シューマン ピアノソナタ第1番嬰ヘ短調Op.11
- ポリーニ(DG<73>)(12:01/3:09/5:11/11:04)◎-○ ジャケット
'70年代のポリーニらしく、強靭なテクニックを駆使した一点の曇りもないような明晰な演奏。特に第1楽章が素晴しく、和音(重音)連打のスピードと迫力、輝かしい音は、他の盤を聴くといつも何かしら物足りなさを感じるくらい。
(余談だけど、以前この曲が音コン1次の課題曲のなったことがあって、ポリーニ盤を聴き慣れていた私にはそのときのみんなの「弾けてなさ」にがっかりしたことがあったが、ポリーニと比べてはいかんわな…。)
逆に終楽章はテンポが少し遅めな割にリズムがやや杓子定規な感じがして、もう少し柔軟性があってもよい気がする。また全体的に(明晰性とは裏腹に)シューマンらしいファンタジーにはやや欠けるかもしれない。
- アンスネス(EMI<97>)(13:36/3:23/5:18/11:18)◎-○
ポリーニ盤とは逆に後半2楽章、特に終楽章が秀逸(他の楽章も決して悪くないが)。音楽的かつテクニックも十分、表現がツボにはまっている。憑かれたようにアチェレランドしたかと思うとフッと力を抜くなど、テンポ・強弱の変化のさせ方が上手い(考えぬいたというよりは本人のセンスだろう)。緊張と弛緩の対比がうまく出ているという感じ。第1楽章主題提示部の、交差する左手で弾く下行5度音型のスタカートが甘くてスラーがかかったようになってしまっているのは残念(ここはポイントなのでしっかり押さえて欲しいところ)。
- ルガンスキー(Vanguard<94>)(10:36/3:33/4:06/11:21)○
エチュード系のメカニカルな曲では無類の強さを誇るルガンスキーだが、こういう曲ではその力を十分に発揮できていない感じ。瞬間的なスピードや技巧のキレは確かに垣間見せるものの、緩徐的な部分に入ると(歌うのがあまり上手いとは言えないのにテンポをグッと落とすためか)表現が沈滞したようになってしまう。曲の部分部分が有機的に結合されいないとでも言おうか。それでも終楽章は急速部分でのスピードがあってなかなか聴かせる。コーダも技巧が冴える。第1楽章も同様で悪くないが録音のせいか音が軽い感じで、もう少し力強さが欲しい。第2楽章は情感を出そうとしているのはわかるのだが、テンポだけが遅くなっただけという感じであまり胸に響いてこない。スケルツォはかなり速いテンポで突っ走る。なお第1楽章は繰り返しを省略。
- デミジェンコ(Hyperion<96>)(13:55/3:23/5:12/11:41)○
第1楽章の序奏の分散和音をうねるように歌わせるのが印象的(この部分に関してはこの演奏が一番好きである)。主部に入っても各フレーズに表情をたっぷりつけており、(それまでポリーニのストレートな演奏に慣れていた私には)多少演出のしすぎという気もしないでもない。思わせぶりにリズムにタメを作るところもあり、この楽章はもっとストレートにいった方が好みである。が、残りの楽章はその演出が(全部ではないが)うまくいってなかなか説得力がある。第1楽章は序奏の最後のフェルマータをかなり長くとっている(なかなか主部が始まらないので一瞬CDのトラッキングミスかと思ってしまう)。
- ギレリス(Dante<48>)(10:15/3:25/4:51/11:33)○
基本的にはポリーニと同じような剛直路線。打鍵が力強く、鋼鉄のタッチという言葉を思い出す。やはり第1楽章をストレートに力で押しまくるところが気持ちよい。終楽章のテンポが割と落ち着いているところまでポリーニ盤と似ている(と言ってもこっちが先なんだけど)。ただ録音が古いだけに(演奏が同じ位であれば)音がいい方に手がのびてしまうのは致し方ないところ。第1楽章は繰り返し省略。
- フェルツマン(Russian Disc<72>)(14:13/3:29/4:39/12:19)○
録音のせいか、音がパラパラとして乾いている。さらに演奏もちょっとぎこちないというか流麗さに欠ける感じがあるが、その風変わりな歯切れの良さが不思議な魅力ともなっている。第1楽章は主部に入って速めのテンポで素っ気なく進んでいくかと思えば、唐突にテンポを落とすなどアゴーギクにやや恣意的なところがあるが、沈滞する感じはない。第3楽章はルガンスキー盤並みに速いテンポだが、Intermezzoの部分だけはゆったりしている。終楽章は一番オーソドックスだが、その分かえって他の楽章より魅力に欠ける印象があるのはちょっと皮肉。
- レーゼル(Berlin Classics<79>)(10:48/5:11/5:19/12:15)△-○
楷書風にきっちりまとめているところはいかにもレーゼルらしいが、(技巧的な問題もあるのか)表現がちょっと生硬で淡泊。全体的にリズムがどっしりと落ち着いているが、ときにはもう少し切迫感やせき込むようなところがあってもよいと思う。第3楽章のIntermezzoの部分などはリズムにもう一息洒落っ気が欲しいところ。録音が比較的新しい割には音が大味であまり冴えないのも残念。第1楽章は繰り返し省略。
未記入盤
- ギレリス(BBC<59>)(9:45/3:05/4:08/10:44)
- チェルカスキー(aura<63>L)(10:40/3:07/4:43/10:03)
- A.バッハ(Arte Nova<99>)(13:44/2:59/5:52/12:36)
- グレムザー(Naxos<97>)(14:46/3:29/5:21/12:01)
- キーシン(RCA<2001>)(11:15/3:36/4:26/12:00)
- チアーニ(Dynamic<68>L)(8:58/2:50/3:29/10:13)
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