第6回浜松国際ピアノコンクール2次予選第2日(11/18)の感想です。


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31. JIA Ran

 Schumann: クライスレリアーナ
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Chopin: Op.10-4
 Debussy: 3度のための
 Liszt: 超絶第10番
1次では完成度の高い演奏が印象に残る女性。 ドレスのスリットから覗くおみ足がセクシーである(^^;)。 最初のSchumannがあまり感心しなかった。 音がボワっとしてフレーズの処理が曖昧になりがち。すべての音が周りと溶け合って輪郭のないような感じがある。 Schumannといえどももう少しカチっとした論理性が欲しい気がする。リズムの処理も全体的にやや甘い感じ。 (以前どこかで書いたようにあまり好きな曲ではないのでハズしているかもしれないが。) その他の曲は悪くなかったが、最初のSchumannでイメージが悪くなってしまった。


10. Evgeny CHEREPANOV

 Liszt: パガニーニ練習曲第1番
 Chopin: Op.25-10
 Bartok: Op.18-2
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Liszt: ソナタロ短調
1次は時間切れにもかかわわず通過できて個人的にホッとしたCherepanovである。 最初のLisztはやはり珍しい(普段コンクールであまり弾かれない)1番を選択。ちょっとミスはあったけどトレモロも安定していて悪くない。今日も調子がよさそうで安心。 Chopinも音が充実。今日はKAWAIの音もあまり気にならないようである(満席近く人が埋まっているのも関係?)。 Bartokも珍しい選曲でコンクールで聴くのはこれが初めてかも。 徳山作品は最初の緩やかな部分でこれまでの誰よりも幻想性を感じる。響きをかなり意識して弾いていることがわかる。 後半の激しい部分のスケールも大きく、全体的にこの曲のこれまでの演奏の中で一番気に入ったかも。 最後のLisztもすごく期待(たとえば第4回のTebenikhinや前回のPirojenkoの演奏に匹敵するような)したのだが、結論から言うと個人的にはもうひとつ満足できなかった。 音は重厚で充実しているのだが、その分運動性というかスピード感が多少犠牲になっている感じがして、特にleggieroな動きとの対比がもう少しあった方がよい気がした(たとえばフーガ部分など)。 もちろんよい演奏だったと思うけど、こちらの期待もそのくらい大きかったということで。ただコーダはなかなかよかった。


  73. SHEN Wenyu

 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Chopin: Op.10-1
 Liszt: 鬼火
 Rachmaninov: Op.39-9
 Chopin: マズルカ第32番
 Liszt: ドン・ジョヴァンニの回想
精密機械のようなテクニックが魅力のShen君である。おでこの広さが跳び箱の池谷(弟)を思い出させる(^^)。 徳山作品は前のCherepanovに比べると音が軽くサラっとしていて彫りが浅い感じ(良い悪いは別にして)。 ビートの部分もリズムがやや単調な気がする。 Chopinはやはり指はよく回っているが右手のパッセージに表情が少ない感じ。 鬼火もほぼノーミスで弾き切ったが、個人的には昨日のHuangciの多少瑕はあってもより生き生きした演奏の方が魅力を感じる。 Rachmanionvも音にもう一つ充実感がなく、大きなミスはあっても昨日のGrynyukの方が魅力的である。 というわけで、1次と同様、テクは大したものだが音楽が平板、とまでは言わないが感興に乏しいという印象が強まったのだが、 最後のドン・ジョヴァンニでそんなことも吹き飛んだ。 完成度、安定性、精密さ、いずれも驚きを通り越してあきれるほど。最後までまったく息切れすることなく(ほとんどノーミスでないかな)弾き切った。 Huangciのように感興に任せるといった要素はなく、事前に描いた設計図通り寸分の狂いも無く弾いてのけたという感じだが、 これを聴かせられたら認めざるを得ない(てか初めからテクは認めているけど)。 1次のイスラメイといい、最後に大逆転の曲(?)をもってくるところが上手い(そして3次は十八番のペトルーシュカなんだよね)。 エリザベートは2位、Chopinコンクールは予選落ちということだけど、それもわかる気がする。 Chopinしか弾けないというのは彼にとっては両手を縛ってレスリングするようなものかも(笑)。 個人的には彼に対してはアンビバレントな気持ちである(技巧は魅力的、でも音楽性は認めがたい)。


82. Alessandro TAVERNA

 Mendelssohn: ソナタ第3番
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Stravinsky: Op.7-4
 Chopin: Op.10-1
 Scriabin: Op.65-3
 Liszt: ハンガリー狂詩曲第12番
 Liszt: 「ポルティチの唖娘」のタランテラによる華麗なタランテラ
1次で個性的なイソップを聴かせてくれた男性である。風貌もちょっと曲者っぽい(笑)。 最初のMendelssohnはあまり聴かない曲だが音がもうひとつ魅力に欠ける感じ。もう少し音に輝きや透明感が欲しいかな。 メカもキレに欠けるというか、小手先で弾いている印象を受ける。いまひとつ盛り上がらないで終わってしまった。 そのほかの曲も概ね同様。もうひとつ冴えがない。 Lisztのハンガリー第12番は前半は悪くなかったが終盤の細かく動く部分はもうひとつ音の安定感に欠ける(これなら1次の五島さんの方がよかったか)。 最後のタランテラは実はあまりよく知らない曲。曲自体はLisztらしい技巧に溢れていて非常に面白いのだがやはり音が冴えない。 どこかこもっていて伸びがない感じである。 全体としては、彼の聴くのはここまででよいかな、というところである。


