シューマン トッカータOp.7
(*: 繰り返し省略)
- ルガンスキー(Vanguard<94>)(6:13)◎ ジャケット→
かなりのスピードだが、それでいてインテンポが崩れない。トッカータに対する理想的とも言える演奏。
しかも音の出し方に余裕があって、難所でもほとんど苦しさを感じない(後半のオクターブ連打でわずかに苦しさを見せるが)。
他の技巧派ピアニストでもかなりボロが出ているこの曲でここまで弾けるとは、恐るべきメカニックである。
表現はストレートでヘタな小細工はしない。
音造り、アーティキュレーションはポゴレリチほど人工的ではないが、それでも精密機械を思わせるものがある。
- ポゴレリチ(DG<82>)(6:48)◎
スピードは抑え気味だが、音、特にアーティキュレーションが明晰で非常によくコントロールされている。
テンポも機械のように正確、あまりにキチッとし過ぎてやや人工臭も感じるが、当然それを狙っているのだろう。
完璧なまでの粒(タッチ)の揃い方、特に展開部の連続オクターヴの安定性は秀逸。
勢いにまかせて弾くようなところや、熱気のようなものは皆無で、あくまで冷静である。
一言で言えば「スピードのルガンスキー、コントロールのポゴレリチ」というところか。
(もちろん、突っ走るだけで十分にコントロールされていないような演奏は論外として。)
- クズミン(Russian Disc<93>)(4:32*)◎
スピードはルガンスキー盤並み(あるいはそれ以上)に速く、そして巧い。
ルガンスキー盤が、タッチが明確でカッチリしているのに対し、こちらは流れるような感じ。
強弱などの表現もより自然で人間臭さがある。あるいは手馴れた感じと言ってもよい。(その意味ではルガンスキー盤はやや硬いといえるかも。)
ただ(彼の他の演奏にも全般的に言えることだが)細部まで推敲し、彫刻したという感じはあまりなく、悪く言えば己の音楽センスとテクニックに任せて何も考えずに弾いた感じ。(それでもこれだけ弾けるだけでも大したものだが。)
またフレーズの切れ目をあまりはっきりさせないで先へ先へと進むのでちょっとせわしない感じがしないでもない。
- ギレリス(Dante<47>)(4:43*)○-◎
録音年が古いだけに音はかなり悪い。が、技巧は素晴しく安定している。
テンポはルガンスキー盤並みに速く、かつインテンポをキープ。音さえよければルガンスキー盤に匹敵するかも。
録音のせいで細部がぼやけた感じに聞こえるのは惜しい。あと多少ミス(間違った音を弾いている?)もある。
- ポゴレリチ(FKM<83>L)(5:02*)○
テンポはDGのスタジオ録音盤とほぼ同じだが、細部の完成度、特にタッチのコントロールの精度はさすがに劣る。
(録音がDG盤ほどよくないせいも多少あるだろうが。)
無理に美点を見つければ、こちらの方がより表現が自然(あるいは人間的)とも言えるが、個人的にはDG盤の最大(?)の魅力であるマニエリスティックな人工美がそれほど感じられないのは痛い。
そういうことを考えなればもちろん悪い演奏ではない。
- M.アンダーソン(Nimbus<93>)(7:35)○
落ち着いたテンポであまり無理をせず、良い意味で脱力感のある演奏。
この曲は難曲だけあって、やたらに構えたり力んでしまったりする演奏が多い中、こういう自然体の演奏は新鮮な感じがして好感が持てる(柔らかという言葉が似合う)。
表現的にも微妙な表情(特に強弱)があって説得力がある。
ただ無理をしないといっても難所では技術的に苦しさが見えてしまうのは(それほどテクニシャンタイプでない彼としては)しかたのないところか。
- S.バレル(Pearl<35>)(4:31*)○
スピード狂(?)のバレルだけあって、出だし直後の主部のテンポは相当速いが(おそらく最速)、バリバリ弾くというより軽めかつレガート主体で流れる感じ。そのせいかそれほど猛烈という感じはしない。
また難所ではスピードがキープできないのか(?)、テンポが多少が揺れるところがあるが、変化は微妙であり個人的にはそれほど気にならない。
猪突猛進型の彼にはこのような曲は結構合っているのかも。
なお例によって音は悪い。
- F.ケンプ(BIS<99>)(6:21)○
