第2予選の課題曲は以下。
次の(a)(b)(c)を15〜20分にまとめて演奏すること。繰り返しは自由。
(a)J.S.Bachの作品(オリジナル曲に限る。複数の曲でもよい。但し組曲の抜粋は認めない)
(b)Chopin: 練習曲集op.10またはop.25から1曲
(c)Lisztまたは RachmaninovまたはScriabin: 任意の練習曲1曲(ただし超絶技巧練習曲「夕べの調べ」を除く)
(なお前回のレポートで、審査員席が2列だけになったと書きましたが、あれは勘違いで5列しっかり占有していました。)
以下、2次予選2日目の全演奏の感想です(なお曲は演奏順)。
57. Bach: II-4, II-9, Chopin: 25-11, Rachmaninov: 39-1
BachのII-4の前奏曲はよく考えているが、いかにも作られている感じがあり、もう少し自然さ、自発性みたいなものがあった方がよいか。フーガは少し不安定で一瞬止まってしまった。II-9もミスはあったが全体的にこちらの方がよい。(あるいはこちらの1曲だけにした方がよかったかも。時間の問題もあるが。)
Chopinの25-11は左手は表情があっていよいが、右手が不明瞭。もう少しテンポを落としてでも右手をくっきりさせた方がよい。
最後の39-1も右手の細かい動きをもう少しクリアにしたい。低音にアクセントをつけるのは面白いが。
全体的にはもうひとつ。3次に進むのはチト厳しいか。
60. Bach: I-9, Liszt: 回想, Chopin: 10-12
Bachはプレリュードは悪くないが、フーガはどこか(指回り)が不安定。明らかにミスをしているというわけではないが、もうひとつ指回りが俊敏でないというか。
回想はかなり遅めのテンポ。速い走句はよいが、連続和音のところがやや硬い(ぎこちない)。フォルテ和音ももうひとつ(やや汚く響くことがある)。
最後のChopinは左手はスムーズでよいが、右手がもうひとつ。もう少し美しく響かせられないかな。
全体的には無難にまとめたといえるが、もうひとつアピールするものがなかった(特に技術的に)。
64. Bach: 半音階的幻想曲とフーガ, Scriabin: 8-2, Chopin: 10-8
Bachの幻想曲は技術的に安定していて表情も自然。(これは期待できそう。)問題のフーガもかなりの出来。(長いトリルのところなど)少しテンポが走ると感じられるところもあったが、トリルはキマっていたし、ここまで弾ければ上出来だろう。
Scriabinはもう少し激しくてもよいと思うが、丁寧である。
Chopinは特によいわけではないが、まあまあ。右手がもう少しクッキリしてくれるとよいが。
全体的にはBachがよかった。(少なくともこれまでの3人のうちでは一番よい。)
3次にいってもおかしくないが、確実というには他の2曲が少し物足りないか。
66. Bach: トッカータBWV911, Chopin: 25-5, Rachmaninov: 39-6
彼女のBachもよい。フーガのトリルがもう少しきれいにキマるとなおよかった。また(曲がやや冗長なだけに)もっと大胆に音色の変化があってもよいか。終盤で大きく乱れたのが悔やまれる。
Chopinの25-5も音楽的でこなれている感じ。再現部でやはりちょっとミス。
最後の39-6も、中間部でもうひとつのところもあったが、まずまず。
全体的には、肝心のところでミスが出たのは痛いが、総合的にはこれまでで一番よいかも。音楽センスは悪くない。
71. Bach: トッカータBWV915, Chopin: 10-12, Liszt: パガニーニ練習曲第6番
Bachは最初のフーガの部分、ミスをしているわけではないが、打鍵が確信に満ちていないというか、どこか一抹の不安を感じる。後半のフーガはそういうことはないが、もう少し表情があってもよい。無表情である。彼女がこの曲を選んだ理由(愛着みたいなもの)があまり伝わってこない。
10-12は、テンポが遅めなのはよいとして、ベッタリとしてノリが悪いというか、能動性、推進力に欠ける。(こういう演奏をすると音楽センスを疑われるので要注意。)
最後のLisztも技術的な余裕が感じられない。曲を弾くというよりは曲に弾かされている感じ。ただ第9変奏はよかった。
全体的には彼女ももうひとつ。特にChopinで印象を悪くした。
72. Bach: I-24, Chopin: 25-6, Rachmaninov: 39-9
Bachの前奏曲は左手は表情があって悪くないが、右手はもう少し工夫できそう。後半になるとちょっと単調。もう少し手練手管を使った方がよい。フーガも非常にstatic。表情付け、音色などもう一工夫できるのではないか。そのためにはさらなる打鍵のコントロールが必要だが。
Chopinの25-6は肝心の3度がイマイチ。ごまかし気味のところが多々あった。選曲ミスか。
39-9もやっぱり不明瞭なところがある。和音は元気があるが。
彼も全体的にイマイチ。(今年はこれまで低調な感じがする。)
78. Bach: I-4, Chopin: 10-4, Rachmaninov: 39-9
Bachの前奏曲はすっきりしてベトつかない弾き方だが悪くない。(素っ気無さにつながる危険性は孕んでいるが。)フーガは途中で暗譜が完全に飛んでしまって、途中少し飛ばしてしまった。演奏自体はそんなに悪くなった(その後持ち直した)だけに残念。
Chopinも悪くない。技術的ポテンシャルを持っていることはわかる。変な癖がないというか、筋が良さそう。
最後の39-9も、少し不明瞭なところはあるが前の人よりはよほど良い。でも終盤ちょっとあわてたか。
全体的に実力者であることはわかるが、フーガのミスを審査員がどう判断するかである。
80. Bach: II-12, Chopin: 25-11, Liszt: マゼッパ
