第4回浜松国際ピアノコンクール本選(11/25,26)のレポートです。 今回のコンクールレポートもこれが最後になります。 最終結果もあります。

本選はいつものように協奏曲を1曲。 35曲の中から選択するようになっており、これは前回と同様。 場所も例年通りアクトシティ大ホール。 オケは大友直人指揮の東京交響楽団(ここは前回と違う)。

以下、演奏順に感想を。


(1日目)
のっけから申し訳ないが、実はこの大ホールはあまり好きではない。 音楽専用ホールではないせいか、中ホールとは逆に響きが少ないというか音の通りがあまりよくない感じがする。 しかも今日は(事前の予約時には指定席でよい場所が残っていなかったこともあり)3階自由席(明日は1階席だけど)。 というわけで、それほどよい席で聴いたわけでないことをお断りしておく。 (ところが1階指定席を見てみると結構席が余っていて、どういう座席予約システムになっているのか知らないが、ちょっとムカツク。)

27.オルガ・ケルン(ロシア)

  Rachmaninov: ピアノ協奏曲第3番
これまでの予選と同じの、やや地味な衣装で登場。 席のせいかホールのせいか、やはり音にもう少し伸びがあるとよい気がする。 第1楽章展開部はなかなかのスピード感があってよいが、和音連打などで音が少し単調な感じがする。 またケルンにしてはあまり凝ったことをせず、解釈はオーソドックス。 カデンツァ(長い方)の終わりのトリルのところをちょっとミスをした気もする(が、気のせいかな)。 第2楽章もオーソドックスで、前回のケンプほどのひねりはない。 (でもケンプはひねりすぎたのか、第3楽章で合わないところが多かったんだよね…。) 終楽章の出だしも速からず、遅からず、普通テンポ。その部分で小さなミス。 全体的に小さな傷はあるものの大きなミスもなく、立派な演奏と言える。 ただ大きな音を出すのに精一杯で、さすがの彼女もそれほど変化をつける余裕はなかったような感じ。 (そんなことをしても、この席からでは聞き取れなかったかもしれないが。) 悪くは無いものの、それほど印象に残る演奏でもなかった。


90.フレンク・ヴィジ(ルーマニア)

  Tchaikovsky: ピアノ協奏曲第1番
出だしの和音は思ったほど叩かない。 その後も音が、よく言えばマイルド、悪く言えば多少ボケている。 ケルンの方が音がまだ硬質で通っていたような気がする。 またスケールのような細かい動きで粒立ちがもうひとつ。 ダイナミックレンジが狭く、アクセントも少なめで、メリハリが足りない感じ。 (贔屓目もあるかもしれないが)前回のタラソフの方が良さげである(前回は2階席でもあったが)。 第2楽章も、情感がこもっているのはいいが、やや音量が小さい。 中間部の指回りもややキレにかける。 終楽章も、オケの方がメリハリがある(笑)。 全体的にスケールが小さいというか、小粒である。 あくまで3階席から聴いた印象であるが、いまひとつ平凡な出来だったように思える。

この後の休憩中に、ピロジェンコとカプリンが一緒に入ってきて次の演奏を聴いていた(その上方にはさらにチェレパノフとヴィダルもいる)。 できれば彼らにこのステージに立ってもらいたかった…。


83.上原彩子(日本)

  Rachmaninov: パガニーニの主題による狂詩曲
ツートンカラーのおしゃれなドレスで登場。 最初から打鍵が鋭く、音にメリハリがある(ヴィジの後だけによけい差が出る)。 しかも一本調子にならずに、強弱の差もよく考えてつけている。 最初の方の緩徐変奏(第7変奏)でも音が硬いのはもうひとつだったが、全体的に音がよく響く。 (曲が違うので単純に比較はできないが、今日の中では音の通りは1番かも。) 有名な緩徐変奏(第18変奏)でも結構うまく歌っている。 技巧のキレや指回りが特に印象に残るというほどでもなかったが(そもそもこの曲はそれほど好きでないし)、全体的にまずまずの出来。 少なくともヴィジより良いと思った。


(2日目)
前述したように、今日は1階席(というわけで音の比較は昨日とは単純にできない)。

2.フョードル・アミーロフ(ロシア)

  Rachmaninov: パガニーニの主題による狂詩曲
黒いカッターシャツに薄いグレーのジャケットで登場。 本選までノータイとは思わなかった。 なにか街のアンちゃん風である(笑)。 当然ながら今日も背もたれ付き椅子である。 出だしの方の急速な変奏では少しオケより前に走る感じがある。 KAWAIのせいか、音にもう少し芯がないように感じられる。 それでも最初の方の緩徐変奏(第7変奏)は上原さんより感じが出ている。 前にも言ったように私はこの曲がそれほど好きでないため(そもそもちゃんとした協奏曲でもないのにコンクール課題曲に名を連ねているのは納得しかねると思っている)、曲のポイントがもうひとつよくわからないし、席も昨日と全然違うので、昨日の上原さんとどちらがよかったか言いかねるが、強いていてば緩徐部分での歌い方ではアミーロフ、音の鋭さや伸びでは上原さんか。 指回りなどの技巧は問題ないし、全体的にはそれほど悪くない感じである。


43.イム・ドンへ(韓国)

