8月29日に行われた第72回日本音楽コンクールピアノ部門第1予選の1日目のレポートです。
いつもは1次のレポートは書かないのですが、今年は2次をあまり(多分1日しか)聴きに行けそうにないので、せっかくなので書くことにしました。
ただし聴きにいくのは1日目だけなので、1次は今日の分で終わりです。
1次の課題曲は以下の通り。
次の(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)(h)より任意の2曲を用意し、当日各自の抽選による1曲を演奏する。
(a) Beethoven:Sonata op.2-2 第3、第4楽章
(b) Beethoven:Sonata op.2-3 第3、第4楽章
(c) Beethoven:Sonata op.27-1第3、第4楽章
(d) Beethoven:Sonata op.27-2 第2、第3楽章
(e) Beethoven:Sonata op.31-3 第3、第4楽章
(f) Schubert:Sonata E flat major D568 第1楽章
(g) Schubert:Sonata A minor D845 第1楽章
(h) Schubert:Sonata C minor D958 第1楽章
場所はみなさんご存知の通り今年からトッパンホールに変わっている。
このホールに来るのは初めてだが、イイノホールと比べると中はややこじんまりとしていて、
ステージも低めで客席との距離感が近く、どこかアットホームな雰囲気。
音は当然イイノより良いはずだが、客の少ない1次では残響が多すぎて(浜松コンの中ホールのような)風呂場サウンドになるかと思いきや、意外と適度に響いて聴きやすい。
通路もひろびろと設計されており(ただしロビーは狭い)、前の椅子との距離も割合ゆったりしている。
ちょっと気になったのは椅子の肘掛。断面が山状に上が尖っていて、普通に肘をのせると痛い(肘をのせることを拒否したような作りだ)。多分となりの人と肘掛を共有できるようにしたのだろうが、考え落ちという感じ。
最大の問題は立地というかアクセスだろう。最寄駅が有楽町線江戸川橋で徒歩8分というのはやっぱり不便(ホールから飯田橋駅へシャトルバスが出ているというのが不便さを物語っている)。
いずれにしろ、客席数がイイノに比べて少ないので、割合人気のある3次などは要注意である。
あと今回改善された点は審査委員席。イイノでは不法に(?)広いスペースを占拠していたが、今回は(全体のキャパも少なくなったせいか)2列だけとなった。
ちなみにチケットは1500円で去年のまま。ホールが変わったのを機に便乗値上げするかと思ったが、それはなかった。
以下、1次予選1日目の全演奏の一言コメントを。ただこれだけではあんまりなので個人的な評価をyes/maybe/noの3段階で付けてみました。(maybeよりはちょっと落ちるmaybe-というのもあるので実質的には4段階。)
- (b) トップバッターとしては健闘。指回り悪くない。(maybe)
- (d) IIでダメ。歌えていない。IIIもイマイチ。(no)
- (h) 弾き急ぐ感がある。フォルテ和音に難(音がこもる)。(maybe-)
- (e) まずまず。IVはもう少し軽い感じが好きだが。(maybe)
- (e) IIIは音に伸びがあってよいと思ったが、IVはテンポが速すぎてあわただしい。(maybe-)
- (b) 1番に比べると指回りがもうひとつ。(no)
- (d) 音が少し荒いがメカニックは悪くないかも。(maybe-)
- (c) 騒々しい。(no)
- (d) よく考えていることはわかる。(maybe)
- (e) 指回りが少し不安。(no)
- (h) 方向性は悪くないと思うが、提示部と展開部での大きなミスが痛い。(no)
- (c) 音をよく聴いている。(yes)
- (a) 優しい音色が印象的。IVの主題の上行音形はもう少しクリアにしたいが。(yes)
- (g) 音がよい。(yes)
- (c) 速い走句が不明瞭になりがち。(no)
- (g) 音が充実。終盤のミスが惜しい。(yes)
- (e) テンポが揺れる。ミス多し。(no)
- (h) ツボを押さえている。(yes)
- (c) あがって慌てた?IVは小崩壊気味。(no)
- (d) 勢いはあるがちょっと激し過ぎ。トリルが決まっていないのが残念。(maybe)
- 棄権
- (f) 音色、歌い方にもう一工夫ほしい。(maybe)
- (d) 音楽の作りがまだ幼い。メカニックのポテンシャルはあると思うが。(no)
- 棄権
- (d) 解釈が変わっている。技術の裏づけがあったら説得力があったかもしれないが。(no)
- (b) 技術的にもう少し安定していて欲しかった。結構ミスがあった。(maybe)
- (g) 音の出し方が無造作。シューベルトをなめている?(no)
- (h) 方向性はよいが、指が弱い。(no)
- (e) 勢いはあるがもう少し丁寧にいきたい。テンポ速すぎでは?(maybe)
- (a) 説得力がある。後半不安的だったのが残念。(maybe)
- (c) もう少し丁寧に。テンポ速すぎ。(no)
- (b) 音楽の流れが不自然というかおかしい。メカニックも弱い。(no)
- (b) 今日の(b)の中ではメカニックが一番安定(1度大きなミスがあったが)。ただし少し硬い。(yes)
- (a) 優しい音。表現の完成度が高い。(yes)
- (a) 前の人との差が大きい。前の人と比べると弾き飛ばしているように聴こえる。(no)
- (d) 音コンに出てくる人でこれだけ弾けてない人も珍しい。最後までたどりつけるかハラハラした。(no)
- (e) 音の出し方が乱暴。前の人に調子を狂わされた?(no)
- (c) 前の人、およびこの曲を弾く人と共通の傾向。勢いはあるが乱暴。(no)
- (d) IIIはまずまずだがIIがイマイチ。メカニックはそれなりにしっかりしている。(maybe-)
- (f) 見通しが悪い(拍子感に問題?)。指回りも不安定。(no)
- (e) 今日のこの曲の中では一番気に入った。かなりの実力者とみた。(yes)
- 棄権
***
というわけで1次の1日目を聴き終わった。まずまずと思ったのは当然のことながら上で(yes)が付いた人である。
特に逸材と言えるような人はなかったが、むしろベートーヴェンやシューベルトを数分かそこら聴いただけでそんなに凄いと思える(他と歴然の差を付ける)人がいる方が稀であろう。
通して聴いたときの感想は以下。
- 月光ソナタは有名曲だけに危険な選曲のように思える。シンプルな第2楽章で審査員を納得させるほどセンスよく歌うのはかなり難しいし、終楽章もトリルまでバッチリ決めている人はほとんどなかった。
- 逆にシューベルトは技術的にベートーヴェンほどdemandingでないだけに、解釈のツボさえ押さえていれば割合通りやすそうな気がする。
- ベートーヴェンの終楽章でテンポが速すぎる人が多い。特にOp.27-1、Op.31-3。速くても鮮やかに弾ければ問題ないのだが、速めのテンポをとったばっかりに弾き飛ばし気味になり、自滅しているような人が多い。(ひょっとして緊張して普段よりテンポが上がった?)
- Op.27-1、Op.27-2、D.568については今日は納得できる演奏がなかった。
と、えらそうに書いたが結果はまだこれから。果たしてどの人が2次に進んでいるだろうか。
(最後に余談だが、演奏者リストを見ると1次の最終日に去年の入賞者の泊真美子さんの名前が。
入賞者の1次免除はなくなった?)
[9/1追記]
実際の1次通過者は以下の通り(1日目分のみ)。
4,12,13,14,16,18,20,22,33,34,40,41
私がyesを付けた8人はすべて通っており、だいたい納得のいく結果である。