第6回浜松国際ピアノコンクール2次予選第3日(11/19)の感想です。 2次の最終日なので結果もあります。

実は風邪気味の上に昨日は最後まで聴いた(&感想を書いた)疲れからか体調がイマイチで、幸い(?)今日は午前の部(3人)は特に聴きたいと思うがいない(特に後藤君はあの音を50分聴き続けるのはつらい)ということでパスし、午後の部から聴くことにした。

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61. Dinara NADZHAFOVA

 Schumann: 交響的練習曲(遺作変奏付き)
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Chopin: Op.25-11
 Liszt: 鬼火
 Rachmaninov: Op.39-6
1次ではハンガリー狂詩曲でのヴィルトゥオージティが強烈な印象を残した、腕っぷしの強そうな女性である(でもまだ17歳)。 Schumannは期待に違わぬ出来。ロシア的(正確にはウクライナですが)なスケールの大きさが感じられ、 1音1音に力強さというか存在感がある。 よく「目力(めぢから)」という言い方をするが、彼女の場合「音力」という形容が合っている。 それだけだと聴き疲れてしまうが、(1次のBachで見せたような)ヴェールのかかったような柔らかな音色も使えるのが強み。 今日も遺作の緩徐変奏ではそれを駆使していた。 でもフィナーレではさすがに音圧が高すぎて、正直うるさいと感じる人がいたかも(私も少し思った)。 力ではなく、いかに美しく(輝かしく)響かせるかも考える方がよいと思う(Blechaczなら絶対こういう音は出さないだろうな…)。 またテンポが速すぎてちょっとせかせかした印象もあった。 次の委嘱作品は後半ちょっと荒っぽかったかも。今までここまでフォルテで弾いた人はいなかった。最後はfffffくらい(笑)の音を出していた(楽譜ではfff)。 Chopinはやや直線的(一本調子)でフレーズ内での細かな表情が少なく、メカは悪くないがやや若さが出たか。 鬼火は右手の重音がうまっ。鳥肌が立つくらい。スケールの大きさといい、今回聴いた鬼火の中ではNo.1ではなかろうか。 Rachmaninovもスケールがデカい。中間部など暴力的一歩手前という感じ。 なんだかんだ言ってやっぱり聴き疲れするタイプではあるが、でも鬼火で見せたテクニックは素晴らしい。 どんな潜在力を持っているのかさらに聴いてみたいと思った。 3次ではChopinのOp.10全曲を弾くというから、3次に進んだら見ものだ。


40. 北村朋幹

 Debussy: 組み合わされたアルペジオのための
 Liszt: パガニーニ練習曲第2番
 Chopin: Op.25-5
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
 Schubert: ソナタ第7番
 Schubert/Liszt: ウィーンの夜会
Debussyはなかなかよい。 1次での私の感想を見たわけでもないだろうが、あるいはフッ切れたか、今日はメリハリ、表情を大きく付けている。ダイナミックレンジも広い。 Lisztも多少弾きこぼしはあるが守りに入って腕が縮こまったりしていないのがよい。スケールも十分大きい。 Chopinも、特に中間部の美しい歌い方に感心。 徳山作品も前半の穏やかな部分での揺れるような表情の付け方がうまいし、よく歌っている。 (1次から彼を買っている人は普段のこういう演奏を知っているからかもしれない。) ただSchubertはまだもう一つ納得できない。実はあまり詳しくない曲なので強くは言えないが、第2楽章はもう少し音色の多彩さが欲しい気がするし、 第3楽章はやや単調に感じる(生気のなさが戻ってきた?)。終楽章もタッチや表情にもっと変化をつけてもよいのでは。Schubertということでやや遠慮している感じ。 最後のSchubert/Lisztも最初はかなりデカい音を出していたが、ウィーンのワルツということでもう少し上品さが出るとよいのでは。 後半は指回りだけが目立った感じがして、歌いまわしにもっと優雅さやお洒落っぽさがあるとよいと思った。 全体的には、なるほど今日の出来ならば3次に進んでもおかしくない感じ(それでも2次に進んだのは公平の観点からするとやはり?だったが)。 ただSchubertの初期ソナタのように古典派的な曲では彼の弱点が垣間見られた気もする。


