第4回浜松国際ピアノコンクール1次予選第3日(11/15)のレポートです。

浜松国際ピアノコンクール(以降、浜松コンと略)は3年ごとに浜松市で行われるコンクールで、1991年に始まり今回が4回目。 日本国際音楽コンクールがなくなってしまった今、日本で行われる最もレベルの高いピアノコンクールと言ってよいだろう。 (特に前回はレベルが高かった。) 日程等は公式ページを参照してもらうとして、今回は1次予選の3日目から聴き始めた(本当はもちろん全部聴きたかったんだけど)。

今回の出場者は(参加承認は104人だったがキャンセル者が出て結局)全部で79人。 国別に見ると、日本の15人をおさえてロシアが16人でトップ(キャンセル前はなんと24人だった)。 あとは中国が7人、ウクライナが5人、ルーマニア、イタリア、韓国がそれぞれ4人と続く。 ロシアからの参加者が多いが、今年のショパンコンクールは日本人が一番多かったなど、国によって好みのコンクールがあるのかもしれない。 ちなみにそのショパンコンクールで2位だったイングリッド・フリッテルはこの浜コンにエントリしていたのだが(やっぱりと言うべきか)キャンセルしてしまった。 同じくショパンコンクールで当初優勝候補の一人と目されていて結局2次で落ちてしまったフョードル・アミーロフはしっかり出ている(ちょっと楽しみだ)。

場所はいつもの通りアクトシティの中ホール。 ピアノはYAMAHA, KAWAI, Steinway, Boesendorferから選択。 なお恒例になっている予選演奏のテープ販売は時代を反映してか今年からCD(CD-R)に変わった(限定10本というのは変わらず)。 変わったといえば予選のチケット代が1次、2次、3次それぞれ*通し*で1000円になった。 アマチュアピアノコンクールでの(プログラム付きで)無料というのにはかなわないけど、演奏レベルを考えると超格安である(と思うのは私だけかな?)。 (それでも1次予選では空席が目立つのは勿体ないような、すいていて良いような複雑な気分。)

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1次の課題曲は以下の3曲(20分以内)で前回と同じ。 かなり自由度が高いので各人の得意な曲で勝負できる(が、その分その人の個性が試されると言えそう)。 今後もこれが踏襲されそうである。

  1. J.S.Bach 平均律クラヴィーア曲集から1曲
  2. Haydn, Mozart, Beethovenのソナタより第1楽章、または第1楽章を含む複数楽章
  3. ロマン派の作曲家の作品から1曲
以下、1次予選第3日の16人の感想を(演奏順、敬称略)。名前の前の番号は出場者番号。
なお今回からは演奏順が出場者番号(アルファベット順)とまったく無関係(ランダム)になった。 なぜ変わったのかわからないが、ひょっとしたら(国によってポピュラーな姓があるので)同じ国の出場者が固まらないようにしたのかもしれない。

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93.シュ・ホン(中国、17歳、男性)

  J.S.Bach: 第2巻ト短調
  Beethoven: ソナタ第23番「熱情」第1楽章
  Liszt: メフィストワルツ第1番
Bachは速めのテンポでまずまずだが、フーガでは細かい動きが(例によってホールエコーが多すぎるせいか)よく聞こえないのが残念。 特に印象に残るわけではないが、完成度の高い演奏という感じ。 Beethovenも様式に従って、あまり自分を出さないというか、羽目をはずさない。 技術的に安定している。もう少し音色の変化や音の美しさがあればよい。 このBeethovenの途中で(まだ時間があるのに)突然ベルが鳴って、中村紘子審査委員長から次のLisztを弾くようにとの指示。確かにこのままではメフィストワルツは終盤のクライマックスの前に時間がきてしまいそうで、的確な判断だったかもしれない。 最後のLisztでもやはり技術がしっかりしていることがわかる。 派手さはないが、スケールやアルペジオなど基本的なところが安定している。 低音がずっしりしており、これで高音部にも華やかさがあればもっとよい。またダイナミックレンジがもう少しあってもよいか。 緩徐部分に出てくる重音トリルのところのリズムにちょっと違和感があった。
全体的に(聴いたのはまだ一人だが)2次に十分行けそうな感じである。


64.ルイス・ロドリゲス=サルヴァ(スペイン、24歳、男性)

