第6回浜松国際ピアノコンクール本選(11/25,26)の感想です。

本選は会場で聴かなかったので感想を書こうかどうか迷いましが、終わりがないと何か締まらないということで。 ネットでのストリーミング配信を自宅のショボいPCで聴いただけなので、音色や音の伸び、響き方などはよくわからず、感想も印象程度の簡単なものにとどめています。

87. WANG Chun (Rachmaninov: ピアノ協奏曲第2番)
第1楽章の開始はテンポが遅く、ちょっとノリが悪いかなと思ったが、展開部以降はだんだん調子が出てきた感じ。 技術的にも上々で、特別に個性的なところはないが変な癖もなく、よくまとまっている。

19. Alexej GORLATCH (Beethoven: ピアノ協奏曲第3番)
Beethovenということで(他の曲に比べて)それほど音が多くないこともあるが、1音1音をしっかりと粒立ちよく弾いている。 '89年の日本国際音楽コンクールで、この曲を弾いて優勝したP.Dmitrievの演奏を思い出した。 ただ彼よりは要所でタメを入れたり、第1楽章のカデンツァではより振幅の大きい表現を入れたりと、結構ロマン的な解釈も入っている。 RachmaninovやProkofievのような難度の高い曲に比べてBeethovenでよい成績を残すにはかなり印象的な演奏をしないといけないと思うが、十分それができていたように思う。 (というか少し前の音コンでもこの曲を弾いて優勝した人がおり、この曲はうまく弾けばコンクールでも結構映える気がする。狙い目?)

37. KIM Tae-Hyung (Rachmaninov ピアノ協奏曲第3番)
これも全体的によくまとまっていて、特にケチを付けるところがない。 あえて希望を言えばさらなるスケールの大きさか。

43. Sergey KUZNETSOV (Prokofiev ピアノ協奏曲第3番)
よく練られており、精緻な表現。 ただ少し線が細いか。第2楽章の後半などももう少しガンガンバリバリいって欲しかった気がする。 (Prokofiev自身の演奏を評する言葉として「鋼鉄の三角筋、鋼鉄の上腕ニ頭筋、鋼鉄の上腕三頭筋」というようなものがあったと思うが、私自身もそういう演奏が好きなので。) 第1楽章もコーダ以外はもう一つ調子が上がっていなかったように見えた。

40. 北村朋幹 (Ravel ピアノ協奏曲ト長調)
Kuznetsovとは逆に勢いはあるが、Ravel特有の精緻で繊細なところがもう少しあった方がよかったかな。

70. Nikolay SARATOVSKIY (Rachmaninov ピアノ協奏曲第3番)
PCで聴いてもピアノがよく鳴っているのがわかる。 スケールが大きい。また技術的にも余裕が感じられる。特に第1楽章がよかった。 終楽章後半はややミスが多かったのが残念。 弾いているとき指揮者を見ている気配がなかったが(笑)、この曲はオケに合わせるよりグイグイ引っ張っていくぐらいの気概で弾いてもらった方が個人的には好もしい。 ホールで聴いているときには気が付かなかったが、弾いている後姿がBerezovskyと似ている感じがあり、(2次のときも書いたが)技巧的なスケールの大きさも彼に通じるところがありそう。

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というわけで本選を聴き終わったが、出来は拮抗していて3次も合わせて考えると誰がが1位になってもおかしくない感じである(除1名)。 逆に言うと飛び抜けた人がいないということだが。 もっともネットで聴くと平均化されてホールで聴くよりも差が出にくいというのもあると思う。
個人的にはGorlatchが、いわゆるテクニシャンタイプではないが音楽的な魅力という点で一番好きではある。
またSaratovskyは完成度はまだまだだが、技巧ポテンシャルの大きさや将来性という点ではかなり買えそうな感じである(本選を聴いてさらに思った)。 将来性(将来大化けする可能性)を最重視すれば彼が1位というのも十分考えられる。
Chunも16歳でここまで穴のない技巧があるというのは凄いが、良くも悪くも「毒」がない(あるいは「華」がない?)ので印象に残りにくい気はする。
Kimはオールラウンドプレイヤーという感じで彼も欠点が少ないともう一つ決め手に欠ける感じ(たとえばGorlatchの詩情、Saratovskyのスケールの大きさなど)。
Kuznetsovも凄く成熟して練られた音楽を聴かせるが、年齢を考えると大きな伸びはないと思われ、それを考慮してどこまで高く評価するかにかかってる感じ。

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そして実際の結果は以下の通り。

第1位 Alexej GORLATCH  
第2位 Sergey KUZNETSOV
第3位 KIM Tae-Hyung
第3位 北村朋幹
第5位 WANG Chun 
第6位 Nikolay SARATOVSKIY 

日本人作品最優秀演奏賞 Alexej GORLATCH 
モーツァルト賞 LIM Hyo-Sun
奨励賞 Claire HUANGCI
奨励賞 Dinara NADZHAFOVA
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ということで概ね納得できるものである(というか今回は順位についてはあまり執着するものがなかったが)。 今回の全体的な感想としては、前にも書いたように日本人枠(?)が一人と前々回以前と同様となり、その点では正常化(?)されてよかったと思う。(2次の審査結果も私の好みに近かったし。) ただそれでも前回はBlechaczというお気に入りがいたということを思うと、今回のファイナルは特にこれと推す人がなく多少残念ではある。Huangci嬢がファイナルに残っていればよかったんだけど。

さて恒例の、ハイライトCDに入れるならこの演奏、というよりは各入賞者で特に印象に残った演奏を挙げてみる。

Alexej GORLATCH 
 Beethoven: ソナタ第17番第1楽章(1次)
 Beethoven: ピアノ協奏曲第3番(本選)
やはり彼にはBeethovenが合っていると思う(インタビューを見ると彼自身も好きなようだが)。

Sergey KUZNETSOV 
 Gubaidulina: シャコンヌ(3次)

KIM Tae-Hyung 
 Liszt: パガニーニ練習曲第6番(2次)

WANG Chun 
 Chopin: エチュードOp.25(3次)

Nikolay SARATOVSKIY 
 Chopin: エチュードOp.10-1(2次)
 Rachmanionv: 音の絵Op.39-1,3,6,9(2,3次)

Claire HUANGCI
 Beethoven: ソナタ第26番第1楽章(1次)
 Chopin: バラード第2番(1次)
 Chopin: アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ(2次)
 Liszt: ドン・ジョヴァンニの回想(2次)
 Chopin: ソナタ第3番(3次)

Dinara NADZHAFOVA
 Liszt: ハンガリー狂詩曲第2番(1次)
 Liszt: 鬼火(2次)

Huangci嬢がやっぱり多い(笑)。 もちろん実際のハイライトCDは上位者ほど収録時間が長くなるのでこのようには絶対ならないが。

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最後に、この浜コンで私が好きなのは、聴衆に対しては毎回何かしらの改善が行われていることである。思いつくところでは

第2回:予選演奏のカセットテープ即時販売(10本限定、先着順)
第3回:カセットテープ販売を先着順ではなく抽選に(混乱防止のため)
第4回:カセットテープからCD-ROMに変更
第5回:CD-ROMは希望者には全員販売(郵送も可)
第6回:全演奏のインターネットでのストリーミング配信
など。十年一日のごときの音コンとは雲泥の差である。 今後もこういった改善を行っていって欲しいと思う(たとえば本選のCD販売など、あるいはダウンロード?)。
(おしまい)

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