今年はちょっと忙しくて1,2次は行けず、聴いたのは3次だけとなりました。 ただ2次を聴いていないということでかえって先入観なく聴けるかもしれません(以前聴いたことのある人はいるかもしれませんが。でも多分覚えていません)。 ちなみに今年は本選も多分行けなさそうです。
課題曲はここにありますが、例年通り(a)Haydon/Mozart/Beethoven、(b)自由曲、(c)邦人作品という構成。
以下、3次予選の各演奏の感想です(曲は演奏順。番号は演奏者番号)。
11.
Ginastera: アルゼンチン舞曲第3番
武満徹: 遮られない休息 第1〜3番
Beethoven: ソナタ第31番
Chopin: 舟歌
Ginasteraはノリがよい。ちょっと音を響かせすぎで混濁する感じがあったが迫力は十分。
武満は知らない曲だがもう少し響きに透明感があった方がよさそう。音があまり美しく響いていない気がする。
Beethovenはフレージングや音色にちょっと納得がいかない、というか共感できないと言った方が正しそう。
ちょっとした「間」や細かい表情の無さが気になる。
第2楽章もフォルテであっても乱暴であってはいけないはずだが、ちょっと叩きすぎる。
Chopinは(Beethovenの出来からして)あまり期待していなかったが、意外と悪くない。
あまりもったいぶらずに(舟歌だけに)うまく流れにのっている感じ。もちろんもっと細かい表情が欲しいという人はいるだろうけど。
全体としてはBeethovenがイマイチであった。
60.
武満徹: 遮られない休息 第1番
Beethoven: ソナタ第21番
Schumann: ノヴェレッテOp.21-8
武満、Schumannと苦手な曲なのでほとんどBeethovenだけの感想。
前の人よりは音のコントロールが出来ていそうだが、特に聴かせるとか印象に残るというほどではない。
ミスが割りと多目で、時折ゴニョゴニョとなるところがあったりして、もうひとつパッとしない。ただ終楽章コーダのオクターヴグリッサンドはキレイに決めていた。
彼もまた聴いてみたいとは思わなかった。
78.
Haydn: ソナタHob.XVI-52
宍戸睦郎: トッカータII
Rachmaninov: コレッリの主題による変奏曲
Haydnは非常によく仕上げているという感じ。
丁寧だが変化をつけて一本調子にならない。ちょっと作為的というか、変化をつけようとするあまり流れが止まってしまうと感じられる点もなきにしもあらずだが、よく考えているとも言える。
終楽章は指回りも気持ちよい。
宍戸は音が鋭く迫力もあって曲想にマッチしている。
Rachmaninovはあまり好きな曲ではないのでピンの来ないのだが、音がややクッキリハッキリし過ぎている感じで、もう少し抒情性みたいなものがあるとよいのかもしれない。
この曲に限らずやや音が硬いのが難点である。去年の浜コンのNadzhafovaじゃないけど、音力というか馬力があってちょっと聴き疲れするタイプかも。
ただ好みかどうかは別にして、仕上げの完成度の点ではこれまでの3人の中では一番上だったように思う。
98.
Mozart: ソナタ第3番
武満徹: 閉じた眼
Schumann: ダヴィッド同盟舞曲集
Mozartは自然な呼吸が感じられ好感が持てる。あまり作りすぎていないというか、自然体だが必要なポイントは押さえているという感じ。
第2楽章での、さりげないけど細やかなアゴーギクも納得がいく。全体にセンスが感じられる。
終楽章も好きな曲ということもあってトリルのところなどゾクゾクっとしてしまった。
残念なのはSchumannが超苦手曲であまりコメントできないこと。ただ悪くはなさそう。
102.
Beethoven: ソナタ第23番
佐藤敏直: ピアノ淡彩画帖より"黄と黒の季節"
Liszt: ダンテを読んで
Beethovenは第1楽章の前半で結構大きなミス。ただそれ以前に最初の人と同様、フレーズの変わり目での間やタメの入れ方などアゴーギクに納得がいかない。
一本調子に流れていく感じ感じがある。
邦人曲は短い曲だがリズミカルでなかなか面白い。
Lisztは(やはり最初の人と同様Beethovenの印象から)あまり期待していなかったのだが、音が充実していて思ったほど悪くない。
細部の磨きはまだ十分でないが、スケールの大きさがあって、やや力で押す傾向にあるものの好きな曲なのでまずまず楽しめた。
彼もやはりBeethovenの印象がよくなかった。
124.
三善晃: ピアノソナタより第3楽章
Haydn: ソナタHob.XVI-23
Prokofiev: ソナタ第7番
三善晃はまずまずだが、Haydnはちょっと単純すぎる。もう少し表情が欲しい。
指の運動に堕している感があって、Mozart風に言えば'tasteもfeelingも感じられない'といった感じ。
大きなお世話なんだろうけど、もう少し良い先生についたら?と思ってしまう。
Prokofievも乱暴。勢い重視なんだろうけど、もう少し1音1音を大切にして欲しい。
128.