Bachの前奏曲は表情付け過ぎで、テンポの変化も少し不自然に感じられるところもあるが、彼の主張が出ていて悪くない。
フーガは少し不安(危うさ)を感じる。もう一工夫できるのではと思ったが、速めのテンポをとっているために表情を付ける余裕がないのかもしれない。
前奏曲に合わせてゆったりとしたテンポをとる手もあったと思う。
25-11は序奏は遅いテンポだが、主部は一転して速め。音に重みが欠ける感じがする。右手はやはりもう少しクッキリ出して欲しい。
マゼッパも音が軽い。体重が乗っていないというか、小手先で弾いているように聴こえてしまう。ミスも多め。
全体的に、(特に急速かつ明晰な音を要求する部分での)音の出しに少し問題がありそう(音が弱い)。
85. Bach: トッカータBWV.914, II-19, Chopin: 10-4, Liszt: ラ・カンパネラ
Bachは野太い音でちょっと響き過ぎかも。最初のフーガでは表情の付け方に少し違和感があった。II-19の方はフーガで一瞬危ないところもあったがそれなりにまとめたと言える。Chopinは特に悪くもないが良くもない。(78番の方がよかった。)最後のカンパネラは音に繊細さ・デリカシーというものが全くない。まだまだである。
全体的にやっぱりもうひとつである。
90. Bach: I-4, Liszt: 吹雪, Chopin: 10-5
Bachの前奏曲は表情の付け方がやや作り物っぽい感じがする。フーガももう少しタッチ、音色をコントロールしたい。主題などやや叩く感じがある。
Lisztは出だしから元気過ぎ。最初はもう少し繊細な音で始めたい。その後も弱音がmp止まりみたいな感じがある。よく言えば神経質でないということだが。あと鼻息(?)が少し気になった。Chopinの10-5は普通。
96. Bach: トッカータBWV911, Chopin: 10-5, Rachmaninov: 33-7
Bachはちょっと無表情というか機械的なところがある。第2フーガも指回りが少し硬い。もっと滑らかでかつ繊細でかつ表情豊かであってほしいのだが…(私の望みが高すぎるのか?)。
Chopinの10-5は(前の人にも同じことが言えるが)もう少しキレをよくするというか、弾むような感じを出して欲しい。少しダラダラとつながる感じがある。
最後の33-7はイマニというところ。ちょっとゴマカシ気味だし和音も魅力的に響かない。
100. Bach: II-4, Chopin: 10-4, Bach: トッカータBWV916, Rachmaninov: 39-3
BachのII-4の前奏曲は装飾音の弾き方がなかなかよい。自然で表情豊かである。(これは期待できるかも。)フーガも少し不安を感じさせるところはあったがまずまず。(正直、期待ほどではなかったが。)Chopinの10-4も、少し弾き急ぐ(「決め」が甘い)ところはあるがまずまず。
次のBWV916は最初の平均律に比べるともうひとつ。ミスが多かったし中間部もやや単調。
最後の33-7は特にインパクトはないが技術(メカニック)的には悪くない。が、音があまりキレイでない。また中間部でのミスが痛い。
彼の場合、Bachのトッカータはなかった方がよかったかも…。
113. Bach: トッカータBWV913, Scriabin: 8-2, Chopin: 10-8
Bachは(彼女だけの話ではないが)音の出し方に疑問。平板というか硬いというか深みがないというか。
Scriabinはリズムに少し違和感。最後の10-8ももうひとつ冴えない。
(低調な演奏が続くためかだんだん書く気力が減ってきている…。)
116. Chopin: 10-12, Bach: I-17, I-18, Liszt: 超絶第10番
10-12は出だしの和音をもっとキレイに出したい。音がこもり気味。最初にChopinを持ってくるならばよほど良い演奏をしないと「なんで?」ということになってしまうが、まさにそうなってしまった感じ。(得意な曲を最初に持ってくる作戦は私自身は良いと思うが、彼女の場合とくに良い出来とも思えない。)次のBachのI-17はよく言えばシンプルだが、悪く言えば子供っぽい弾き方。I-18はI-17よりは良いがやはりもっと細やかな表情を期待したい。最後のLisztは前半乱れかけた。音はよいがミスが多い。
125. Bach: トッカータBWV910, Scriabin: 8-3, Chopin: 10-12
Bachは特に緩徐部分に彼なりの主張、こだわりが感じられる。(良いか悪いかは別にして。)ただフーガ部分になるとそこまで音を考える余裕がないようである。ミスも目立つ。Scriabinはリズムが錯綜しているのかすっきり聴こえない。初めてこの曲を聴いた人がいたら曲の流れがよくわからなかったのでは。最後の10-12は、荒いが、彼の主張はわかるような演奏ではある。
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正直言って今日は低調であった。
是非3次でも聴きたいという人はなかったが、強いてまずまずの人を挙げれば、64、66、78の3人くらいか。
で、実際の(2日目の)2次通過者は60、72、113の3人。
私の好みとは全くずれていたわけである。多分審査員達とは聴くポイント(何を重視するか)が違うのだろう。(ちなみに私が重視するのは「この人の演奏をまた聴きたいと思うか?」ということ。)
それにしても、今日の低調ぶりを見ると、音コンもちょっとヤバイんじゃないの?と思ってしまう。 少子化など影響で本当に皆の実力が低下しているのか、それとも本当の実力者が音コンを重視しなくなって受けなくなっているのかわからないが、あまり伝統の名の上にあぐらを書いて、優秀なコンテスタントを集める(惹き付ける)努力もせず、殿様商売みたいなことをやっていると、将来は本当にヤバイかもしれない。