プロコフィエフ トッカータOp.11
- アルゲリッチ(DG<60>)(4:04)◎-○ ジャケット→
スピード、キレ、迫力ともに申し分ない。当時「アルゲリッチ・トッカータ」と言われただけのことはある。音が明晰で張りがある。特にオクターヴ等の和音高速連打は彼女の得意技だけあって余裕。唯一残念なのが、8分音符についたトリル(曲中に4箇所しかないが、個人的にはこの曲を聴くときのポイントの一つ)があまりよく聞こえないところ。と言っても、(他の演奏を聴くと)これより遅いテンポで弾いていてもよく聞こえないことが多いけど。
- チュウ(HMF<94>)(4:09)◎-○
ダイナミクスの変化が大きく、しかも結構細かく変えるなど、表現意欲に溢れた演奏。スピードもあり技巧も十分キレている。普通ノンレガートで弾かれるべきところが(音の分離が悪くて?)レガートになってたりするが、それが却って味になっている。
個性的(かつ音楽的)な演奏で、アルゲリッチをストレートとすればこれはさしずめ変化球か。
- アンジャパリジェ(Naxos<95>)(4:16)◎-○
模範的演奏。録音のせいかややこぢんまりしているが、潤いのあるタッチで技術的にも洗練されている。
出だしは意外なほど静かに始まるが、ppという指定には確かにあっている(他の奏者ではmpくらいの感じで始まることが結構多い)。
速めのテンポだが揺れがなく、トリルもほぼ綺麗に決まっている(最初の1回だけはやや不明瞭かな)。
際立った個性や面白い解釈はないが、このような難曲をキッチリ完成度高く弾いている点で十分価値がある。
- ホロヴィッツ(RCA<47>)(4:00)○-◎
アルゲリッチと同じくストレートな演奏。録音はあまりよくない。が、(細かなニュアンスを聴くような曲でもないので)それほど気にならない。あまり細部に凝らないし、小細工もしない。トリルは(テンポはアルゲリッチとほとんと同じなのに)彼女よりよく聞こえるのはよい。
後半で左手の重低音を異様に強調しているのはホロヴィッツらしいところ(楽譜に指定はない)。また最後の右手オクターヴ連打をなぜか少し多く弾いている(ジャニスもそうしているが、そういう版があるのかな)。音さえ良ければアルゲリッチ盤に匹敵するかも。
- デミジェンコ(Hyperion<97>)(4:30)○-◎
標準的なテンポではあるが、アルゲリッチやチュウ盤などに続けて聴くとややのんびりした感じがしないでもない(続けて聴くのがまずいか?)。技巧は高度に安定かつ洗練されていて、どんな曲でもソツなくこなす才人デミジェンコらしい。後半では左手の重低音をホロヴィッツ以上に強調するのが面白い(ホロヴィッツのまね?)。それ以外にも細部の表現まで神経を使っていて、いつもながら完成度は高い。
- カツァリス(Teldec<75>L)(4:05)○
スピード感、推進力がある。打鍵に多少荒いところがあるが、逆に言えば迫力があると言えるかも。
それでもライヴにしては完成度が高い。
トリルもこのスピードにしてはかなり健闘している。
またホロヴィッツほどではないが後半では左手を強調している。ヴィルトゥオーゾタイプらしく聴かせどころを押さえた演奏。
- ヤンセン(Globe<89>L)(4:59)○
かなりのスローテンポだが、リズムは正確に刻まれ、ここまで確信的に遅いとかえって面白い。(昔、某大学のピアノサークルの演奏会である女性がこの曲を超スローテンポかつ機械のように正確なリズムで弾いていたことがあったが、それを思い出す。)テクニシャンでなくてもこういう風に弾けるという見本みたいな感じ。遅いテンポのせいでトリルも非常によく聞こえてうれしい(これほどはっきり聞こえる演奏は他では作曲者の自演くらい)。今後、この曲の上手い演奏CDがいくつも現れると思うが、それでもこれは特異な1枚として(私にとって)価値も持つだろう。ライヴとは思えない冷静な演奏。
- オフチニコフ(EMI<91>)(4:31)○
出だしの同音連打の粒が非常によく揃っている。その後の右手の16分音符の動きも明確(まさにmarcato)で、全体にオフチニコフらしい高度に安定した技巧が聞かれるのだが、ただ後半のffでの怒涛のような連続和音の部分はスムーズさの点で少し物足りないか。
またトリルも(このテンポにしては)あまりよく聞こえない。
- マルシェフ(danacord<95>)(4:10)○-△
マルシェフらしい冷静さというか、いつもながらの模範的・優等生的演奏なのだが、ダイナミックレンジの点などで少し微温的な感じがするのが正直なところ。
特に強音での連続和音の部分が弱くて少し迫力に欠ける(個人的にはここは思い切りぶちかまして欲しいところ)。
また最後のオクターヴ連打など連続和音でもう少しスピード感が欲しいところもある。
- B.ベルマン(Chandos<94>)(4:35)○-△
全体的にやや乾いた音で、そのせいかタッチがもうひとつ洗練されていない感じがするものの、テンポはよくコントロールされていて、技術的にはまずまず。
迫力とは無縁の演奏。
トリルはこのテンポにしてはあまりクリアでないか。
(ちなみにジャケットには演奏時間4:55とあるがこれは記載ミス。始めはヤンセンと同じくらいの時間なのに彼ほど遅く感じられなくて妙だと思った。)
