第7回浜松国際ピアノコンクール2次予選第3日(11/15)の感想です。 2次の最終日なので結果もあります。

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14. Sara DANESHPOUR

 Debussy: 版画より塔
 Debussy: 8本の指のための
 Rachmaninov: Op.39-6
 西村朗:白昼夢
 Chopin: ピアノソナタ第2番
Debussyの塔は、中間部のフォルテ和音がもうひとつきれいでないか。エチュードの方はまずまず。 Rachmaninovは左手を強調するのが彼女の特徴だが、その分右手の細かい音型の印象が弱くなっている嫌いもある。 メインのChopinピアノソナタは印象に残らないというか、平凡な出来。 技巧的にも音楽的にもあまり見るべきものがなかった。 これで音が魅力的ならまだ救われるのだが。強いて言えばときに内声を浮き立たせたりするのが目立つ程度。
彼女も聴くのはここまででよいかな(というか2次で株を下げた)組である。


64. 尾崎有飛

 Liszt: 超絶第8番
 Scriabin: Op.65-1
 Chopin: バラード第3番
 西村朗:白昼夢
 Ravel: ラ・ヴァルス
Lisztは冒頭でいきなりミス、その後ももう一つ乗り切れずという印象。 ミスも多少あり、技巧を印象付けるというわけにはいかなかった。 Scriabinはなかなかよい。多声的な動きや音色がよく練られていて右手の連続9度もスムーズ。 Chopinはオーソドックスで模範演奏的。 さらに求めるとすれば沸き立つような詩情というところか。やや淡白である。 Ravelもよく弾けているが、どこか予定調和的で、大戦後ウィーンの退廃的な雰囲気はあまり伝わってこない。 リズムが真面目すぎるのと、音色にもう一つバラエティがないのが一因か。
全体的にどの曲も模範演奏的なのだが、こういう音楽をしたいという主張はあまり伝わってこない。 いかにも日本人らしいと言えるけど。


31. Gintaras JANUSEVICIUS

 西村朗:白昼夢
 Chopin: Op.25-10
 Scriabin: Op.8-12
 Liszt: ペトラルカのソネット第123番
 Liszt: ダンテを読んで
Chopinは開始からインテンポの私好みの演奏。 Scriabinも悪くないけど、昨日のCang Sungのようにもう少しヌケのよい音だとさらによいか。途中かなり目立つミスもあった。 Lisztのペトラルカは、弱音はよいのだけど強音で音が割れるようになる感がある。 最後のダンテは明らかにイマイチ。 この曲を生で聴くときに一番重視する要素である音が、汚いとまで言わないが、磨かれていない。 テクニック面でも、急速部であまりテンポが上がらず切迫感が生まれない。 中間部もかなりゆっくりしたテンポだが、それに見合うだけの音楽的充実が見られない。 コーダおよびその前のスピードの上がらなさもかなり萎えた。


29. HUH Jae-Weon

 西村朗:白昼夢
 Chopin: Op.10-1
 Liszt: 超絶第2番
 Schumann: 謝肉祭
Chopinの10-1は音が大きい。メカはよいが終始フォルテで押す傾向があり、もう少し表情があってもよい気がする。 Lisztは迫力はあるが音がもう一つきれいでない。濁る感じ。(そういえば1次でもそんなことを言っていたような。) キレも特に印象付けるほどではない。 最後のSchumannは音についてはそれほど気にならず、解釈もオーソドックスで割りとツボを押さえている。 全体的に明るく健康的で屈託がない。さらに繊細さや陰影みたいなものがあるとよいと思うが。
というわけでエチュード2曲の印象をSchumannで多少持ち直した。 が、また聴きたいというほどではない。


