ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番ハ短調Op.35
- キーシン/スピヴァコフ/モスクワヴィルトゥオーソ(RCA<88>)(5:58/7:58/1:25/6:27)◎-○ ジャケット
若い頃のキーシンらしい、軽めながらピチピチとした張りのあるタッチが素晴らしい。音が立っている。自発的というか興に乗った感じで、ツボを押さえたアゴーギクも堂に入っている。ただ(個人的に)残念なのは、終楽章のコーダの最後のピアノソロのパッセージ(fffの和音の交互連打で始まるやつ)で一旦テンポをぐっと落とす(その後アチェレランドする)ところ。最近の演奏はこうすることが普通になってきているようだが、私には「悪しき慣習」のように思える(楽譜にそのような指定はないし、作曲者の演奏でもそのようなことはしていない)。ラストに向かって突っ走っているのに、急にブレーキがかかったようになってしまうと思うのだが...。
- D.ショスタコーヴィチJr./M.ショスタコーヴィチ/イ・ムジチ・モントリオール(Chandos<84>)(5:19/7:00/1:27/6:23)◎-○
トランペットに関してはこの盤が一番良い、というか好きである。特に終楽章途中の、テンポが遅くなったところで出てくる民謡風の素朴なメロディーの部分が気持ちよい(他の演奏はどれも多少の不満が残る)。ピアノも優等生的だが堅実で清潔感がある。やや音がコモった感じがあって、もう少しキレというかシャープさがあればもっとよいが。特に終楽章のカデンツァはちょっとおとなしい。作曲者の子と孫ということで(?)、終楽章の「悪しき慣習」にもほとんど染まっていないのも良いところ。全体的にソロとオケとの呼吸がピッタリで、アンサンブル的にも完成度が高い。
- アルゲリッチ/フェルバー/ハイルブロン・ヴュルテンベルク室内o.(DG<93>)(6:05/8:22/1:44/6:31)◎-○
2、3回試聴しただけだが、溌剌としたタッチ、打鍵の勢いとキレはキーシンと比べても遜色ない感じ。1音1音に細かい表情付けがあって、機械的にならないのも彼女らしいところ(やり過ぎるとイヤミになるが)。ただ、(この盤をじっくり聴き込んだわけではないけど)キーシン盤を持っていればあらためて買わなくてもいいかな、と思わないでもない(だから持っていないんだけど^^;)。やはり終楽章の「悪しき慣習」を行っているのも残念なところ。
- E.リスト/M.ショスタコーヴィチ/ソビエト放送so.(RCA<75>)(5:29/7:51/1:23/6:02)○-◎
ピアノの録音がオン気味のせいか、音がクッキリして迫力がある。第2楽章の中間部、ffのオクターヴで左右交互に駆け上がるところなど、力強く畳み掛ける。終楽章のキレとスピード感もなかなか。ただ録音のせいか全体に少し騒々しいというか、デリカシーに欠ける感があるかもしれない。トランペットは少し雑な印象。
- アンスネス/ヤルヴィ/バーミンガム市so.(EMI<97>L)(6:04/7:30/1:28/6:56)○
第1楽章はそれほどでもないが、終楽章のキレがよい。オケもかなり充実というか気合いが入っていて、ときどき(普通はそれほど目立たないところを)妙に強調していたりするのが面白い(録音のバランスのせい?)。これで最後の悪しき慣習がなければかなり推せると思ったのだが、やっぱりやっていたのはちょっとがっかり。第2楽章もアンスネスにしては少し淡泊で、もう少し歌えるのではないかと思う。全体的に(最近のライヴ録音では普通だけど)完成度は高く、最初に聴いたときは最後の拍手を聞くまでライヴだと思わなかった。
- オールソン/G.レヴァイン/Cracow po.(Arabesque<89>)(6:53/9:07/2:00/7:27)○
どの楽章もテンポが確信的にかなり遅い。慌てず騒がず、妙に落ち着いている。覇気がないと言われればその通りなのだが、そういうところは初めから狙ってないのだろう。普通の演奏ではよく聞こえないような細かなパッセージもはっきり聞こえて、そこが面白いかも(遅いテンポに見合った細部での完成度の高さがあればもっとよいのだが)。風変わりな演奏で、最初の1枚にはおすすめできないけれど。
- ヤブロンスキ/アシュケナージ/ロイヤルpo.(Decca<91>)(5:58/8:27/1:44/6:33)○
技巧は安定、音もきれいで、これといった欠点はないが、やや機械的(そこが彼の持ち味かもしれないが)というか面白みに欠けるかも。特に第2楽章は遅めのテンポの割にリズムがやや硬直気味で、もう少し「聴かせる」要素があってもいい。終楽章はスピード感があり、だいぶ気合いが入ってきている(トランペットもなかなか張り切っている)。トランペットの素朴なメロディーの途中に入るピアノの一撃(クラスター風和音)の金属的な響きがなかなか印象的。
- オフチニコフ/M.ショスタコーヴィチ/フィルハーモニア(Collins<90>)(5:45/8:22/1:38/6:26)○
キレはそれほど感じられないが、技術的に非常に安定している。格調が高く、羽目をはずさない。いつもながらの真面目な演奏で、こういう(ユーモアに満ちた)曲なんだからもう少し遊び心というか、(ここぞというところではテクニックを見せつけるような)ショーマンシップがあってもよいと思うのだが…。トランペットは音に独特の張りがあってなかなか良い。
- アレクセーエフ/Maksymiuk/イギリス室内o.(EMI<83>)(5:21/7:35/1:40/6:33)○