50. LIM Hyo-Sun

 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Liszt: 小人の踊り
 Chopin: Op.10-6,7,8,9
 Rachmaninov: Op.39-1
 Chopin: ソナタ第2番
1次の演奏はほとんど印象に残っていない女性である。 Lisztは出だしはなかなか良さそうだったがクライマックス部分がいかにも弱い。 Chopinのエチュードも手堅くまとめていたが特に印象に残るほどでもなく。 最後のソナタは第1楽章の提示部を聴いて、(どこがどうと口で説明しにくいが)これはもう私に合わないとわかった。 これならば多少ミスはあっても昨日のMoon君の演奏の方がずっと共感できる。 というわけで今回もあまり印象に残らない演奏であった。 なぜこの人が2次に進めたのか(特に若いわけでもなく)不思議だったが、審査員のA.Valdiに師事していたことがあるのも影響しているのかもしれない。 (そういえば今回2次に進んだのが予想外だった人は、今回の審査員の誰かに師事していたか、あるいはピアノアカデミーに参加しているという人が多い。 逆に1次で私が特に残しておいて欲しいと思ったにもかかわらず落ちた人は、そういう人はいないようである。)


89. WANG Shiran

 Franck: 前奏曲、コラールとフーガ
 Chopin: Op.25-10
 Stravinsky: Op.7-1
 Rachmaninov: Op.39-1
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Liszt: ダンテを読んで
1次では奇抜な(失礼!)衣装が印象に残っているが、今回はオーソドックスな淡いピンクのドレスで登場。 Franckは自然な歌い方と充実した音で前の人よりずっと音楽に共感できる(曲が違うので一概に比較できないが)。 Chopinも多少荒削りなところはあるがChrepanovに負けていない。 Stravinskyは珍しい選曲だがこれも悪くなさそう。 徳山作品もノリがよい。 ただ最後のダンテだけは合わなかった。 音をもう少し磨いて欲しい気がするし、細部でもいろいろと私の思うところと違っていて、途中から集中して聴けなくなっていた。


43. Sergey KUZUNETSOV

 北爪道夫: 様々な距離II
 Chopin: Op.25-6
 Rachmaninov: Op.39-3
 Liszt: 鬼火
 Chopin: ソナタ第3番
1次では年齢(28歳)に相応しい大人の音楽をするという印象の男性である。 北爪作品はこうやってたまに聴くと新鮮味があって悪くない。(例年のように毎回聴くとなるとつらいものがあるが。)演奏が良いせいなのかも。 エチュード3曲はいずれも変わった解釈。全体的にテンポが速く、繊細というか精妙なタッチのため弾けているのかよくわからないところもあるが(多分弾けている)、面白い演奏であった。 意外とテクニシャンであることがわかる。 最後のChopinソナタがよかった。特に第1楽章が、割と自由な弾き方なのだがよく歌って不自然にならない。センスを感じる。 また音に透明感があってきれいなのがよい。第2楽章の精妙な指捌きも気持ちが良い。 ただ終楽章だけは、結構テンポを揺らしていたのだがこれはあまり好みでなかった。 全体的には彼も1次よりだいぶ見直した(1次もそんなに悪いとは思っていなかったけど)。


4. Jun ASAI

 Chopin: Op.10-2
 Chopin: ソナタ第2番
 Rachmaninov: Op.39-6
 Ravel: スカルボ
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Liszt: ラ・カンパネラ
1次ではSchubert/Lisztの歌曲が実は結構印象に残っている。 Chopinはこれも提示部を聴いて私に合わなそうなことがわかった。残念ながら何かが違う。 いろいろ考えてやっているのはわかるけど、呼吸が合わない感じ。 特に第2楽章では(主部は悪くないが)トリオの部分でフレーズの最初の音を妙に伸ばすのが、変に粘るようで全く受け付けない。 第3楽章も必要以上に粘る感じ。 次の10-2も粒の揃いがイマイチ。 ただその後の曲は悪くなかった。特に徳山作品はよく考えている感じだし、ラ・カンパネラも丁寧で完成度が高かった。


7. Sanja BIZJAK

 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Schubert: ソナタ第14番
 Chopin: Op.25-4
 Rachmaninov: Op.33-6
 Debussy: 装飾音のための、反復音のための、和音のための
1次ではオーベルマンの谷で時間切れになったにもかかわらず通過している。 徳山作品は骨太な音でちょっと乱暴な感じ。 Schubertは第1楽章の展開部で結構ミスったのが痛かったが、全体的には悪くない。特に終楽章は私好み。音が結構充実していのがよい。 その後のエチュードもいずれもツボを押さえていて悪くない。 特に反復音と和音のためのは好演であった。 (それほどの難曲ではないだけに)Schubertの完成度がもう少し高ければ、というのが全体的な印象。


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というわけで2次の2日目を終了。今日印象に残ったのは

  10. Evgeny CHEREPANOV
 73. SHEN Wenyu
 43. Sergey KUZUNETSOV
CherepanovはLisztのソナタはもう一つ好みでなかったが、他はよかった(特にムジカ・ナラ)。 Shenはドン・ジョヴァンニ限定ということで(笑)。 全体的には昨日より低調という感じである。 inserted by FC2 system