70. Tamila SALIMDJANOVA

 Mendelssohn: 厳格な変奏曲
 Chopin: Op.10-2
 Rachmaninov: Op.39-6
 西村朗:白昼夢
 Chopin: バラード第4番
 Debussy: 喜びの島
Mendelssohnは出だしから加藤君より音色が聴かせる。 表現力もあって退屈させない。変奏の移り変わりによるストーリーみたいなものが感じられる。 ただペダルの使い方の問題なのか音の輪郭がぼやける傾向にあり、個人的にはもう少しクリアで透明感のある音も欲しいところ。 Chopinの10-2はとても滑らか。もう少し拍子感というかフレージングを明確にしてもよいと思うが。 Rachmaninovもスケール感はさほどではないがツボを押さえて完成度の高い演奏。 Chopinのバラ4も出だしの音色がvery good。 基本は繊細系だが動きもあって音楽的。 最後のDebussyも非常に聴かせる演奏。
というわけで彼女は2次でかなり見直した。(元々1次でもBachとMozartの印象は非常に良かったが。)


20. Elmar GASANOV

 西村朗:白昼夢
 Rachmaninov: Op.39-5
 Liszt: 軽やかさ
 Liszt: ピアノソナタ
Rachmaninovはもう少し繊細な音があるとよいけどまあまず。 Lisztの軽やかさも悪くない。 最後のソナタも、意外と言ってはなんだが結構まともな演奏。 ただ全体的はやはりタッチがあまり洗練されていない印象がある(どこがと言われると難しいけど。) またフガート部分はちょっとキレが弱いかなと感じた。前半部分では見苦しい弾き直しもあった。 あと演奏には関係ないけど、時間を少しオーバーすることが確実そうだったので、最後まで弾かせてもらえるのかどうかそれが気になってしまった。(結局弾けたけど。)


36. KIM Hyun-Jung

 西村朗:白昼夢
 Chopin: Op.25-11
 Rachmaninov: Op.39-1
 Chopin: ピアノソナタ第2番
 Liszt: リゴレット・パラフレーズ
Chopinの25-11は速めのテンポで昨日のOnyshchenkoよりアグレッシブな演奏。中間部の最後の方でミスった気がする。 Rachmaninovの39-1もノリというかリズムのキレがよい。右手の細かい動きがクリアに聴こえるとさらによいけど。 次のChopinのソナタが良かった。少なくともDaneshpourよりは数段優れている。 歌い回しもしっくりきているし、テクにもキレがある(特に第2楽章)。完成度も高い。 最後のLisztもよい。1次の尾崎君もよかったがそれに勝るとも劣らない出来。
彼女は一次でも一応名前を挙げていたが、2次でさらに株を上げた組である。


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というわけで2次の最終日も終了。今日よいと思ったのは

 70. Tamila SALIMDJANOVA
 36. KIM Hyun-Jung
次点で
 64. 尾崎有飛
というところ。今日もやはり全体的には寂しい出来であった。

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そして2次の結果が出たので、 各日の感想で名前を挙げた人(よいと思った人および次点の人)がどうなったかを以下に書いておく(○が通過者)。

一番驚いたのはJae-Won Moonが通ったこと。(嬉しい驚きであるが。)課題曲1曲弾けなかったにも関わらず通ったということは、それだけ審査員の評価が高かったということか。あと意外なのはOnyshchenkoが落ちたこと。ここで落とすなら1次で落とした方が納得がいったが。野木君、Huh Jae-Weon、Gasanovが通ったのは、ここらへんに来るともう好みの違いとしか言いようがないだろう。(多分これ以上いくら聴いても好きになることはなさそう。)

というわけで、初日のはじめに書いたように、生で聴けるのはここまで。 3次はネットで聴くと思いますが、ライヴでは聴けないし、オンデマンドでもいつ聴けるか(聴く時間がとれるか)わからないので、レポートはいつになるかわかりません。(ずっとないかも。)

最後に今の時点での今回の全体の印象を言うと、今回もそれなりに良いと思う人はいるが、たとえば前回のHuangci、それより前のPirojenkoやTebenikhinのように、特にお気に入りという人が現れなかったのは残念だった。 また全体のレベル(というか3次出場者のメンツの充実感)も第3回をピークに徐々に下がってきているという感じである。 (思えば第3回はTarasov, Urasin, Kempf, Matsuev, Kern, Laneri, Morozov, Baxと、今考えるとワクワクするようなメンツだったな…。)

 


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