速めのテンポでキビキビしている。第1楽章の導入部(「熱情」主題が現れるところ)や第2楽章もあまりテンポを落とさず、素っ気ない感じもするが、歌うべきところは歌っており、センスを見せる。終楽章も、スピード感には乏しいが、全体的にインテンポ気味な解釈が(個人的には)ちょっと面白い。例の「悪しき慣習」も全く行っていないし、音を浮き立たせたりするなど表現に工夫があるのも良い(が、そのせいかタッチがやや不安定な感じもする)。
- T.デュイス/L.ケラー/ドイツ・ベルリンso.(Capriccio<96>)(6:15/7:51/1:37/6:46)○-△
トランペット協奏曲を集めた、いわばピアニストは脇役的な扱いのCDだけに、ピアノは堅実だが、特徴に欠ける。特に悪いところはないのだが、華がないというか。あまり出しゃばってはいけないと、セーブしているわけではないんだろうけど、なにか淡々としている。主役のトランペットも(第2楽章以外は)特に優れているとは思えない。ピアノは技術的には安定しているし、例の「悪しき慣習」にもあまり染まっておらず、(演奏者の無名度から考えれば)そんなに悪い演奏ではないのだが…。
- レオンスカヤ/ヴォルフ/セントポールマーチンo.(Teldec<91>)(5:50/7:55/1:24/6:45)△-○
重心が低い録音のせいか、全体的に腰が重いというか軽快さに欠ける(特に第1楽章)。音のヌケも悪く、厚ぼったい感じがする。ただ、終楽章の「悪しき慣習」を全く行っていないところは買える(が、それ以外はあまり魅力を感じないのが正直なところ)。
- ルディ/ヤンソンス/ベルリンpo.(EMI<94>)(5:58/8:30/1:41/6:45)△
ピアノがオフ気味の録音のせいか、ちょっと線が細い。もう少し打鍵に迫力というか力強さが欲しいところ(これがより自然なバランスなのかもしれないが)。第2楽章はかなりゆったりと歌っているが、やはりメリハリが不足する感じ。例の終楽章のコーダは、インテンポで入るのはいいのだけれど、そこからテンポを落としてしまう(そしてまた戻す)。
- ショスタコーヴィチ/クリュイタンス/フランス国立放送o.(EMI<58>)(6:04/7:50/1:46/6:14)△
'58年の録音にしてはかなり音はいいのだが、演奏は正直言ってあまり上手くない。特に急速なパッセージでの指回りがイマイチで、(録音のせいか)音がクリアに聞こえないところがある。テンポも微妙に揺れたりする。作曲者自身の解釈も特に変わったところはない。が、終楽章の最初のピアノソロの部分がほとんどインテンポだったり、トランペットの素朴なメロディーのところであまりテンポを落とさないあたりは興味深い。もちろん例の終楽章のコーダはインテンポ(というかむしろテンポを上げていく感じ)。
- ショスタコーヴィチ/サモスード/モスクワpo.(Melodiya<57>)(5:50/7:01/1:32/5:54)△
これも自作自演盤だが、こちらは録音年相応の音の状態(ちょっと騒々しく聞こえるかも)。テンポは'58年盤より若干速めだが演奏の方はやはり上手いとは言い難い。全体的に気合いが入りまくりで、終楽章のカデンツァはすごい迫力というか勢いだが、やや暴走(ヤケクソ)気味に聞こえないでもない(音が悪いせいかな)。その後のコーダのインテンポでの突進は、やはりこうでなくちゃと思わせる。第2楽章のトランペットは音が震えて(かすれて)イマイチ。
未記入盤
- M.ヒューストン/C.リンドンジー/ニュージーランドso.(Naxos<94>)(6:29/8:31/1:41/6:54)
- ブロンフマン/サロネン/ロサンゼルスpo.(Sony<99>)(5:43/7:50/1:46/6:47)
- プレヴィン/バーンスタイン/ニューヨークpo.(CBS<>)(5:53/16:06)
- キーシン/スピヴァコフ/St.ペテルスブルク室内o.(Yedang<88>)(6:04/8:24/1:30/6:38)
- マルシェフ/Lintu/Helsingborg so(danacord<2002>)(5:43/8:06/1:29/6:46)
- アニクシン/D.ヤブロンスキ/ロシア国立o.(Bel Air Music<2001>)(6:16/7:56/1:24/6:55)
- アムラン/リットン/BBCスコティッシュso.(Hyperion<2003>)(5:40/8:27/1:33/6:31)
- チェホヴァー/Sallaberger/SWR so.(Arte Nova<97>)(6:11/7:30/1:31/7:06)
- ラ・サール/L.フォスター/グルベンキアンo.(naive<2006>)(6:12/8:36/1:47/6:50)(ブログ記事)
- アルゲリッチ/ヴェルデルニコフ/オルケストラ・デッラ・スヴィッツェラ・イタリアーナ(EMI<2006>L)(5:56/7:25/1:28/6:20)(ブログ記事)
- ウーリッヒ/Starek/SWR RK(Haenssler<2004>)(6:13/8:10/1:47/6:55)(ブログ記事)
- マツーエフ/ゲルギエフ/マリインスキー劇場o.(Mariinsky<2010>)(5:50/7:51/1:19/6:48)(ブログ記事)
- メルニコフ/クレンツィス/マーラー室内o.(HMF<2011>)(5:56/8:30/1:27/6:25)◎-○(ブログ記事)
- コロベイニコフ/ガイドゥーク/カム&ラハティso.(MIRARE<2011>)(6:01/8:33/1:48/6:53)(ブログ記事)
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