第6回浜松国際ピアノコンクール2次予選第1日(11/17)の感想です。


2次予選の課題曲は以下(50分以内)。

  1. Chopin: Op.10またはOp.25から1曲
  2. Liszt, Debussy, Scriabin, Rachmaninov, Bartok, Stravinskyのエチュードから2曲(異なる作曲家から)
  3. Schubert, Mendelssohn, Chopin, Schumann, Liszt, Brahms, Franck, Faure, Debussy, Ravelの作品から1曲ないし数曲
  4. (a)北爪道夫: <<様々な距離II>>
    (b)徳山美奈子: ムジカ・ナラ 〜ピアノのための〜
   のいずれか
委嘱作品外は前回とまったく同じで、 委嘱作品が選択性になっているのが新趣向である。 (ちなみにプログラムをみると、ムジカ・ナラを選んでいる人が25人中22人と圧倒的に多い)。

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11. CHEUNG Jae-Won

 北爪道夫: 様々な曲II
 Chopin: Op.10-4
 Debussy: 組み合わされたアルペジオのための
 Stravinsky: Op.7-4
 Brahms: 6つの小品Op.118
 Ravel: スカルボ
1次で聴けなかった2人のうちの1人であり、今回初めて聴く人である。 北爪道夫の曲は予想していた通り、これまでの委嘱作品と同じ系統の私にはワケワカメ系の曲。 残りのDebussy〜Ravelはどの曲もうまくまとめており、3次に行ってもおかしくない出来。 (Brahmsは苦手曲だったのであまりはっきり言えないが。) ただ個人的には彼女の演奏にはあまり魅力を感じなかった。


55. James Jae-Won MOON

 Debussy: 西風の見たもの
 Liszt: ため息
 Rachmaninov: Op.39-5
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Chopin: Op.25-9
 Chopin: ソナタ第2番
Debussyは出だしを聴いて、前の人より音がよく響く感じで前の人より楽しめそうな予感。 Lisztもよい。よく歌っているし中間部の盛り上げ方もダイナミック。1箇所目立つミスがあったのが残念。 Rachmaninovも小さいミスはあったが全体的な音楽の捉え方がよい。センスを感じる。 徳山美奈子の曲は、北爪作品とは対照的にDebussyあるいはRavel風のピアニスティックでわかりやすい曲。拍子感(ビート感)どころか調性感もあり、 これまでの委嘱作品は私には理解不能と不満を言ってきたが、今回こうも極端に振れるとは思わなかった。 Chopinのソナタはオーソドックスな解釈。ポイントは押さえており、特に印象に残るというほどではないが楽しめる演奏。 ただ第2楽章など疲れからか多少ミスが多かったか。 彼は1次のときもそれほど悪いとは思っていなかったが、2次でさらに見直した感じである。最後のお辞儀のときの笑顔がいい。


15. Martina FILJAK

 Brahms: 間奏曲Op.118-1,2、バラードト短調、間奏曲Op.118-6
 北爪道夫: 様々な距離II
 Chopin: Op.25-10
 Debussy: 半音階のための
 Liszt: パガニーニ練習曲第6番
 Brahms: パガニーニ変奏曲第2巻
1次ではHaydnの演奏が印象が残っている女性である。にこやかな笑顔で登場。 彼女も(最初のBrahmsは苦手系なのであまりコメントできないが)どの曲も丁寧に仕上げており好感の持てる演奏。 特にDebussyでは右手より左手を強く出しているのが面白かった。さすがにこのレベルになると単に「弾けました」という演奏の人はいない。 全体的にタッチが洗練されていて滑らかなのが印象に残る。


26. Claire HUANGCI

 Chopin: Op.10-2
 Liszt: 鬼火
 Stravinsky: Op.7-4
 Chopin: アンダンテスピアナートと華麗な大ポロネーズ
 Liszt: ドン・ジョヴァンニの回想
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
1次でのBeethoven告別とChopinバラード第2番が印象に残る女性。今回は純白のドレスで登場である。 Chopinの10-2でいきなり度肝を抜いた。速くて滑らか。別の曲に聴こえるくらいだった。 Lisztの鬼火は最初と最後の半音階上昇が完璧とはいえない感じで(今日の曲の中では)もうひとつだった気もするが、それでもその速さと滑らかさはやはり驚嘆すべきもの。 機械的なところが皆無で、どこをとっても音楽的な表情が付いているのが凄い。 Stravinskyも精緻なタッチでメリハリが効いている。1次ではそれほどはっきりしなかったが実はすごいテクニシャンである。 次のChopinも、アンダンテの部分の夢見るような浮遊感とポロネーズ部分の自在なアゴーギクとデュナーミクが16歳とは思えない。 これをすべて自発的にやっている(教えられてもこうはできない)というのがまた凄い。 そしてLisztが圧巻。 ヴィルトゥオーゾ的というか、単に弾けているというレベルを超えて、彼女の個性的解釈が存分に発揮されている。 私のこの曲のCDを何枚も持っているが、ここまで個性的な演奏はそうはない。 若い頃のArgerichもかくやと思わせる。 恐れ入った。 16歳としてはGavrylyuk並みのインパクトといえそうで、正直前に弾いた3人がかすんでしまった。


