6番ソナタよりはずっとマシになっている。
- マツーエフ(Sacrambow<98>)(7:58/6:22/3:16)△
馬力があってダイナミックな演奏。第1楽章は(併録のダンテ・ソナタと同様)抒情的な部分で非常にゆったり、急速部分では怒涛の攻めを見せる。ただ、その2つしかないのか?という感じもしないでもない。終楽章はその攻めの姿勢が悪い方に働いている。スピード感があるのはよいのだが、ところどころでテンポが瞬間的に走るところがあるし、終盤は明らかに走って(暴走気味?)抑えが効かなくなっている。(浜松コンのときも少し感じたが、彼は正確なテンポ感の点で少し問題があるのかもしれない。併録のダンテ・ソナタのようなテンポの自由度が高い曲ではあまり気にならないが。)全体的に勢いにまかせる感じがあり、個人的にはもう少しコントロールのきいた演奏を望みたい。
- プレトニョフ(Melodiya<78>)(8:33/6:59/3:42)△
第1楽章はDG盤に比べてリズムや打鍵に覇気があってずっと良い。第2主題での表情のつけ方も人間的というか自然である。第2楽章は例によって淡々としていながらも響きに神経を使っている。終楽章ははっきり言ってDG盤の方が上。目指す方向はDG盤と同じだと思うのだが、こちらは「機械のような正確さ」の点でまだツメが甘い。打鍵がよくコントロールされていないところがあるし、何よりテンポが揺れる(走る)ところがある。またテンポが遅くスピード感に乏しい(たった6秒差だが、それ以上に感じる)。
- ホロヴィッツ(RCA<45>)(8:16/5:23/3:44)△
出だしはゆったりしたテンポ、ペダルを使っていかにもinquieto(不安な)というかおどろおどろしい感じがする(が、私の好みではない)。テンポも全体に遅め。第2楽章は一転、速めのテンポで畳み掛ける。この楽章はやたらダラダラ演奏されることが多いのでここは好印象。第3楽章は意外と冷静。技術もまずまずしっかりしている。ただ途中で1箇所音を間違えて(と言うか、楽譜に忠実に前小節の臨時記号を次小節に持ち越さないで)弾いているところがある。(グールドの'62年盤でもそのように弾いているので、昔はそれが普通だったのかも。)またコーダでもなぜか右手の和音連打のところを1小節多く弾いている(実は第1楽章でも1小節多く弾いてるところがある。トッカータOp.11でもそういうことがあったし、ホロヴィッツの趣味?)。音は当然のことながらよくない。
- グールド(Nuova Era<62>)(9:52/6:13/3:38)×-△
音が相当悪い。テンポはかなりゆったりしていて、やや足取りが重い感じがする。CBS盤の方がドライで明晰な演奏なのに対し、こちらはテンポを微妙に揺らしたりペダルを多用したりと、'inquieto'の方を重視しているようである。第2楽章もアゴーギクをたっぷりつけているのはいつものグールドらしくないが、歌い方センスがあって、ここらへんはさすがである。終楽章はCBSよりテンポが遅めで、ややモッサリしている。完成度も高くない。またホロヴィッツ盤のところで書いたが、1カ所音が違っている。最後の方で大きくルバートをかけているのはCBS盤と同じ。
- ホロヴィッツ(RCA<53>L)(第3楽章のみ)(3:23)×
これもライヴのアンコールでの演奏。音を間違えて(?)弾いているのはスタジオ録音と同じ。テンポが揺れるしタッチも安定しない。特定の音をやたら強調するするのも単にウケ狙いのようで説得力があまりない。終盤に入ってアッチェレランドし、最後は圧倒的な迫力で終わるのはいかにもライヴらしい。が、少なくとも私には冷静なスタジオ録音の方がずっとよい。
- スルタノフ(Teldec<93>)(第3楽章のみ)(3:54)×
(本当は全楽章録音しているのだけど、サンプラーCDにたまたま入っていた第3楽章だけを聴いた。)かなり遅めのテンポでリズムが重く、指回りが取り柄(?)のはずのスルタノフなのになぜこのようなテンポをとったのかよくわからない。そのテンポもころころと恣意的に変わり、ちょっとついていけない。終盤の跳躍のところもぎこちなく間が空くし、その後もルバートでごまかすところがある。単に技巧が十分でないということか。
未記入盤
- マルシェフ(danacord<91>)(7:52/7:12/3:21)
- トラーゼ(EMI<86>)(7:47/6:28/3:40)
- アシュケナージ(Decca<67>)(8:24/6:03/3:33)
- フランソワ(EMI<61>)(8:06/5:48/3:22)
- P.ドミトリエフ(Arte Nova<2001>)(9:02/6:53/3:51)
- ニコルスキー(Arte Nova<91>)(8:25/6:50/4:18)
- F.ケンプ(BIS<2001>)(8:11/6:22/3:21)
- ガヴリリュク(Sacrambow<2003>)(8:37/7:48/3:27)
- F.Skoogh(Capriccio<98>)(8:02/6:23/3:08)
- スルタノフ(Teldec<90>)(8:28/6:12/3:54)
- ガヴリリュク(VAI<2005>L)(8:15/6:25/3:27)(ブログ記事)
- スルタノフ(Melodiya<98>L)(7:40/5:26/4:05)'98年チャイコフスキーコンクールライヴ(ブログ記事)
- マツーエフ(RCA<2007>L)(7:56/6:45/3:10)(ブログ記事)
- モーゼル(Oehms<2008>)(8:49/6:41/3:25)(ブログ記事)
- ヴィニツカヤ(naive<2008>)(7:52/6:26/3:29)(ブログ記事)
- マクダーモット(Bridge<2003>)(9:13/7:09/3:39)(ブログ記事)
- モーゼル(Brilliant Classics<2008>)(8:03/6:26/3:17)(ブログ記事)
- テベニヒン(Piano Classics<2011>)(10:41/7:49/3:57)(ブログ記事)
- コジュヒン(Onyx<2012>)(8:28/6:19/3:56)
- アルゲリッチ(Doremi<60>L)(7:45/5:22/2:58)
- アルゲリッチ(DG<67>)(7:19/5:19/3:07)
- Yakushev(Nimbus<2014>)(8:23/6:55/3:35)
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