Haydn: ソナタHob.XVI-46
武満徹: 遮られない休息 第3番
Rachmaninov: ソナタ第2番(Horowitz版)
Haydnは繊細なタッチで細かい装飾的なパッセージの処理にセンスを感じる。
第2楽章の歌い方も感心した。
Rachmaninovもメチャメチャ技巧にキレがあるとか、濃厚の歌い回しがあるというわけではないが、センスがよい。
音のバランスがよいというのか、フォルテでも音が濁ったり割れたりせず、透明感を失わない。
終楽章はもう少し畳み掛けるようなスピード感があるとよかったけど。ともあれ今日これまで聴いた中では一番印象に残った。
168.
Rachmaninov: 前奏曲Op.23-7, 23-2
武満徹: 雨の樹素描II
Beethoven: ソナタ第32番
Rachmaninovは音がくぐもっていたり濁った感じがあって、もう少し透明感が欲しい。このあたりは前の人との差が大きい。
Beethovenもやはり和音が厚ぼったくなりがち。
印象としてはすべてmf以上で押しているよう(もちろん実際にはそんなことはないのだが)で、ちょっと聴き疲れする。
第2楽章はリズムが流れないというか常に後ろに重心が残っている感じでちょっとイライラする。これだけノリが悪いのも珍しい。
逆に第3変奏はダーっと突っ走る感じがあって、もう少しリズムを強調してはどうか。
170.
Ginastera: アルゼンチン舞曲
原文雄: Pulsation
Haydn: ソナタHob.XVI-44
Brahms: 間奏曲Op.118-2
Liszt: スペイン狂詩曲
小柄でおでこが広いので、のだめのピアノのライバルだった男の子を思い出してしまった(失礼!)。
Ginasteraは丸みのある音だがよくコントロールされている。
邦人曲は曲どころか作曲家自体初めて聴くが、抒情性と激しさがうまく融合していてよい曲だった。
Haydnは手堅くまとめたという感じか。ただもう少し情緒があってもよかったのではないかと思う。
最後のLisztはラプソディだけに音や歌いまわしにもう少し色気みたいなものがあるとよい。どこか教科書的で少し面白みに欠ける感じがある。
弾きこぼしも結構あったりしてあまり感銘を受けなかった。
178.
西村朗: 薔薇の変容
Beethoven: ソナタ第31番
Liszt: ハンガリー狂詩曲第12番
邦人曲はこれも初めて聴く曲だが、キレがあるのにコクもあるという感じで、表現力がありそう。曲が自分のものになっている感じ。
Beethovenは今回やっと納得のいく演奏が聴けた。アッサリ味だが緩急、強弱のツボを押さえている。
Lisztはラッサンの歌い回しもなかなか堂に入っている。ラプソディックになっているのがよい。
終盤の手前でちょっとしたミス(音抜け)があったのは惜しかったが、その後の盛り上がりは鮮やかに決めていた。かなり好印象である。
189.
Messiaen: 4つのリズムエチュードから第1,4番
Boulez: 12のノタシオン
Haydn: ソナタHob.XVI-50
野田暉行: ピアノのためのオード・カプリシャス
現代曲をズラリと並べていて、なんともコメントしようがない。
こういう偏りはどう評価されるのかわからないが、自由曲なんだから自分の弾きたい(聴いてもらいたい)曲を弾くのが一番だろう。
唯一聴きなれたHaydnはツボを押さえてしっかりとまとめている。特に第2楽章が伸びやか。第1,3楽章はちょっと素っ気無い気もしないでないが。
***
というわけで3次の全演奏を聴き終わった。
今日聴いた中で気に入ったのは128番と178番。
特に178番は本選は固いのではないかと思わせる出来だった。128番も私の好みだったが、プログラム構成の点で邦人曲がかなり短かったのはひょっとしたら問題になるのかも。
次点としては78, 98, 189番の3人。いずれもメインの曲が苦手系だったのではっきり言えないのだが、古典を聴いた限りではそれぞれ実力はありそうである。
本選は4人なので、最初の2人と次点の中から2人が選ばれれば審査員と私の好みが合っていることになるが、果たして…。
そして実際の審査結果は、以下の4人。
11, 128, 178, 189
気に入っていた128, 178番の2人が通ったということで、かなり満足な結果であった。
ただ最初に書いたように本選は聴きに行けそうにないのが残念である。
ちなみに11番は後で調べたら実は一昨年も3次で聴いていて、そのときもやっぱりあまりよいとは思わなかったのだが本選に進んでいる。どうも彼とはとことん相性が悪いようである。
今回3次を聴いた全体的な感想としては、1人を除いて皆Beethovenがいけませんね〜、ということ。
以前、2次ではBachの出来が全体の印象を左右する(Bachが悪くて他の曲で心証を回復する、ということはほとんどない)、みたいなことを書いた覚えがあるが、3次では古典派がその位置を占めている感じである。ただHaydnやMozartは悪くなかったので、今回のBeethovenはたまたまだったのかもしれない。
あと邦人曲で、例年のように雨の樹素描をこれでもかと聴かされることがなかったのはよかった(笑)。それでも11人中5人が武満で相変わらずの人気でしたが。