第7回浜松国際ピアノコンクール2次予選第2日(11/14)の感想です。


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10. CHO Seong-Jin

 西村朗:白昼夢
 Chopin: Op.10-1
 Liszt: 超絶技巧練習曲第10番
 Schumann: 幻想小曲集
1次の熱情ソナタで強烈な印象を残した15歳である。
Chopinの10-1は、こういう演奏を待っていた。起伏が大きく自然で勢いがある。 Lisztもさすがに今回これまで聴いた演奏とはモノが違う。最初ちょっとミスした気もするが、それ以外は申し分なし。 Schumannはこれまで苦手曲だったのだが、今年Le Sage盤を聴いてやっと良さがわかってきたところで助かった。 というか初めて生演奏で曲の良さを堪能できた。
この調子が維持できれば、若い子好きの中村紘子のことだから本選、あるいは上位入賞も十分狙えるのではないかと思わせた。


85. Krzysztof TRAZASKOWSKI

 Chopin: Op.25-10
 Rachmaninov: Op.33-5
 Chopin: バラード第4番
 西村朗:白昼夢
 Liszt: メフィストワルツ第1番
この人も1次では名前を挙げなかった人である。
Chopinの25-10は多少音がこもっているがまずまずというところ。 Rachmaninovも同様。 続くChopinのバラ4は暖色系のくぐもった音が曲にあっている。が、歌い回しにまったくセンスを感じない。 staticというか、動きがなさすぎて退屈してしまう。 最後のLisztはかなりイマイチ。 国際コンクールでは(日本なら国内でも)通用しそうにないレベル。 冒頭の調弦の部分を聴いてもう萎えてしまった。 今回聴いたメフィストとしては下から数えた方が早そう。


92. YE Sijing

 西村朗:白昼夢
 Liszt: 超絶技巧練習曲第12番
 Chopin: Op.10-8
 Chopin: 前奏曲Op.28-13〜24
Lisztは曲のツボは押さえているのだが、ややミスが散見されるのが残念。特に最後の方でミスが重なったのは痛い。 でも技術的ポテンシャルはありそう。 Chopinの10-8もオーソドックスな演奏。もう少し起伏というか表情をつけてもよいか。 前奏曲集も基本は悪くないが、音がクリアな反面やや硬い。 そのせいかフォルテ和音になると多少キツイ感じになる。 ちょっと打鍵が力みすぎになったり(16番の冒頭など)、ときどき何でもないところでミスがあるのも気になるといえば気になる。やや聴き疲れするタイプ。
ということで、彼女もだいたいどんな演奏をする人かわかったので聴くのはここまででよいかなという感じ。


63. Dmitrity ONYSHCHENKO

 西村朗:白昼夢
 Chopin: ノクターン第13番
 Scriabin: Op.42-5
 Chopin: Op.25-11
 Chopin: マズルカOp.17-4
 Liszt: スペイン狂詩曲
1次では愛のない演奏で私の中の評価を大いに下げたOnyshchenkoである。
Chopinのノクターンを弾き始めて、今日は作品に対する愛が感じられる。音色もよく練られている。 やればできるじゃん、という感じ。 Scriabinもよい。スケールが大きく余裕のある打鍵。 ロシア人によくある、古典派はダメダメだけどロマン派以降を弾かせれば水を得た魚、というタイプに見える(実際3次プログラムも古典派なし)。 Chopinの木枯らしもよい出来(昨日の木枯らしがひど過ぎたせいもあるが)。 テンパっていないというか、余裕を持って弾いているのが印象的。 続くマズルカは音色が秀逸。 Lisztも完全に満足というわけではないがなかなかの好演。響きに余裕がある。 安全運転のテンポだが1次で弾いた人より重音がちゃんと弾けているのは好感。
全体的に、このステージでやっと本領を発揮したという感じ。


61. Silvan NEGRUTIU

 西村朗:白昼夢
 Schubert: ピアノソナタ第14番
 Scriabin: Op.8-12
 Chopin: Op.10-12
Schubertはこの曲の肝とも言うべき音がとても充実。 (1次でも音はよかったが。) 好きな曲なだけに十二分に楽しめた。 Scriabinも昨日のDumontにはなかった深々とした響きが気持ちよい。 と思ったら中間部で派手なミス、というか崩れかけた。最後にもミスがありこれは痛い。 Chopinは速めのテンポでそんなに悪くないが、右和音は昨日のJae-Won Moonの方がきれいだったか。
彼の場合はSchubertのよい印象が最後の2つのエチュード(特にScriabin)で弱まってしまった。


7. CHANG Sung

 西村朗:白昼夢
 Chopin: Op.10-1,2,3,4,5,8
 Scriabin: Op.8-12
 Liszt: スペイン狂詩曲
1次ではかなりのテクニシャンと思わせた男性である。
Chopinのエチュードはいずれも素晴らしい。10-3はやや硬め、 10-2は弱音主体で速めのテンポだったためか多少不安定に聴こえなくもなかったが、それ以外はムチャクチャ上手い。 いずれも速めのテンポで表現に勢いがある。 Scriabinもそれに輪をかけて印象に残る。音がクリアでかつ輝かしい。 LisztはOnyshchenkoよりもさらに流麗。重音の精度もさらに上がった感じ。 中間部でのとろけるような柔らかい音色も魅力的。 惜しいミスも多少あったが、それでもこれまで浜コンで聴いたこの曲の演奏では最高の出来かも。


32. 加藤大樹

 Chopin: Op.10-7
 Bartok: Op.18-2
 Mendelssohn: 厳格な変奏曲
 西村朗:白昼夢
 Saint=Saens/Liszt: 死の舞踏
Chopinは悪くはないがやや直線的。もう少し細やかな表情というか精妙さがあるとよい。 Bartokはあまり聴かない曲だが悪くはなさそう。 次のMendelssohnが少し問題だったか。 指回りはよいのだけど音色の変化に乏しいせいか、変奏ごとの性格の違いがあまり出てこない感じ。 端的に言えば表現力ということになると思うが。 その点Lisztは彼向きの曲。輝かしい、上に飽和しないフォルテが気持ちよく響く。メカニックも十分。
全体としては、Mendelssohnで少し弱い点が見えてしまった気がする。あと前の人が凄かっただけにその印象が残っていて多少損をしたかも。


51. Fatimant MERDANOVA

 西村朗:白昼夢
 Chopin: Op.10-4
 Liszt: 超絶技巧練習曲第10番
 Brahms: ピアノソナタ第2番
Chopnの10-4はChan Sungに劣らず速い。しかも弾けてる。最初ちょっとテンポが走る感じがあったがすぐに修正。 Lisztも冒頭音型をもう少しクリアにしたい気もするが、1次で聴いた演奏のことを思えば上出来。 Brahmsも力の入った熱演。冒頭和音を聴いてこれはやりそうだと思ったが、期待通り。 女性ながら音が重厚で力強いのが魅力。1次での印象をさらに良くする第2ステージの出来であった。


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というわけで2次の2日目を終了。今日よかったと思ったのは

 10. CHO Seong-Jin
 63. Dmitriy ONYSHCHENKO
  7. CHANG Sung
 32. 加藤大樹
 51. Fatimat MERDANOVA
あたり。この中で差をつけるとすれば、Chang Sungが頭1つ抜け出し、加藤君がちょっと下がるというところか。 そのほかNegrutiuもSchubertは非常によかったし、昨日と違って今日は充実してした。 inserted by FC2 system