リスト スケルツォとマーチS.177
- デミジェンコ(Hyperion<92>)(14:06)◎-○
ジャケット→
技術的に一番洗練されており、安定感がある。
技巧的な派手派手しさだけでなく、音楽的・芸術的な薫りが感じられて、格調が高い。
(彼の演奏は本当にハズレが少ないというか、どれも高いレベルをキープしている。)
技術的余裕のおかげで細部まで仕上げが行き届いているし、個性的解釈も見せている。
マーチ部分の出だしを(Allegro moderatoにしては)かなり遅めのテンポで始めるところは、遠くから行進が近づいてくる感じがよく出ており(ノリントンによる第9のトルコ・マーチを思い出す)、後半の盛り上がりのところで一気に加速するのが一段と効果的。静と動の対比がうまい。
ただ(細かいことであるが)冒頭すぐのアルペジオ付きの和音をアルペジオにせずに強打しているのは(彼の解釈なんだろうが)ちょっと違和感がある。
またスケルツォ部のフガート部分の直前の3度のパッセージが(piu fuocosoなのに)妙に遅くておとなしいのはちょっと物足りない(彼のテクニックをもってすればもっと速く弾けるだろうからこれも解釈の問題だと思うが)。
- A.コーエン(Carlton Classics<89>)(13:07)○-△
技術的にはまずまずだが、デミジェンコ盤に比べるとタッチももうひとつ洗練されていない(スタカート気味のタッチを多用しているようだが、粒の揃いにまだ向上の余地あり)。
録音のせいか音が乾いて潤いに欠けるので、その分損をしているのかもしれない。
(難曲で録音も少ないこの曲の演奏としてはこのくらいでもよしとしなければいけないのかもしれないが…。)
終盤のStrettaでのスピード感というか畳み込みはなかなかのもの。ただダブルオクターヴのところはもっとスムーズに行きたかった。
- L.ケントナー(APR<40>)(12:53)○-△
演奏は悪くないのだが、音がよくない。輪郭がボケているし、なにか靄がかかったよう。(録音年相応の音とも言えるが。)
細部がクリアでないところがあるが、これは録音のせいなのか技術的な問題なのか。
解釈的には非常にオーソドックス。
ただ前半のフガートの後で主題を左右交互に繰り返し弾くところなどは(Presto strepitosoやPrestissimoなんだから)もう少しスピード感が欲しい。
全体的に要所で畳み掛ける感じがもう少し欲しいところである。
- ヤンドー(Naxos<95>)(12:55)△-○
勢いはあるのだが、主に技術的な面でさらなる細部の完成度、仕上げの丁寧さが欲しい。雑とまでは言わないが、細かいところが曖昧になりがち。
(全集録音が多いヤンドーに対する偏見かもしれないが、このぐらいでいいか、と妥協している印象を受ける。)
解釈的にはオーソドックスだが、デミジェンコほど音に陰影や変化がなく、よく言えばストレート一本勝負という感じ。
最初のスケルツォ主部開始部分の交互連打での音の分離(クリアさ)がもうひとつ。フガート部分もタッチの安定性にやや欠ける(なにかぎこちない)。
タッチにもう一段の余裕と洗練さが欲しい。
- ホロヴィッツ(CBS<68>L)(10:21)△-○
録音のせいもあるだろうが、タッチがパラパラとして埃っぽく、粒もあまり揃っていない。
技術的にはあまり質が高いとは言えない。
鍵盤をぶっ叩くような乱暴な打鍵も気になる(これが彼らしさと言えばそれまでだが)。
一応彼の編曲が入っているが、他の曲でのような派手な加筆修正ではなく、むしろ後半での(繰り返し現れるパッセージ等の)カットの方が目立つ。
確かにこの曲はやや冗長に感じられる繰り返しが多く、このカットによって全体が締まった感じはする。
終盤のStrettaも技巧的な部分だけを残すようにカットして効果的に盛り上げている(原曲では前半部のマーチに比べてむしろ技巧的におとなしいところもあって、ちょっと間が抜けている感じがしないでもない)。
最後にアルペジオのパッセージなどを少しつけ加えているのも華やかで曲に合っている。(原曲のラストはこの難曲を締めくくるにしては少しあっさりしているので、この版を聴き慣れると原曲はちょっと物足りなく感じる。)
- 近藤晃司(King Record<2000>)(12:55)△
技術的にちょっと苦しい。
ごまかしなく弾こうとする姿勢は買えるが、そのため流れが阻害されてぎこちないというか生硬な感じになっている。
特に急速なオクターヴのパッセージに難があり、ややもたついた感じになるところが多い。もっとスピード感が欲しい。
未記入盤
- Bresciani(Dynamics<96>)(16:25)
- クドヤロフ(Classical Records<2005>)(11:36)(ブログ記事)
- シルヴァーマン(Orion<76>)(13:17)(ブログ記事)
実はこれ以外によく聴いているのは第4回浜松コンの1次でのロシアのアレクサンドル・ピロジェンコの演奏。とにかく速い、上手い、で(多少強引なところはあるけど)これを聴くと上の演奏はどれも物足りなく思えるほど(もちろん彼の演奏も欠点がないわけではないが)。
ちなみにホロヴィッツ版で、演奏時間は9:01!である。
彼は入賞しなかったので、この演奏がコンクールハイライトCDに入ることもないのは残念である。
[2010.1.16追記]この演奏はここで聴くことができる(ブログ記事)。
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