- P.ドミトリエフ(Arte Nova<2001>)(4:52)△-○
ヤンセンほどではないがかなり遅めのテンポで1音1音を明確に出そうという路線。
メカニックは完璧というわけではないがまずまず安定していて、途中のトリルも(ヤンセンほどではないが)よく聞こえる。
ただテンポが微妙に揺れるところがあり、特に中間部(カノン風に始まるところ)は(意図的なのかもしれないが)明らにテンポが速まり、少し気になるところ。
- ジャニス(Mercury<62>)(4:06)△-○
pp指定を無視して、何か弾けたかのような強音で開始する。
その後も一気呵成に突っ走る体育会系のトッカータ。
スピード感、勢い、迫力ともたいしたものだが、(録音が大味なせいもあるが)全体的に少し荒削りといか細部の磨き・仕上げが足りない感じがあって、個人的にあまり好みではない(脳味噌も筋肉で出来ているのか?というタイプ)。
これもホロヴィッツと同じく最後の右手オクターヴ連打が多い。
- トカレフ(Musik Leben<98>)(4:14)△-○
打鍵に瑞々しさというか張りがあり、若い頃のキーシンを思い出させる。
若さ爆発というか若気の至りというか、とにかく音楽に勢いがある(特に強音での連続和音が凄い)が、タッチの均一性や細部の明晰性など完成度はまだまだ向上の余地あり。
中間部ではテンポを落とし、しかもペダルを使って靄で霞んだようなイメージを出す解釈は面白い。
- Rozanova(HMF<2001>)(3:56)△-○
出だしのテンポが猛烈に速く(恐らく最速)、このテンポがずっとキープできれば凄いと思わせるが、残念ながら途中の和音連打の前あたりからでテンポが落ちる。
その後またテンポが戻ったりと、インテンポ感には乏しい。
ただこのテンポでトリルもきっちり入れており、タッチにも張りがあって、もし最初のテンポがキープ出来ていればベストの演奏の1つになっただろうと思わせる。
(開始1分までで比べたらベストかも…(笑)。)
- ギレリス(BBC<59>)(4:39)△
割と遅めのテンポだが、ときどきテンポが揺れる(走る)ところがあって、ギレリスらしい精密機械のような正確さを期待する(私のような)人にはもうひとつ。
急速和音連打には余裕があり、タッチも比較的安定しているのだが、終盤ではミスもみられる(録り直しする時間的余裕がなかったのか?)。
同じトッカータでも若い頃に録音したシューマンは秀演だったが、こちらはそれほどでもない感じ。
- Athanassova(Ligia Digital<97>)(3:54)△
速めのテンポだが、高速和音連打のところでテンポが落ちたり難所でルバートをかけたりと、(恐らく技術的な問題から)インテンポがキープできていない。
中間部の後半ではメカニックの面でも少し不安定さを覗かせる。
全体的にはそれほどひどい演奏というわけではないが…。
- ラエカリオ(Ondine<97>)(4:14)△
出だしこそ冷静に機械のように正確なタッチで始まるものの、途中から(彼の本性が現れるのか?)テンポを揺らし始め、ダイナミックレンジの激しさなど表現に熱気がこもってくる。
中間部では明らかにテンポを速めているがこれは意図的かも。
ロマン派には向いていると思うラエカリオだが、テンポを正確にキープすることにあまり関心がない(?)彼には、冷徹さが求められるこの曲は(7番の終楽章なども)あまり向いていないように思える。
- L.ベルマン(Hungaroton<56>)(4:25)△-×
開始は遅めのテンポ。
録音のせいなのかタッチがもうひとつ洗練されておらず、技術的に不安定さが見られる。
特にときどき難所で不明瞭になって誤魔化すようにテンポが走るのは心証が悪い。その他にもテンポの揺れが多々ある。
音質もイマイチで全体的に美点はあまり見出せない。
- プロコフィエフ(LaserLight>)(4:20)×-△
技術的にはお世辞にも上手いとは言えない。録音のせいかタッチがとにかく不揃いで、ピアノがイカれているのかと思うほど(ステレオ録音なので恐らくピアノロールの類の再生ピアノだろう。音が変なのはそのせいだとは思うが)。リズムも不正確でテンポが細かく揺れる。ポッと出の新人がこんな演奏をしたらそれで演奏家生命が終わりそうである。解釈も特に変わったところはない。ただ、例のトリルはかなりはっきり入れていて、ここは我が意を得たりという感じ。
未記入盤
- F.ケンプ(BIS<2001>)(3:47)
- フランソワ(EMI<53>)(4:15)
- 佐藤卓史(自主制作盤<2004>L)(4:21)
- トカレフ(Sony<2007>)(4:33)(ブログ記事)
- ラ・サール(naive<2006>)(4:32)(ブログ記事)
- デュベ(Syrius<2006>)(4:24)(ブログ記事)
- B.チェン(Somm<2008>)(4:14)(ブログ記事)
- テベニヒン(KuK<2007>L)(4:11)(ブログ記事)
- テベニヒン(Piano Classics<2011>)(4:25)(ブログ記事)
- アルゲリッチ(Doremi<60>L)(4:22)
- アルゲリッチ(DG<67>)(4:16)
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