90. Slawomir WILK

 Chopin: Op.10-10
 Liszt: パガニーニ練習曲第6番
 Rachmaninov: Op.39-3
 Chopin: 夜想曲第17番
 Chopin: 舟歌
 Chopin: 英雄ポロネーズ
 Wagner/Liszt: イゾルデの愛の死
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
1次ではあまり印象に残らず、2次に進んだのが意外だったうちの一人。 審査員のJ.O'cornorに師事しているようである。 Wagner/Lisztは悪くはないが特に印象にも残らず。クライマックスでうるさくなり過ぎないのはよい。 Chopinも意外と悪くない。クライマックス部もクリアに弾けている。 Rachmaninovも、特にキレ、スピードがあるわけではないがまずまず。 Lisztも1日目のKimほど攻撃的ではないが、各変奏の性格の違いがよく出ており、技術的にも十分。 ここまで聴いて、彼は実は結構やることがわかった。 Chopinの舟歌も(例によってChopinコンクールでのBlchaczの演奏ほどの感動はないが)まずまず。 1次でも思ったが、彼はやや響きが豊か過ぎる感じがするので、ときには響きを抑制した方が高貴で端正な感じが出てよいのではないかな。(あとノンレガートのタッチとか。Blechaczはこれが上手い。) 最後の英雄ポロネーズでは響きの豊かさがこの曲では成功している。 全体的には、彼も見直した組である。 あるいは審査員は彼のこういう実力を既に知っていたのかもしれない。 (そういう意味でも審査員に事前にお近づきになっておくのは重要なんだろうな…。)


70. Nikolay SARATOVSKIY

 Schumann: 謝肉祭
 Chopin: Op.10-1
 Liszt: 超絶第10番
 Rachmaninov: Op.39-6
 徳山美奈子: ムジカ・ナラ
1次で弾いたSchumannのトッカータが少し印象に残る男性。 Schumannは前口上の冒頭の和音の音が充実していてこれはいけそう、と思ったのだが聴き進めていくといろいろ欠点が見えてくる。 元気一杯なのはよいが、全体的にややせかせかと先を急ぐ感じがあるし、音にしても冒頭のようなフォルテ和音がいいのだが普通の音になると化粧をしない「素」の音がそのまま出てきている感じがして、もう少し音を磨いたり、あるいは変化を付けたい。また曲による性格の違いをもう少し出したいところで、全体的にやや一本調子で途中からちょっと飽きてきた。 総じてこの謝肉祭はまだまだ若いという感じ(もう(?)19歳だけど)。 しかしこの後のエチュードはよかった。 Op.10-1はやや直線的だけど軽がると弾いている感じがして、実は今回聴いた10-1の中では一番好きかも。 Lisztも出だしはイマイチだったけどそれ以降のスピードとキレ、スケールの大きさは素晴らしいものがある。BerezovskyのDVDでの演奏を思い出した。 Rachmanionvもスケールが大きく、今回聴いたこの曲で一番印象に残るものだったかも。 全体としては正直Schumannはまだまだだけどエチュードで見せた技巧のポテンシャルやスケールの大きさはかなりのものである。 今回3次はムリかもしれないがいずれ頭角を現すかもしれない。(ふと第4回浜コンでのMatsuevの登場を思い出す。)


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というわけで2次の最終日も終了。今日印象に残ったのは

 61. Dinara NADZHAFOVA
次いで見直した組として
 40. 北村朋幹
 90. Slawomir WILK
 70. Nikolay SARATOVSKIY
てか全員(笑)。

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そして2次全体を通して聴いて、3次でも聴いてみたいと思うのは以下である(演奏順)。

  26. Claire HUANGCI 
 87. WANG Chun
 19. Alexej GORLATCH
  37. KIM Tae-Hyung
 23. Sasha GRYNYUK
  10. Evgeny CHEREPANOV
 73. SHEN Wenyu
 43. Sergey KUZUNETSOV
 61. Dinara NADZHAFOVA
これで9人。2次枠は12人でまだ3人余裕があるので、あと入れるとすれば
 55. James Jae-Won MOON
 15. Martina FILJAK
  7. Sanja BIZJAK
 40. 北村朋幹
 90. Slawomir WILK
 70. Nikolay SARATOVSKIY
あたりから。(なお2次を聴いていない人は当然入っていない。) 1日目の人が7人と多いが、正直な感想なので仕方がない(そもそも2,3日目は2次進出の時点で好みの人が少なかったし)。 実際はもっと均等化されるであろう。もちろん日本人が0ということもまずありえない(笑)。

この中でもし一人だけ挙げるとすればやはりHuangci嬢。 あとBerlioz/Lisztを聴きたいということで(笑)、Cherepanov。

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そして実際の結果は以下の通り。

  26. Claire HUANGCI
 87. WANG Chun
 19. Alexej GORLATCH
  37. KIM Tae-Hyung
  10. Evgeny CHEREPANOV
 82. Alessandro TAVERNA
 50. LIM Hyo-Sun
 43. Sergey KUZUNETSOV
 61. Dinara NADZHAFOVA
 40. 北村朋幹
 90. Slawomir WILK
 70. Nikolay SARATOVSKIY
最近では珍しく(?)私の嗜好と近いものになった。 意外だったのはGryunyukとShenが落ちたこと。 Grynyukはエチュードでミスが多かったのが響いた?。 Shenはあれだけのドン・ジョヴァンニを弾いて落ちるということは、やはり彼の音楽性に疑問を持っている審査員がいるのかな。 日本人は北村君一人ということで彼が本選に行く可能性は高そうである(^^)。
 


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