  J.S.Bach: 第1巻変ロ短調
  Beethoven: ソナタ第27番 第1楽章
  Rachmaninov: コレッリの主題による変奏曲
Bachは弱音主体の優しい音。繊細な感じである。プレリュードは不安な感もあったが、音色をよくコントロールしており、全体にはまずまず。 Beethovenも歌重視で、響きをよく聴いている感がする(どうやら彼はリリシスト系と言える)が、リズムにもう少し躍動感が欲しい。何度か出てくる下降音型ももう少し粒立ちをくっきり明確にしたいところ。 Rachmaninovも最初の主題の音色が美しいが、やはり細かい急速な動きのところを明確に出したい。 彼は技巧を前面に出さないタイプだが、キレの点で物足りなく感じるところもある。 悪くない演奏であることは確かだが…。 (なお、彼も途中で時間切れ打ち切り。)


58.パク・ジョン ファ(韓国、26歳、男性)

  J.S.Bach: 第2巻ト短調
  Haydn: ソナタHob.XVI-42
  Schumann: トッカータ
Bachは最初のシュ・ホンと同じ曲だが、彼に比べるとやや音の出し方が無造作な感じがする(音色の変化など考えてはいるが)。 フーガもアーティキュレーション、デュナーミクのコントロールがもうひとつ。何かだらしなく聞こえる。 平板な感じ。(シュ・ホンの方がいい感じであった。) Haydnは脱力感のある音というか、優しい音。優美という言葉が似合う。 力一杯弾かないが、もう少し1音1音をはっきりとメリハリをつけてもよいと思う。 第2楽章も同じ優美路線だが、急速楽章なのだからここは対比の意味でももっと軽快にいった方よいと思う。 Schmannはこれも優美な、流れるような感じ。 アーティキュレーションというかアクセントをあまりつけない。 中間部の連続オクターヴなど上手く、技術的には水準以上だが、リズムがはっきりしないで流れていく感じで、メカニックは悪くないだけに惜しい気がする。 これだけ力の抜けたトッカータも珍しいかも。


18.イーゴル・グリーシン(ウクライナ、17歳、男性)

  J.S.Bach: 第2巻ハ短調
  Beethoven: ソナタ第23番「熱情」第1楽章
  Chopin: バラード第2番
眉毛が薄くて一見ちょっと強面な顔立ちである:-)。 Bachのプレリュードはテンポが速く躍動感があるが、さらに安定感があるとよい。 フーガはやや立体感に欠ける。声部の弾き分け、浮き立たせ方に難あり。 Beethovenは勢い、流れを重視しているようだが、やや弾き急ぐ感がある。 もう少しフレーズとうか段落の区切りに間があってもよい。 和音の響きにもあまり注意を払っていない感じ。 指回りはたいしたものだが、古典派となるともう少し端正さというか楷書的なものを望みたくなる。 この勢い重視路線もロマン派(Chopin)には合っていそうである。 流れが変に停滞しないところがよい。 もう少し内声の響きなど立体感があるとよいが。 またコーダはもっと(ミエをきるような感じで)盛り上げてもよかったのではないかな。 何か猛スピードで駆け抜けた感がある。


24.マルティン・カルリーチェク(チェコ、23歳、男性)

  J.S.Bach: 第2巻ト短調
  Haydn: ソナタHob.XI-49 第1楽章
  Liszt: 水の上を歩くパラオの聖フランチェスコ
Bachのこの曲はこれで3人目だが(なぜか主題のデュナーミクは皆同じ)、プレリュードはテンポをやや遅めにとりその分強弱の表情を多めにしている。 音色の変化はそれほどないが、音がよく響く。 フーガは例によってホールエコーで細かい動きがよく聞こえず、(無理な注文なのかもしれないが)もう少し明晰さ(と安定感)が欲しい。 Haydnは美音を聞かせ、悪くない。 溌剌とした感じは抑え、どちらかというと落ち着いた、歌重視の弾き方である。 Lisztは最初のところの歌い方がやや平板な感じ。 クライマックスのところもやや盛り上がりに欠けるというか、もっとクレッシェンド、アチェレランドしたい。ダイナミックレンジが狭い感じがある。
全体的にはどうもLisztでの押しが弱い感じである。


91.ワン・リー(カナダ、26歳、男性)

