ワーグナー/リスト タンホイザー序曲S.442
- ビレット(Price-less<87>)(17:08)○-◎ ジャケット
Allegro部は速めのテンポにもかかわらず細かい音型での指回りが非常にスムーズで、多盤では結構モタモタした演奏が多いことを思うと、ビレットってこんなにテクニシャンだったっけと思わせるほど。
それでいて名技性顕示に偏ったような、これみよがし的な表現(いわゆるケレン味)がなく、原作の良さをなかなかよく引き出している。
ただで多少リズム寸詰まり気味になるところがあるのが惜しい(他盤でも多かれ少なかれそういうところはあるが)。
また前半のAndante(巡礼の合唱)の後半部分で右手(高音部の対旋律)が3連符のリズムで何度も降りてくるところでなぜか急にテンポが落とすところが腑に落ちない。
他の部分の弾きっぷりを聞くと、そのテンポでなくては弾けないとは思えないので彼女の解釈だと思うが、ちょっと間が抜けた感じ。
- ヘゲドゥシュ(Hungaroton<87>)(17:08)○
全体的に表現が生硬で名技性、流麗さは感じないのだが、リズムの崩れがなく細部まで丁寧にごまかしなく弾いているところが(朴訥とした味わいがあって)悪くない。
特に変にテンポを動かさないところがよい(やはりこのような忠実系編曲物は原曲で聴かれるようなテンポの一貫性が欲しい)。ケレン味とは無縁の演奏。
そうは言っても技術的には少しもどかしいところもあり、終盤のAndanteの部分(巡礼の合唱の再現部)などももう少しコクが欲しいところ。
この曲にヴィルトゥオーシティを期待している人には向いていない。
- ブライロフスキー(Pearl<28>)(14:03)○
全体的に速めのテンポで間然とするところがなく、技術的にはあるいは一番上かもしれない。
ただいかんせん音が悪すぎる。ノイズが多くてかなり聴きづらいし、音がボヤけて細部がよく聴こえない。
また部分部分によって結構テンポ設定を変えるのが私の好みでなくて残念。
それでもボレットやシフラのようなケレン味たっぷりの表現ではないのは好感が持てる。
これで音がよければ総合的には一番推せる演奏かもしれないのだが…。
- F.リベッタ(Agora<98>)(15:34)○-△
技術的にはそれほど悪くないが、ビレットやブライロフスキーに比べるとやはりまだ硬さが残る。
Agoraにありがちな潤いのない乾いた録音のせいで損をしているかもしれない。
解釈的にもオーソドックスで演出過剰に傾くこともない。
ただ譜読みの間違いか(あるいは異稿なのか)明らかに違う音を弾いているところもあって少し気になる。
- レオンスカヤ(Polygram Austria<81>)(16:24)△-○
前半のAndante部分はコクと力強さがあってなかなかよいが、Allegroに入るとちょっと生硬というかぎこちなくなってくる。また(これは解釈だと思うが)テンポが恣意的に変わるのが気になる。後半の部分はテンポが遅めでややもたついている感じ。全体的にもう少しテンポの安定感と、表現の流麗さというかこなれた感じが欲しい気がする。
- ボレット(RCA<74>L)(16:39)△-○
巡礼の歌の部分はしみじみとした味があって悪くない。Allegro部もまずまず達者な技巧を見せるが、ライヴということもあって、やや勢いにまかせた強引な感じがするのは否めない(興に乗ってきたとも言えるが)。豪快な打鍵や大きなルバートなど、随所にケレン味たっぷりの表現も見せる。いわゆるヴィルトゥオーソ的演奏なのだが、例によって私はもっと冷静で推敲された演奏が好きなので、あまり高くは評価できない。
- シフラ(Hungaroton<54>)(17:35)△
全体的にシフラらしさをあまり出さずに真面目に弾いている。Allegroの部分でテンポが揺れる、あるいは恣意的に揺らすところがあるのはイマイチ。細部でちゃんと音が出ていないところもあり、技術的安定度もやや低い。途中ではヴィルトゥオーソぶりを出そうとしているらしいところもあるのだが、やはりこの手の(parafraseやfantasy系ではなくtranscription系)編曲はそうやって派手に弾くより真摯に原曲を彷彿とさせるように弾いてくれた方が好きである。
余談だが、このCDのライナーノートに、この曲は「極端に(extremely)難しいのでめったに弾かれない」と書かれているが、極端に難しいかどうかはともかく、確かにこの曲は個人的に満足がいく録音が少ない。
- シェパード(EMI<75>)(15:55)△
前半のAndante部分はよく言えば力強いのだが、悪く言えば叩き過ぎ(特に3連符のリズムで降りてくるところに左手の低音部。そんなに叩かなくていいのに)。中間のAllegroは技術的にまずまずなのだが、ボレットなどと同様、パフォーマンス的な表現が少し鼻につく。技巧のための技巧でなく、原曲の良さを忠実に再現するための(たとえばグールドのリスト編曲物に聴かれるような)技巧を聞かせて欲しいところ。後半はそういうところが抑えられてきてはいるが、全体的には表現、解釈が大仰すぎる感じがする。
- Leyetchkiss(Centaur<80>)(17:02)△
前半Andante部分などは非常に音楽的でよいのだが、Allegroに入るとやっぱりぎこちなくなってくる。テンポが正確でないというかインテンポが保たれない。後半は再びよくなってくるので、やはり問題は中間のAllegro部分か。
未記入盤
- モイセイヴィッチ(Pearl<38>)(15:07)
- ボレット(RCA<73>)(16:27)
- W.Akl(Pavane Records<95>)(18:34)
- M.ルディ(EMI<2001>)(15:34)
- F.ヴィジ(Satirino<2007>)(17:51)(ブログ記事)
- Deliyska(Gramola<2008>)(17:44)(ブログ記事)
- Mei-Ting Sun(MTR<2004>L)(14:15)(ブログ記事)
- マイヤー(Naxos<2009>)(17:28)(ブログ記事)
- リスト=マッティ・マリン(ALBA<2009>)(15:15)
- ロルティ(Chandos<2013>)(15:28)
- チャン・ヤ=フェイ(Avi<2013>L)(17:25)
- デュモン(Piano Classic<2014>)(16:14)
- S.パチーニ(Warner Classic<2016>)(16:34)
- Lessner(Daniel Lessner<2008>L)(15:04)
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