  Chopin: ピアノ協奏曲第1番
第1楽章は速めのテンポ。 ピアノの開始和音こそまずまず力強かったのだが(それでも力一杯ではない)、相変わらず小さく繊細な音で、表現も淡白。 タメやキメ、アゴーギクが少なく、例によってインテンポ感が強い。 第2主題なども思い切り歌う感じではなく、ちょっと大人しく感じる。 (リサイタルではいいんだけど、さすがにオケを相手にすると…。) 展開部もインテンポで突っ走るため(その技術レベルはたいしたものだが)オケと少し呼吸が合わないように感じられるところもあった。 第2楽章も歌い方は悪くないが、ダイナミックレンジが小さく音色の変化も少ないため、やや盛り上がりに欠ける感あり。 終楽章も速めのテンポでサクサク進む。 技術的には鮮やかそうなんだけど、ただ自分の席まで距離があるためか、細かい動きがここまでクリアに聞こえてこないのが残念。 全体的には、良くも悪くも彼の特徴が出た演奏ではあった。 でも正直言うと、今はまだあまり協奏曲向きのピアニストとは言えないかもしれない。 知らない人がいきなり聴いたら、やけに覇気のない演奏だと思う人がいても不思議でない。


15.アレクサンドル・ガヴリリュク(ウクライナ)

  Rachmaninov: パガニーニの主題による狂詩曲
今日もニッコリ微笑みながら登場。やってくれそうである。 出だしから音がよい。音に輝きがある。 変化も付いている。 強弱やアゴーギクにメリハリがあり、アクセントもついていて、いわゆる「キメ」が出来ている。 贔屓目も入っていると思うが、やはりこの曲を弾いた3人の中では一番よい。 歌うときは弱音をうまく使うし、急速部分でもデュナーミクをつけるのでよけいに勢いを感じる。 やや意外だったのは「怒りの日」のテーマが出てくるところ(第10変奏)で、そのテーマをあまり強く弾かなかったところくらいか。 (あと最後の終わるところでオケとちょっとずれたかな。) 技巧も万全だし落ち着いているし、全体的にかなりよい出来だったと思う。 (終わったときの拍手も気のせいか他の人より長く続いていたような。)


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というわけで本選全員の演奏を聴き終えた。 全演奏を聴いて私がつけた順位は以下。 ただしこれは本選だけでなく、3次を含むこれまでのすべての演奏を考慮したもの(ただし後のステージほど重視)である。 (実際の審査がどのような基準で行われるかは知らない。)

  1.アレクサンダー・ガヴリリュク
  2.フョードル・アミーロフ
  3.イム・ドンへ
  4.オルガ・ケルン
  5.上原彩子
  6.フレンク・ヴィジ
実は1位以外の順位はそれほどこだわりがあるわけではなく、ためしに付けてみたという感じ。後になったらまた気が変わるかもしれない(半ば、好きにしてという感じ)。 本当は本選進出メンバーを見た時点で既に私の中で1位はガヴリリュクだったのだが(笑)、本選を聴いてその思いを強くした次第である。 2位と3位は微妙なところ。アミーロフは3次はもうひとつだったが本選はまずまず。 逆にイムは3次はよかったが本選はもうひとつだったように思う。 ケルンは3次も本選も悪くはないが、(特に本選で)もうひとつ印象が薄かった。 上原さんは3次はあまり印象に残らなかったが本選はまずまずだった。 ヴィジは逆に3次は悪くないが本選の印象がよくない。

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で、実際の結果は以下の通り。

  第1位: アレクサンダー・ガヴリリュク
  第2位: イム・ドンへ
       上原彩子
  第3位: オルガ・ケルン
  第4位: フレンク・ヴィジ
  第5位: フョードル・アミーロフ
  (奨励賞: 奈良希愛、アミール・テベニヒン)
  (日本人作品最優秀演奏賞: 上原彩子)
ガヴリリュクが1位になってよかったよかった。 あとは上原さんとアミーロフに対する評価が私と違うようだが、上原さんの本選は悪くなかったし(ホーム有利?もあるし、日本人に厳しい?私の目もあるし)、これもありうるだろう。 そういう意味では3次結果のレポートでの日本人枠云々というのは言い過ぎだったかもしれない。 まあ前回も、優勝したバックス(今年のリーズでも優勝)を私はあまり買っていなかったなど、こういう評価(というか趣味)の違いはよくあること。 (ショパン12月号に載っている、ショパンコンクール5位だったAlberto Noseに対する審査員の中村紘子と遠藤郁子の対照的なコメントなどもよい例。)

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恒例(?)の、コンクールハイライトCDに入れるならこれ!、ですが、今回はめぼしい演奏はCDまたはMDを入手(予定)済みなのでそれほど切実な意味はないのですが、一応挙げておきます。 当然、曲自体への私の好みもかなり入っています(^^)。

ピロジェンコは入賞しなかったので挙げなかったが、彼には是非どこかのレーベルにDutilleuxのソナタを録音して欲しいものである。

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というわけで今回のレポートも終わり。 全体的な印象としては、最後に取るべき人が取ってよかったが、他に魅力的な人も途中で落ちてしまったのはいつものことながら残念であった(テベニヒン、ピロジェンコ、カプリンなど)。 個人的には2次の進出者を前回なみに増やして欲しかった気がするけど、1人の演奏時間を増やしてじっくりみた方がよいという、ある審査員の意見が新聞に載っていたので、この方向は変わらない(あるいはさらに進む)かもしれない。 いずれにしても、今回入賞した人は(しなかった人も)今後さらに精進して活躍してほしいものである(えらそうだな(笑))。 (おしまい)

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