スピード感というか勢いがあり、タッチやアーティキュレーションにも一応気を使っているのだが、途中でしばしば入るルバートというかタメが(多分意図的に付けているのだと思うのだが)この曲の趣旨に合っていない感じでやや気になる。少なくとも個人的には、この曲はあまり表情を付けずに、ストレートかつ非人間的なまでに精確な(モーター的)リズムで弾かれた方が好きである。彼は'97年の浜松国際コンクールでこの曲を弾いていたが、そのときに比べると(スタジオ録音のせいもあって)完成度は上がっている。
- リカド(Sony<89>)(7:01)△-○
テンポはゆったりしているものの、インテンポをほぼキープしており、思ったほどは悪くない。ただし(細部をどうこうする技術的余裕が残っていないのか)アーティキュレーションが曖昧で、全体的にややモコモコした感じに聞こえる(遅めのテンポならポゴレリチ並の精緻な演奏を期待したいところ)。展開部の連続オクターヴ連打のところも苦しさが見えるがなんとか持ちこたえたという感じ。
- リヒテル(DG<59>)(6:35)△
勢いはあるものの、タッチやテンポなどでときどき技巧的な苦しさを見せる。また(録音のせいもあるだろうが)音が曖昧というか、ボヤっとしているというか、輪郭がはっきりしない。展開部では連続オクターヴの後のところがちょっとぎこちない。またコーダが唐突に乱暴になって、やや不自然。全体的に細部の完成度にはそれほどこだわらず、力技で強引に押し切ったという印象を受ける。
- ベレゾフスキー(Teldec<93>)(6:45)△
第1主題部分はまずまず悪くないのだが、第2主題部分の途中からだんだんテンポが落ちてくるのが気になる。音の明晰さももう一つ(意図的だろうが)。展開部の右手オクターヴ連打では、途中で明らさまにテンポが遅くなる(インテンポで弾けないから?)のははっきり言ってヘン。全体的にこの演奏もテンポが恣意的に(あるいは技術的制約から)変わるが、プロコフィエフも言うようにこの曲の命はモーター的リズムにあると思うのだが…。
- ホロヴィッツ(CBS<62>)(6:20)△
部分部分によってテンポやダイナミクスなどの表情を結構変える。よく言えば表現意欲に富んでいるということだが、恣意的な表現で(個人的には)説得力に欠ける。技巧的にもイマイチで、展開部の連続オクターヴの後などテンポが微妙に走ったりする(意図的?)。全体的に自分勝手な演奏という感じ。なお、SP時代の録音も聴いたことがあるが、そちらの方が恣意性が少なくずっと良いと思った(音は当然悪いけど)。
- シフラ(EMI<60>)(4:50*)△
リヒテルの豪快さとホロヴィッツの恣意性を足し合わせたような、要するにシフラ節が溢れる演奏(あるいはこれくらいはまだおとなしめ?)。
しかし(いつものこと?ながら)精緻な技巧という感じではなく、ハッタリ的というか、ケレン味が多く、個人的には好きになれない。勢いあまってテンポがときどき走ったりするし、展開部の連続オクターヴは(オクターヴが得意そうなシフラにしては)タッチが曖昧模糊とボヤけている。
ちなみに彼のLD(BBCリサイタル)にもこの曲が入っており、そちらはもっと端正な演奏でちょっと感心したのだが…。
- グレムザー(Naxos<93>)(6:49)△
インテンポはなんとかキープしようとする意志はあるものの、苦しさを随所に見せ、実際テンポが揺れる。タッチも揃っていない。中間部は(なんとなくテンポが落ちていくものの)健闘している。
- フランソワ(EMI<54>)(5:41*)×
ゆっくりめのテンポだがタッチがかなりぎこちなく、たとたどしいという言葉がよく似合う。
それでも無理なテンポで弾き飛ばすという感じでないところが救いか。
すべての音符をかろうじて音にしたという感じではあるが…。
- スコウマル(Matdus<97>)(6:50)×
出だしは速いが、たびたびルバートでごまかす。テンポがコロコロ変わり、単に弾ける速さで弾いているだけという感じ。この演奏をCDで出すとはいい度胸しているというか、噴飯物である。
ちなみに彼は'97年に浜松コンに出ているが、1次で落ちてしまったようである(私は残念ならが聴けなかったが)。
未記入盤
- シュタットフェルト(Sony<2005>)(6:49)
- エゴロフ(EMI<81>)(6:55)
- デュベ(Syrius<2006>)(6:00*)(ブログ記事)
- R.ライト(Wright-Sounds<>)(5:20*)(ブログ記事)
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