87. WANG Chun

 Chopin: Op.10-10
 Liszt: 超絶第10番
 Scriabin: Op.8-12
 Ravel: 夜のガスパール
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
Chopinは模範的演奏でケチをつけるところがない。 Lisztもミスは多少があったがスケールがあってまずまずの好演。冒頭がクリアが弾けているのが好印象。 Scriabin, Ravelも同様で、技術的な筋がよく、音楽性も素直でイヤ味がない。スカルボなども最初の11番より好きなタイプである。 全体に颯爽というか、爽やかなな印象を与える。 問題は演奏時間が短めだったことか(10分以上余らせていた)。


19. Alexej GORLATCH

 Chopin: Op.10-1,2,11,12
 Liszt: 超絶第10番
 Rachmaninov: Op.39-4
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Schumann: 幻想小曲集
1次ではテンペストが非常に好印象だったGorlatch君である。周りの様子を見ているとかなり人気がありそう。 Chopinは10-1は少しナヨっとした感じで個人的にはもう一つだったがそれ以降はまずまずで、特に革命は良かった。 Lisztも抒情的に始まり最後は大きなスケールで締めていた。 Schumannも語り口が上手く、堂々たる立派な演奏。(と思うがこの曲はあまり詳しくないのではっきりはいえない。) 全体としてはメインのSchumannがあまり好きな曲ではなかったせいか1次のときほど印象に残らなかったが、相変わらずセンスがよい。


37. KIM Tae-Hyung

 Chopin: Op.10-1
 Debussy: 組み合わされたアルペジオのための
 Liszt: パガニーニ練習曲第6番
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Brahms: ソナタ第3番
Chopinの10-1が速っ。速すぎてちょっとフレーズが曖昧になるところがあったが攻めの姿勢ということで意気込みは悪くない。 Debussyもメリハリがついていて(正直エチュードの中ではそれほど好きではない曲なのだが)聴かせる。 次のLisztが個人的には特に印象に残る出来。 全体的にテンポが速く、スケールも大きい。韓国人らしい(?)アグレッシブな演奏で気に入った。 徳山のムジカ・ナラも他の人に比べてアグレッシブに攻める。 最後のBrahmsもやはり第1楽章の出だしなどアグレッシブ、ここだけ聴くと多少聴き疲れするタイプに思えるが、緩徐部分での歌いまわしが上手く、そのへんのメリハリも効いている。特に第2楽章のしみじみとした歌は聴かせる。終楽章ではフォルテで楽器をよく鳴らしているのが気持ちよい。熱演であった。 彼は正直1次ではあまり買っていなかったが、2次を聴いて完全に見直した。


23. Sasha GRYNYUK

 Brhams: 幻想曲集Op.116
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Scriabin: Op.8-12
 Chopin: Op.25-7
 Rachmaninov: Op.39-9
メインのBrahmsは苦手な曲なので何とも言えないが、多分悪くはないだろう。(今年の春のアカデミーコンクールでも弾いていた気がする。) 徳山作品はさすがにKim Tae-Hyungほど攻撃的でなく、端正な演奏。 Scriabinはいきなりちょっとミスしたが、格調が高くて筋が良い。特に輝きのある音がよい。 Chopinのエチュードで25-7を選ぶのはちょっとした冒険だが、音のコントロールの上手いところをみせ、これも悪くない。 Rachmaninovもテンポは落ち着いているが輝かしい音。ただややミスタッチが多く、特に最後の方では弾き直すミスがあった。 彼もメインが苦手曲だったので1次ほどの印象は残さなかったが、ポテンシャルを考えると3次でまだ聴きたい人である。


59. Marko MUSTONEN

 Debussy: オクターヴのための
 Chopin: Op.25-11
 Liszt: 超絶第8番
 Schumann: ソナタ第3番
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
実はここ2,3日風邪気味で体調も万全ではなかったので、彼の演奏は聴かずに帰った。 1次であまり買ってなかったし、曲もメインが苦手のSchumannの3番ソナタということで(^^;)。


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というわけで2次の1日目を聴き終えた。今日ダントツに印象に残ったのは

  26. Claire HUANGCI
である。次いで
 87. WANG Chun
 19. Alexej GORLATCH
  37. KIM Tae-Hyung
 23. Sasha GRYNYUK
あたり。上に書いた通りその他の人も悪くなかった。というわけで今日は結構充実していたと思う。(メインが苦手な曲だった人が多かったのが少し残念ですが。)

ところで上に書いたように委嘱作品はムジカ・ナラを選ぶ人が多く、明日以降は北爪作品を弾くのはたったの1人。 これまでの浜コンや昔の日本国際コンクールでの委嘱作品は北爪作品のような曲が主流だったことを思うと、 演奏家の弾きたい曲(おそらく一般聴衆が聴きたい曲でもある)と作曲家が作りたい曲がいかに離れていたか、 その「距離」もわかる結果となっていたように思う。 inserted by FC2 system