13.グレゴリー・デターク(アフリカ、21歳、男性)
Chopin: Op.25-6 Liszt: ラ・カンパネラ Debussy: 半音階のための 一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Schumann: 謝肉祭Chopinの25-6はテンポがゆっくり。丁寧に弾こうとしているが、その分勢いが失われている。沈滞した感じ。 次のLisztもよく言えば丁寧(それでもミスは結構多い)、悪く言えば恐る恐る弾いている感じ。勢いが全く感じられない。 1次でも言ったが、去勢されたような演奏である。 Debussyは出だしでミス。前2曲より多少マシだが、よいとも言えない。やはり躍動感というものがない。 ここまで聴いてかなり期待できなくなったが、最後のSchumannは*意外と*いい。 ノリは悪くないし、勢いが出てきた。(この曲だけはどこか解放されたみたいだ。) ただ仕上げは粗いし音はあまり磨かれていない。 調子も尻上がりによくなっている感じだが、前の3曲の不出来をくつがえすほどではない。
48.ミハイル・リフィッツ(ウズベキスタン、21歳、男性)
Schumann: 謝肉祭 一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Chopin: Op.25-11 Liszt: 超絶第10番 Rachmanionv: Op.39-9今日注目している2人のうちの一人(もう一人は言わずと知れたコブリン)、リフィッツである。 Schumannは音のコントロールが上手い。やはりデタークより一枚上である。 音色に対するsensitivity、音の磨き方が違う。フォルテ和音も輝かしい。 表現の完成度も高い。 コンクールで聴く謝肉祭では前々回のウラシンの演奏が印象に残っているが(彼は個性的な演奏)、それ以来の好演と言える (リフィッツのはどちらかというと正統派)。 Chopinもかなり良い。ときどき左手が弱くなることがあったが、それを除けば模範的。特に右手が上手い。 Lisztも冒頭音型が上手い。スピード感もあり、今回聴いた10番の中では文句なしに1番の出来。 わずかに瑕があるのが惜しい。 最後のRachmanionvももちろんよい。スケールが大きいし、なんと言っても音がよい。まさにRachmanionov向けの音である。
66.セルゲイ・サロフ(ウクライナ、24歳、男性)
一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Chopin: ノクターンOp.49-2 Chopin: ソナタ第2番 Chopin: Op.25-11 Scriabin: Op.2-1 Liszt: ラ・カンパネラChopinのノクターンはまずまず。 ソナタの方も悪くはないが、特に良くもない。 細部の磨きがまだという感じ。迫力とスピード感という点でももう一押し足りない。 また音が必ずしも美しくないのが痛い。 多少荒削りだが田村君の方が印象に残った。 次の25-11も悪くはないが、リフィッツの後だとちょっと分が悪い。 Scriabinはまあまあ。よく歌っていた。音にもっと魅力があるとよいが。 最後のLisztも技術的に安定感があって悪くない。途中のミスが痛いが。
77.須藤梨菜(日本、16歳、女性)
一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Chopin: Op.25-8 Liszt: 鬼火 Debussy: 4度のための Mendelssohn: 幻想曲「スコットランド・ソナタ」 Liszt: コンソレーション第3番 Liszt: スペイン狂詩曲Chopinの25-8はちょっと弱い感じだが悪くはない。 鬼火はちょっと小手先っぽく聴こえる。メリハリがない。 Debussyはボヤっとした演奏。キレがまったく感じられない。 Mendelssohnもあまり感心しない。起伏が少ないし、弱音が小手先で弾いているように聴こえる。 第2楽章も細かい音型がクリアに聴こえない。 唯一終楽章だけはそれほど悪くない(甘いか?)。 でも響きをもっとコントロールしないと。残響でボワーっとした感じになりがち。 最後のスペイン狂詩曲もまだまだという感じ。 まずリズムがよくない(狂詩曲にしては杓子定規すぎる)。和音もにごった感じ。 ニ長調の部分の3度も昨日のイゴシナと比べると落ちる。 クライマックス以降は技術的にもちょっと息切れした感じで、こなすのが精一杯(それでもちょっと乱れていた)という雰囲気。
35.アレクサンドル・コブリン(ロシア、23歳、男性)