  J.S.Bach: 第1巻イ短調
  Beethoven: ソナタ第26番「告別」第1楽章
  Liszt: 葬送
顔立ちからすると多分中国系である。 Bachのプレリュードは速めのテンポでクッキリした音とアーティキュレーション、まずまずの安定性がある。 フーガは一転レガート主体でテンポが安定している。 「告別」の序奏はゆったりとしたテンポで、音の出し方をよく吟味しており、音程感もあってなかなか聞かせる。 が、主部に入り問題の急速連続和音の直前で弾きなおしてしまった(これは痛いかも)。 その後は一応うまくいったが、やはり急速和音の直前のところでもう少し明晰さが欲しい。 全体的にはやや平凡な出来か(細かい動きでの明晰さと安定感に課題)。 Lisztは開始の重低音がよく響き、やはりゆっくりしたテンポでよく歌う。 技巧のキレより、そういうところで勝負するタイプという感じ(技術が劣るという意味ではないが…)。 (今年はこういうタイプが結構多い感じがする。)


46.松井利佳子(日本、22歳)

  J.S.Bach: 第1巻嬰へ短調
  Beethoven: ソナタ第32番 第1楽章
  Chopin: 舟歌
Bachのプレリュードは優しいヴェールのかかったような音。トリルが美しい。1箇所ミスったのが惜しい。 フーガもゆったりしたテンポだが、軽快に弾いてプレリュードとの対比を出した方がよいと思う(が、こういう行き方ももちろんあるだろう)。 内声も歌わせているが、バスももう少し出した方がよいかも。 完成度は高いが、全体的にちょっと大人しいかな。 Beethovenは最初の和音の響きが平板でもうひとつ。 リズムが重く、特にフォルテやアクセントでの音が鈍い。 ここまで聴くと肉体的なハンデを感じてしまう(選曲がどうであったか)。 速い走句での指回りも今ひとつ安定性、明晰さに欠ける。 最後のChopinも優美さを狙っているんだろうけど、打鍵が浅いというか音をしっかり出してないように聞こえる。 アクセントというか起伏も少なく正直言ってイマイチの出来。後半は聴いていてダレてしまった。 日本人の演奏に対してよく言われる、「能面のような、あまり起伏のない、平べったい感じ」という言葉を思い出してしまった。


49.タチアナ・ミチコ(ロシア、21歳、女性)

  J.S.Bach: 第1巻嬰ト短調
  Mozart: ソナタ第3番K.281 第1楽章
  Liszt: メフィストワルツ第1番
Bachは彼女もくぐもった音だが、フーガは主題の歌い方がやや平板(ニュアンスが少ない)。 Mozartも音をセーヴしすぎの感があり、そのせいか細かい動きで何か不安定。 覇気というか溌剌さがもっとあってもよいと思う(ファジル・サイのようにとまでは言わないが)。 Lisztも語尾や細部であいまいになるところあり。 リズムの躍動感も(リズムが死んでいるというほどではないが)もうひとつ。 緩徐部もテンポが遅いためダレ気味。 重音トリルは上手いのだけど、ダイナミックさ、力感の面でも物足りない。 彼女も全体的にイマイチであった。


56.トムス・オストロヴスキス(ラトビア、20歳、男性)

  J.S.Bach: 第2巻嬰ニ短調
  Haydn: ソナタHob.XVI-49 第1楽章
  Schumann: トッカータ
Bachは小細工なしのストレートな弾き方(今回はこういう人の方が少ない)。コクは少ないがそれほど悪くないかな。 ただ左手をもう少し出して2声を対等に扱った方がよいかも。 フーガは立体感が乏しい。声部の弾き分けに難というか、上声以外は主題の入りしか出てこない感じがある。 テンポもやや硬直気味。 Haydnは24番のカルリーチェクと比べるとやや無造作に音を出している感じ(よく言えば神経質でない)。 かと言ってキビキビ弾くわけでもなく抑制して弾いているので何か中途半端な感じ。 テンポが走るところもある。 Schumannもアーティキュレーションが曖昧。 全体がモゴモゴした感じでフレーズがはっきりしない。 第2主題も歌っていない。 技術的には破綻なくいい線いっているのだが、素っ気無いというか、ただ弾きましたという感じである。


81.アミール・テベニヒン(カザフスタン、23歳、男性)

