本選の課題曲は協奏曲。 実は協奏曲の本選はここ2回連続して聴きに行かなかったので、本選で協奏曲を聴くのは6年ぶり(松本君が優勝した年以来)になる。 選べる曲はここでは省略する(ここを参照)が、以前に比べると選択肢がだいぶ増え、有名曲で選べないのはBrahmsの1,2番やRachmaninovの3番など、時間がかかるもののようである(と思ったら6年前にも同じようなことを書いていた。進歩がないなぁ…(笑))。
以下、本選の全演奏の感想を。 なお番号は単に演奏順を表すもので、予選での出場者番号とは関係ありません。 オケは高関健指揮の東京フィル。 ちなみに聴いた席は1階の後ろの方(後ろから6列目)のやや左側でした。
1.
Tchaikovsky: ピアノ協奏曲第1番
最初は3次でProkofievの2番ソナタなどを弾いた男性。(予選とは演奏順が2番目の人と入れ替わっているが、本選の演奏順はどのように決めているのだろうか…。)
出だしの和音伴奏はともかく、その後のソロパッセージに入ると、(ホールのせいなのか)ピアノの音に伸びがない。ややこもる感じ。
もっとどっしりしていてもよいと思うのだが、腕が縮こまっているというか、弱々しく聴こえてしまう。
メリハリの点でオケに押されている(オケもそんなに上手いわけではないのだが)。
第2楽章もアゴーギグが最小限で、あまり歌わないというか、素っ気無い。
謙譲の精神というか、何事も控えめである。
終楽章もメリハリに乏しく、小手先で弾いているような感じさえする。勢いもオケに完全に負けている。
また全体的に弾き急ぐというか、せかせかした感じがあり、もっと深い呼吸というかドッシリ構えたところがあってもよいと思う。
というわけで全体的にちょっとガッカリしたというのが正直なところである。
2.
Liszt:ピアノ協奏曲第1番
続いて3次でメシアンやダンテソナタを弾いた女性。
曲の違いもあるだろうが、出だしから前の人より音がよく通る。
最初のカデンツァ風のパッセージでは、一瞬忘れたのかと思うくらいタメを作るなど、アゴーギクも結構大胆。
急速パッセージでやや音が軽くなるのが多少気になるが、でも悪くない。
個人的には、終楽章での最後の両手跳躍(第1楽章冒頭と同じパターン)のところはもっとテンポを上げて畳み掛けて欲しかったが、でも音の迫力でオケに負けていない。
その後、終楽章の途中で地震というハプニング。結構揺れたのだが、止まらずに弾き通した。(後で放送があり東京23区は震度4だったそうだ。)
全体的に、音に存在感があり、よい出来だったと思う。
特に地震でも止まらなかったのには少し感動を覚えた。(ひょっとして本人は集中していて気が付かなかったのかもしれないが。)
あと望むとすれば流麗さと自発性みたいなものか。ちょっと「作った」感じがしないでもない。(それだけしっかり準備してあったということだが。)
3.
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番
続いて3次では最後に弾いた女性。
彼女も、最初の男性ほどではないが、もうひとつ音に伸びやかさが欲しいところ。
音が軽めというか、芯から鳴っていない感じがする。
また急速なパッセージで弾き急ぐ感がある。
ダイナミックレンジも小さめで(特に展開部)、もっとメリハリをつけた方がよいのではないかな。
そして彼女も第1楽章の途中で地震があったが、やはり止まらなかった(さっきよりはやや小さかったが)。
第2楽章は音色のパレットの少なさというか、表現力、表情の乏しさが気になった。
ただ弱く弾いている感じになっている。
終楽章も弾き急ぐ感じ。音が流れ気味というか、アクセントやsfなどキメるべきところはもっとキメて欲しい気がする。
全体的に(3次と同じく)もうひとつ印象に残らない演奏であった。
4.
Rachmaninov: ピアノ協奏曲第2番
最後は3次でHaydnやChopinの3番ソナタが強く印象に残った男性。(実は今日一番期待している。)
冒頭は和音を崩さずに弾いていた(結構手が大きいのだな…)。
音の伸びやかさはそれほどでもないが、歌い方が上手い。小さなフレーズにも自然な表情がついている。
しかも作った感じではなく、自発性が感じられる。
もう少し音量があってもよいと思うが、彼は多少音を汚してもガンガン弾くようなタイプではないのだろう。
正直、もう少しガツンといってもいいと思ったところもあるが、でもセンスの良さが感じられる。
テクも洗練されていて(終楽章で多少ミスはあったが)、
線がやや細いというか音が上品なところもあわせてやはりどこか浜コンのブレハッチを思い出させる。
全体的に、3次ほどのインパクトはなかったが、でも才能を感じさせた。
***
というわけで本選の全演奏を聴き終わった。
本選と3次の演奏を総合して私が順位をつけるとすれば、
4.
2.
3.
1.
というところ(番号は今日の演奏順序)。
3.と1.は逆でもよい(というか同じくらい)。
4番の人は本選も悪くなかったが、特に3次の演奏が印象に残った。彼はリサイタルの方が向いている感じだ。(2番の人はその逆か。)
そして実際の審査結果は、以下の通り。
4.
3.
1.
2.
2番の人の評価が低いのが意外だった。(会場でも終わった後の拍手が一番続いていたような気がしたが。)
いずれにしても4番の彼が1位になったのは納得の結果である。ちなみに聴衆賞も彼であった。