3次は60分以内での自由なリサイタル形式(これは前回までと同じ)。 ただし今回は(Mozartイヤーということで)Mozartを必ず1つ入れなければならないことになっている。
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26. Claire HUANGCI
J.S.Bach/Busoni: シャコンヌ Mozart: 幻想曲ハ短調K475 Chopin: ソナタ第3番 Ravel: 水の戯れ Prokofiev: トッカータ今のところ私のイチオシのHuangci嬢。 今日は黒のドレスと、1〜3次ですべて衣装を変えているところが女性らしい(当たり前?)。 3次は初日のトップバッターと多少やりにくい位置だが果たして実力を発揮できるか。
87. WANG Chun
Mozart: ソナタK333 Messiaen: 喜びと精霊の眼差し Chopin: エチュードOp.25端正で正統派的演奏のChun君。そういえば彼は顔立ちとそのピアニズムから佐藤卓史君を思い出させる。 Mozartはのっけから模範的で特にケチを付けるところがない。音楽にも安心して身を任せられる。 強いて言えばさらに微妙なニュアンスや音色の変化を付ける手もあるのだろうが、それは解釈の問題になってきそう。 Messiaenは(何度も聴いているけど)それほど詳しくない曲だが少なくとも悪くはなさそう。 最後のChopinもやはり端正な解釈で、過度にロマンチックになったりスケールを追い求めたりすることはないが、どの曲も高いレベルで弾けていて、特に後半の8〜12番の出来は感心するほかない。 25-8は今までコンクールでこれほど速く滑らかに弾かれたことは見たことがないし、25-10や25-11は2次のCherepanovやNadzhafova嬢より(私的には)上手いと思った。 25-6も、ここまで弾けながら別に2次で弾く必要がないというが贅沢。 ともかく「穴がない」というのが(ポリーニ盤のエチュードと同様)凄いところである。 ただ私的には「感動する」というより「感心する」という言葉で出てきてしまって、さらに彼なりの個性や人を惹きつけるものが出てくるとよさそう。 (それは今後かもしれないが、でも同じ16歳でもHuangci嬢にはそういうものがある。) 結局演奏家は最後はどれだけ人を惹きつけられるか、だから。
19. Alexej GORLATCH
Chopin: ソナタ第2番 Mozart: 幻想曲ハ短調K475 Beethoven: ソナタ第28番予想に反してChopinで開始。 この曲は第1主題あたりまで聴くと私と波長が合うかどいうかだいたいわかるが、彼の場合はもちろんOK。 なんと言っても音が充実しているのがよい(今回聴いたこの曲の中では一番)。 スケルツォの技巧的な部分もうまくクリアして悪くないな、と思っていたら再現部のところで暗譜が飛んで弾き直す大ミス(痛ッ)。 聴いている人(特に彼のファン)は心臓が止まる思いだったに違いない。 Mozartは出だしの一音を聴いて、Huangci嬢より深みのある音。 テンポもかなりゆったりしていて幻想性が深い。 ともかく音に対する感受性が凄く、1次のテンペストのときも思ったが、こういう幻想的な曲を弾かせると彼の強みが発揮されそう。 このMozartは絶品だった。 Beethovenも相変わらず音が充実していて美しい。(同じピアノでどうして、というくらい。) ただ難所の終楽章のフーガでは一部クリアさを欠くところもあったかな(3声で右手が平行4度で動く部分など)。 結局彼はChun君やShen君のように指がよく回るタイプでないかもしれないが、音(やそれによる音楽作り)が魅力的である。 ただChopinのミスがどう影響するか。
37. KIM Tae-Hyung
Mozart: 幻想曲ニ短調K397 Rachmaninov: コレッリの主題による変奏曲 Liszt: オーベルマンの谷 Prokofiev: ソナタ第7番Mozartは手堅くまとめて悪くない。Gorlatchに比べるととずっと常識的(健康的)な演奏。 Rachmaninovはイマイチ好きになれない曲なのであまりコメントできないがやはり完成度が高そう。 Lisztもまずまず。最後のクライマックス(1次では皆打ち切られて聴けなかったところ)はさらに地響きを立てるようなバスの響きを期待していたが(彼ならやりそう)、そこは常識的な範囲で抑えていた。 最後のProkofievも力強くスピード感溢れる演奏。さすがにノーミスというわけにはいかないが完成度が高い。
10. Evgeny CHREPANOV
Mozart: ソナタK309 Brahms: バラードOp.10 Berlioz/Liszt: 幻想交響曲より「断頭台への行進」Mozartは音がニュアンスに富んでいる。 ただ第1主題のところで指が転ぶ手痛いミス(残念)。 でも音色の微妙な変化や表情など、惚れ惚れするほどで、正直この曲はそれほど好きでなかったが、この演奏を聴いて好きになりそう(特に第2楽章)。 終楽章では(音色やタッチに気を遣うあまり?)速い走句で指回りが不安定に感じないでもないが、「タッチ命」という感じの繊細なタッチ。 強く握ったら壊れてしまいそうな、そんな音楽であった。 Brahmsも音がよい。決して力任せにならないし、常に響きを意識している感じ。Gorlatchよりさらに上をいくかも。 この曲もそれほど好きではないのだが惹きこまれた。彼は実はリリシストタイプである。 Berlioz/Lisztは、やはり音を充実させた好演。テクを見せ付ける感じではなく1音1音を大切にしている。 ところが「断頭台への行進」を弾き終えたところでお辞儀をして帰ってしまった。 プログラムでは終楽章(サバトの夜の夢)も弾くことになっており、楽しみにしていたのに、なぜ?????(ガ〜ン)。 (結局予定より15分くらい早く終わってしまった。どこか体調が悪かったのだろうか…。)
82. Alessandro TAVERNA
Mozart: ソナタK576 Beethoven: エロイカ変奏曲 Busoni: ソナチネ第6番「カルメン幻想曲」 Ligeti: エチュード「鋼鉄」「悪魔の階段」 Stravinsky: ペトルーシュカからの3楽章MozartはCherepanovと比べると明るく健康的(というかこちらが普通)だが音色の変化もあって悪くない。 Beethovenもツボを押さえた好演。強弱のコントラストや強くメイハリが効いている。 速めのテンポにもかかわらず技術的にもバッサバッサと快刀乱麻を断つ感じで、なにか絶好調というか、可ならざるはなし、といった雰囲気である。 BusoniやLigetiも同様。(2次と比べて)今日はどうしたのだろうか、と思うくらい。 (ちなみにプログラムでは「眩暈」となっていたが誤り。英語版では正しくFemとなっている。) 最後のStravinskyも予想を上回る出来。 終楽章の後半少し弾きこぼしがあったくらいで、後は特にケチをつけるところがない。(Shenが3次に出ていたら彼と聴き比べてみたかった。) ただ時間を結構オーバーしていて、3次なので中村紘子も無粋なことはしないだろうとは思っていたけど、でもやっぱりちょっとハラハラした。 しかし3次はどの曲も非常によく、2次のアレは何だったんだろうと思ってしまった(私の耳がおかしかったのかな?)。
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というわけで3次の1日目を聴き終えたわけだが、今日はイマイチと思える人が一人もなく、正直誰が本選に進んでもおかしくない感じである。 (Huangci嬢も安泰ではなさそう。) ただ客観的に見れば、Chopinで大きなミスをしたGorlatch、1曲パスした(?)Cherepanvは難しいかもしれない。 実は私はこの二人に大きな魅力を感じているのだが…。