  J.S.Bach: 第2巻イ長調
  Haydn: ソナタHob.XVI-50 第1楽章
  Liszt: ハンガリー狂詩曲第15番「ラコッツィ・マーチ」
Bachのプレリュードは立体感があり、優美。左手も要所で歌っている。 フーガは一転、明晰な音でテンポもキビキビしていて悪くない(対比が出ている)。 バスをもう少し強調した方がよいと思ったところもあったが、完成度が高い。 Haydnも音をしっかり出しているのがよい。 もう少し力強くてもいいけど、他の人のように欲求不満になることがない。 音色の変化もある。 細かいところで多少注文をつけたいところもあるが、ツボをよく押さえている。 ここまで聴いてかなり期待を持ったが、最後のLisztも期待通りの良い出来。 音に輝きがあり、表情にメリハリがあり、テクもありそう。欲を言えばさらにスピード感(畳み掛ける感じ)があればよい。 今日の他の人の出来からすると2次に行けそう、というか行って欲しい。 (演奏曲がわりと好みなこともあって)今日初めてCDを買う気になった演奏である(というわけで購入した)。
(帰ってそのCDを聴いてみるとBachなどは意外に響きが少なめで淡白な感じ。やはりホールの客席で聴くのとは音が違うようである。)


96.ツァン・シ(中国、22歳、女性)

  J.S.Bach: 第1巻嬰ハ短調
  Beethoven: ソナタ第23番「熱情」第1楽章
  Liszt: 超絶技巧練習曲第10番
ピンクのドレスがなかなかかわいらしい。 Bachは丁寧で、フーガでは主題の入りがよく出ている(主題の入り以外でも内声やバスをもっと出してもいいと思うが)。音色の変化があるとさらによさそう。 全体的に悪くない。良い意味で教科書的な感じ。 Beethovenは最初の右手の急速な走句で少しミス。音に深み、重みがない。和音も平板に聞こえる。 まだ多分に「単に(楽譜どおりに)弾いているだけ」状態に感じられるところがある。 Lisztは冒頭はゆっくり始めたため音の分離がよかったが、その後はもうひとつ。 右手ばかりが聞こえてきて左手の支えが弱い。 技術的にもイマイチの感がある。 起伏が少なく、音楽の盛り上げ方ももう一つ納得がいかない。


78.高橋麻子(日本、28歳)

  J.S.Bach: 第2巻嬰ハ短調
  Beethoven: ソナタ第28番 第1楽章
  Liszt: 葬送
最初はLiszt(Bachから始めなかったのは今日は初めて)。 音(特に和音)が平板でちょっと聴くのがつらい。 緩徐部分は普通だが、後半の左手が機関車のようなリズムを刻むところが重くてもっさりしている。 左手ももやもやしてよく聞こえない。 Lisztを最初に持ってきた意図がよくわからないが、私にとっては印象を悪くしただけの感あり(この後の曲もその先入観で聴いてしまうのは避けられない)。 Beethovenは可もなく不可もなくというところ(もう少しメリハリがあった方がよいか)。 それにしても28番の第1楽章だけというのは選曲としていかがなものか。よくわからないが、たとえ上手く弾いたとしても高い点は付けられないのではないかな(せめて第2楽章も含めてくれないと)。 最後のBachもプレリュードは丁寧だがフーガは何かもっさりして指の弱さ、不安を感じる。
全体的に正直言ってこのコンクールの1次の水準に達していない感じだ。


47.ヴィヴ・マクリーン(イギリス、26歳、男性)

  J.S.Bach: 第1巻変ホ長調
  Beethoven: ソナタ第8番「悲愴」第1楽章
  Medtner: おとぎ話Op.8-2
ほとんど禿げ上がった坊主頭をした、ちょっとお茶目そうな人である。 Bachは出だしの1音を聴いて、これはやりそうな感じ。 音色やデュナーミクがよくコントロールされ、ニュアンスに富んでいる。引き込まれた。 声部の弾き分けも申し分ない。 暖色系の音で、KAWAIの良さを引き出している(ちなみに今回はYAMAHAを使う人が大多数)。 このBachだけでもCDを買ってもよいくらい(結局買わなかったけど)。 Beethovenも音色のコントロールがよい。大人の演奏という感じ。 速い走句で粒立ちの良さ(明晰さ)があればもっとよいかな。 最後のMedtnerはあまりなじみのない曲なのでよくわからない(しかしMedtnerはロマン派なのか?)が、もう少し音に透明感があった方がよい気がした。 ホールエコーのせいかやや音が混濁する。 彼は2次でもう一度よく聴いてみたい人だ。


