全体的に小気味よいテンポと切れ味のよいリズム、粒立ちの良いタッチでグールド的魅力に溢れている。 個人的愛聴盤で、おそらくこれまで私が一番数多く聴いたレコード（CD）である（私の「無人島の一枚」かも）。 １つ１つの曲については、グールド好きの私でもホメ殺しか?と思うほど賛辞に満ちた諸石幸生氏の文章（文藝別冊「グレン・グールド」）に譲るとして、個人的には、 素朴な静けさを持つ第1番の前奏曲（誰かが言った「宇宙の始まり」という言葉を思い出す。そういえばボイジャーに載せられたのもこの曲だったような）、左手の歌いっぷりが楽しい3番の前奏曲と諸石氏が「パズルを解くような」と形容したフーガ、5番の落ち着きのある前奏曲とキビキビしたフーガ、8分音符のノンレガートが美しい第11番前奏曲、速いテンポでリズム感最高の第13番、超高速の15番、躍動感溢れる16番フーガ、羽根のように軽やかかつ明晰なタッチの23番前奏曲などが何物にも代え難い。 諸石氏などは「グールドは一発録りに限る」などと言っているが、確かに1巻のように慎重に推敲を重ね過ぎた(?)演奏よりも、比較的短時間で録音した、ドライブ感に溢れたの2巻の演奏の多くに魅力を感じることが多い。 （ゴルトベルクも多少傷はあってもザルツブルグライブが一番好きである。） ただ名曲の誉れ高い9番のフーガは（前奏曲との一貫性を重視してこのような速いテンポをとったのだろうが）もう少し落ち着いたテンポのものを聴きたかった気もする（'57年のスタジオ録音や後年のLD映像ではフーガ単独のためか逆にかなりゆっくり弾いている）。
1番のフーガからそのタッチの絶妙さに感心する。 音色や強弱のコントロールが完璧と言ってよい。 各声部の浮き立たせ方も工夫に満ちていて決して飽きさせない。 思わず「次はどんなことをしてくれるか」と期待してしまう。 繰り返しの2回目では強調する声部を変える等の変化を付けている（意外とこれをやらずに漫然?と弾く人が少なくない）。 表情が付いていない音はないと言っていいくらい（あざといとかやりすぎと思う人もいるだろうが）。 優美でかつ機知に富むといったらよいか。 また路線が似ているヒューイットよりも指技が上。 これで録音さえ私好みなら…。
チェンバロを意識しながらもピアノの利点を活かした弾き方で解釈的にも正統的。 技術的にもまずまず安定しているので安心して聴ける（録音のせいか細かいところで多少クリアさに欠けるところがあるが）。 全体的には落ち着いたテンポで優しい雰囲気だが、ときどき入る溌剌とした曲がよいアクセントになっている。 タッチにも細心の注意を払っていて、こまやかな表情がついている。 特にフーガでの推移部等での変化の付け方が上手く、決して一本調子にならず、模範的と言える。 小細工もシフほどやり過ぎておらず、その意味でコンクールの審査員には一番ウケがよさそうな演奏（お手本にするには一番よい盤かも）。 録音はやはり残響が多めだが、ピアノの音がシフ盤よりは私好みである。 13番（私の特に好きな曲の1つ）のフーガ主題では、いきなり同じ速さの細かいトリルを入れているが、最初の主音を伸ばしてからトリルに入る方が私の好み。 他にもトリルの処理やキレに関して少し不満の残るところがある。
全体的に静かで穏やかなアプローチ。音が柔らかい。 チェンバロを多少意識したアゴーギクで、フレーズの切れ目でフッと間を入れるようなところがある。 フーガ終盤では結構大きくアラルガンドすることもあって、そこは好悪を分けるかもしれない。 装飾音も型どおりではなく、ときどき凝った入れ方をする。 テクニシャンタイプではないが、速いテンポで弾き飛ばすようなことがなく、丁寧に弾き進めるのは好感が持てる。 刺激は少ないが誠実な演奏。 これでさらに（シフのような）音色やアーティキュレーションの変化や工夫があればもっとよい。 癒し系の平均律を求める人にはいいかも。 なお最近の録音では珍しく繰り返しは省略していることが多い。
ストレートかつ輪郭のはっきりした音で、鋭いスタカートを多用。 拍頭に踏みしめるようなアクセントをつけ、拍がはっきりしている。 カチッとしているというか、四角張っていて、優美さとか流麗さとか、そういう言葉とは無縁。 タッチがやや武骨で、技術的にもうひとつ洗練されていない感じなのは1巻と同様。 音色とか細かいニュアンスはつけず、単色系。（よく言えば「虚飾を排す」とでも言うのかな?） 強弱の幅も狭く、極端に言うと音量がmfで統一されているような印象を受ける。 続けて聴くとさすがにちょっと単調かなと思う。 （どこか高橋悠治の演奏を思い出させるところがあるが、彼独特のアーティキュレーションとも違う。） テンポは全体に落ち着いているが、１巻に比べると極端に遅いテンポをとるものは少ない。 8番フーガは主題のアーティキュレーションが面白い（最初の3音がスタカート）。 14番フーガでは主題の最後の2分音符にトリルをつけないのは珍しいというか、ちょっと物足りない。
1巻と同様、曲によって表情、雰囲気の差が大きい。 急速な曲では硬質な鍵盤を叩くようなタッチを使って溌剌。 逆に穏やかな曲ではソフトペダルを使ったような優美な音色。 逆に１つの曲の中での表情の変化は少なく、フーガではやや単調になるきらいがある。音色の変化や声部の強調等の工夫が少ない（特にシフ盤を聴いた後だと）。 また特定の音に対するアクセントが強すぎる（攻撃的すぎる）と感じないこともない。 装飾音の扱いなどで、やや細部のツメの甘さが残るところもある。 演奏時間を見ればわかるように、曲集の後半ではゆっくりしたテンポをとることが多いが、常軌を逸するほどではない。 11番前奏曲（これも特に好きな曲の1つ）はグールドと同じような速めのテンポながら勢いと響きの豊かさのあるアプローチで、この路線も悪くない。 18番フーガはスタカートで速いテンポをとるのが（淡々と弾く印象の強いこの曲の解釈としては）ややユニーク。
演奏はそれほど悪くないが、音が痩せている感じで音的な魅力に乏しい。 強打ではキンキンと安手の金物を叩くような音がする。 細部のツメがやや甘いと感じるのは1巻と同じ。 グルダと同様、表現・表情の振幅が広く、たまに時代がかった（ロマン派的）ルバートをつけるところがあったりする。 9番のフーガはゆったりとしていて味わいがある。彼はこういう緩徐系の深い内容のフーガが向いているのかも。
指回りがもうひとつ安定していない。残響多めの録音のせか、なにか動きが鈍いというかキビキビしていない。 細部のツメというか仕上げの丁寧さがもうひとつ。 「やっつけ仕事」とまでは言わないが、ほどほどなところで切り上げたような印象を受ける。 少なくとも「細部まで丹念に彫刻した」という感じではない。 Naxosでは平均律のみヤンドーが担当しているが、是非リュプサムに録音してもらいたかった（1巻の前奏曲を11曲だけ録音しているが）。
第1巻と同じことが言える。 まともに正確に弾けている曲の方が少ないと言っていい。 特にテンポの揺れはプロとは思えない。 最後の24番フーガは早く録音を終わらせたいと気がせくのか、特にテンポの走りがひどい。 「買ってはいけない」盤である。