一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Liszt: パガニーニ練習曲第2番 Chopin: Op.10-9 Rachmaninov: Op.33-5 Brahms: 間奏曲Op.118-2 Brahms: パガニーニ変奏曲第1、2集注目のもう一人、コブリン登場である。1次ではあまりテクニカルな曲を弾かなかったが、技巧の方はどうであろうか。 Lisztは中間部が意外と遅めのテンポ。主部も落ち着いて丁寧さを心がけているようだが、割とフツーの演奏という感じ。 Chopinの10-9(このような地味な曲を選ぶとは珍しい)もしごくまっとうな演奏。音楽的ではあるがあまり強い個性は感じない。 Rachmaninovも中間部であまり加速せず、技巧を見せつけることには無関心のようである。 最後のパガニーニ変奏曲はさすがにテクニックをみせつけないわけにはいかないが、これも微妙な表情を付けて音楽的に弾く。 速いテンポでバリバリ弾くというタイプではなく、むしろ抒情的。 技術が音楽に奉仕する感じである。 響きに神経を遣っており、表現の完成度も高い。 テクニックも実に安定している。
44.リー・ヒョ ジョ(韓国、18歳、女性)
Beethoven: エロイカ変奏曲 一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Chopin: Op.10-4 Liszt: 超絶第10番 Debussy: 半音階のための Liszt: ハンガリー狂詩曲第2番Beethovenはツボを押さえた演奏で悪くない。技術的に非常に安定している。 フーガの前の緩徐変奏はもっと甘い音色を使って歌ったらよいかも。 Chopinも細かい音型が非常に滑らか。ただもう少しメリハリをつけてもよいか(特にアクセントというかキメの部分)。 Lisztの超絶10番はリフィッツと比べると冒頭の交互連打のclarityはやや落ちるが、でも水準以上の出来。 Debussyもよい。今回この曲を聴くのは3度目だが、やっとまともな演奏を聴けたという感じ。 最後のLisztは昨日のセレデンコと違って行儀のよい「模範演奏」タイプだが、技術的な洗練という点では彼女の方が上。 (でも狂詩曲の精神はセレデンコだろうな…。)
86.矢島愛子(日本、21歳、女性)
一柳慧: ピアノのためのピアノ・ポエム Chopin: Op.25-5 Liszt: 吹雪 Scriabin: Op.65-3 Schumann: フモレスケChopinの25-5はゆったりめのテンポで抒情性を重視。 Lisztは出だしのpの音が非常にデリケートでよい。ただ目立つところでミスったのが痛い。 Scriabinは冒頭音型のキレがもうひとつ(特に合いの手のように入るところ)だし、ミスもあった。 最後のフモレスケはあまりよく知らない曲ということもあってあまり印象に残らなかった。 急速な部分で音の粒立ちが悪い(ちょっとモゴモゴする)感じだし、和音のヌケももうひとつ。 なによりちょっと丁寧に行き過ぎて、楽天的な明るさ、開放感が足りない気がする。 そもそもあまりテクニカルでない曲をメインに持ってくるのはどうなのか。 (前々回のケンプも2次でフモレスケを弾いたが、彼くらいのセンスの持ち主でないと難しいような。)
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というわけで2次の最終日を聴き終えた。 今日聴いてよかったと思ったのは
ミハイル・リフィッツ アレクサンドル・コブリン リー・ヒョ ジョの3人である(演奏順)。
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2次の3日間トータルでは、3次に進んで欲しいと思うのは以下の9人(演奏順)。
ダヴィッド・フレイ ラフアゥ・ブレチャッチ 田村響 鈴木弘尚 アクレサンドル・ピロジェンコ ロマン・デシャルム ミハイル・リフィッツ アレクサンドル・コブリン リー・ヒョ ジョ3次進出者は12名の予定なので、運がよければこの人達がすべて進めるかもしれないが、それは多分無理だろう。 1次の結果を見ると今回の審査員の嗜好は私とだいぶ違うようである。 特に、2次で私がそれほどよいと思わなかった人のほとんどは、1次で聴いたときもやはりイマイチと思っていて、それでも 審査員が2次に進めたということは、今度も同じことが起こる可能性は十分にある。
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そして実際の結果は、以下の13人が3次進出。
ダヴィッド・フレイ ラフアゥ・ブレチャッチ 鈴木弘尚 アントン・サルニコフ ヴィコトリア・コルチンスカヤ ロマン・デシャルム 岡本麻子 関本昌平 ヴァレンティナ・イゴシナ タチアナ・コレッソヴァ セルゲイ・サロフ 須藤梨菜 アレクサンドル・コブリンというわけで今回も大いにはずれた。 正直、今回の審査員の好みはよくわからない。 ひょっとして、(私が意外に思った人の顔ぶれを見ると、)今回の審査員は(狭義の)テクニックというものをあまり重視していないのかも知れない。 だとしたら私と評価が大きく違うのもしかたないのかもしれない。 かと言って代わりに何を重視したのかと言われると?だが…。