22.ドミトリー・カプリン(ロシア、22歳、男性)

  J.S.Bach: 第1巻ヘ長調
  Mozart: ソナタ第2番K.280
  Chopin: ワルツ第2番Op.34-1
Bachのプレリュードは軽やかな音で指回りが安定。かなりの実力者(ここに出ること自体かなりの実力者なんだけどね)という感じ。 フーガも弱音主体かつ速めのテンポ(暗譜が不安で弾き急ぐとよくそうなるんだけど、そういう感じとは違う)。 何か音の出し方が変わっている感じ。こういう音を出す人は日本人では(少なくとも音コンでは)あまり聴かない。 Mozartも音色が変わっている(ちなみにピアノは皆と一緒でYAMAHA)。 ひとことで言うと非常に軽やか。常にmf以下の音量で強弱をつけている感じ。 それでいてタッチが安定していてテクはかなりありそう。テンポも速い。 第2楽章も音がきれいで相変わらず弱音主体。 強弱や音色がよくコントロールされている。 音に透明感があるのがマクリーンと少し違うところ(ピアノの違いもあるだろうが)。 第3楽章も羽根のようなタッチ。それでいて粒が揃っている。 このMozartは気に入った。 最後のChopinの出だしでやっとfを出したという感じ(でもffではない)。 やはり軽やかで上品。 プログラムを見たときは1次でChopinのワルツという選曲はどうかと思ったが、ワルツをここまで聞かせるとはニクい。 力一杯叩くようなところはまったくなく、改めて強弱は絶対的なものでなく相対的な差が重要であることを感じた。 彼も早速CDを購入した。


32.マリア・キム(ウクライナ、19歳、女性)

  J.S.Bach: 第1巻嬰ハ長調
  Beethoven: ソナタ第3番 第1楽章
  Liszt: ハンガリー狂詩曲第12番
キムという名前だが別に韓国系ではないようである(多分)。 Bachは軽快なテンポで粒立ちがよい。フーガもスタカート主体のアーティキュレーションで飛び跳ねるよう。指回りが安定している。 Beethovenは冒頭の重音トリルが完璧(再現部はそうでもなかったが)。 提示部を聴くだけでメカニックが優れていることがわかる。 速い走句でも音が明晰。聴いていて気持ちがよい。 第2主題での変化というか歌い方が少なく、若い人にありがちなメカニック重視な弾き方だけど嫌いでない。 Lisztもメカニックの強さが出ている(選曲がよい)。 ラッサンでの歌い方も悪くない。ただ重音のフレーズのところのクリアさがもうひとつだったか。
全体的に今日聴いた中で水準以上であることは確かである。


88.ソフィー マユコ・フェッター(ドイツ、24歳、女性)

  J.S.Bach: 第2巻変ホ長調
  Mozart: ソナタ第11番K.331 第1楽章
  Chopin: 前奏曲Op.28-3,15,24
名前と容貌からして日本人とのハーフっぽい。 Bachはゆったりめのテンポで左手のアクセントがなかなかよい。 古楽器(チェンバロ)奏法を意識した感じがして悪くない。 フーガも各声部に神経が行き届いている(特にアーティキュレーション)。 Mozartも音程感があって、自分の音をよく聴いている感じがする(いわゆる耳で弾く状態)。 音がとても優美で繊細。弱音でのタッチのコントロールが非常に良い。 解釈も(こういう優美路線としては)申し分ない。 Chopinも声高にならずさらりとさりげなく歌う感じ。 最後の24番も激しさはそれほどでもないがしなやか。トリルがもうひとつよく聞こえないのが惜しい。
全体的にセンスのよさを感じる。

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というわけで1次の3日目を聴き終えた。 今日聴いた中では

  アミール・テベニヒン、ドミトリー・カプリン
の2人が気に入った。次いで
  ヴィヴ・マクリーン、マリア・キム、ソフィー マユコ・フェッター
も2次でまた聴きたいところ。あとは最初に弾いた
  シュ・ホン
も技術的に安定しており悪くない。 今日は(一時はどうなることかと思ったが)最後の方になってレベルが上がってきた感じである。 inserted by FC2 system