1998/10/11に行われた第67回音コンピアノ部門本選の感想です。

今年はコンチェルトの年。課題曲はここには書かないが選択肢はだいぶ増えて22曲になった(ちなみに前回は10曲)。プロコフィエフやバルトークも入り、(昔のことは知らないが)私が聴き始めたことはロマン派しか入ってなかったことを思うとコンチェルトの選択肢だけは国際コンクール水準に近づいてきた感じだ(ただ、ラフマニノフの3番やブラームスは入っていない。演奏時間の関係かな)。

各演奏者の弾く曲は事前に新聞で見たのだが、4人中3人までがラフマニノフの2番(残りはサン=サーンスの2番)。(以前日本国際コンで3人連続チャイコンを聴くことがあったが、ラフマニノフの2番を1日に3回聴くのはこれが初めてである。)聴く方としては変化がなくてちょっと残念だが、審査はしやすいかもしれない。

今回の会場はいつもの東京芸術劇場ではなくて、東京オペラシティ・コンサートホールのタケミツ・メモリアル(私の嫌いなシューボックス型)。実はこのホールは初めて来たのだが、芸劇に比べてキャパシティが小さい上にまともな席は審査員席や招待者席、指定席、カメラ用にとられていて(しかも2階正面の一等席がなぜか封鎖されていてむなしく空いている)、いつものように自由席を買ってしまった私は前から2列目のしかも袖に近い席という、悲惨な場所で聴くことになってしまった。ひょっとしてこれからずっと本選はこのホールを使うのかもしれないと思うと暗澹たる気分になる(芸劇だと入りが悪いからだろうか)。今年だけの特別であってほしいのだが…。

以下演奏順に感想を(敬称略)。なお、バックは飯森範親指揮の東京シティフィル。

山崎早登美(東京芸大大学院1年) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
紫色の派手なドレスで登場。やや緊張した面持ちである。第1楽章の冒頭和音は和音全体をアルペジオにしてバラして弾いていて、やや珍しい。全体的に音がこぢんまりしていて、エコーというかペダル過多の感がある(場所が悪いせいかとも思ったが他の人のを聴くとそうでもないみたい)。また最初の速いパッセージ(piu mossoのところ)など、微温的でキレが感じられない。行進曲風(Alla marcia)の部分も遅めのテンポで落ち着いているが、ここはオケを引っぱるくらいの気力が欲しいところ。第2楽章はなかなか歌っているが、歌い方のスケールがちょっと小さい。中間部の細かい動きも、ちょっとモコモコしている。第3楽章はピアノソロ後のAllegroテーマのところは動きがモッサリしていないのはいいが、2回目に出てくるときはスタカート和音連打のところがややぎこちない。全体的にスケールが大きくないというか、何か今の演奏で精一杯という感じがする。限界を感じてしまうと言ったら言い過ぎか。個人的にこの曲にはロシア的スケールを期待していることもあるのだが。

川村文雄(桐朋学園大2年) サン=サーンス/ピアノ協奏曲第2番
正直言ってこの曲は普段あまり聴き込んでいないのではっきり言えないが、全体的にまずまず。軽い音だが曲には合っているのかもしれない。第2楽章はテーマの和音で上昇するところがちょっと重い(レガート過ぎ)ときがある感じがするが、悪くない。第3楽章も指回りがグーで、テクニックは十分である。細かいパッセージが安定していてミスもほとんどない。ただ2、3楽章のような技巧が前面に出る部分はいいのだが、第1楽章のような部分ではやや物足りないというか、もう少し「聴かせる」要素があってもいいと思う(曲そのものがあまり面白くないのかも知れないけど)。

高田匡隆(桐朋学園大3年) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
第1楽章の冒頭和音は微妙にアルペジオをかけていて、このやり方も珍しい。その後も低音がよく響く。申し訳ないが山崎さんとは音が違う。最初の速い走句もスピード感がある(もっとクリアだとなお良いが)。展開部の見せ場も速いテンポで、オケを引っぱっているというか、意図的にオケより先に進む感じ(個人的にはこのくらいやった方が好きである)。その後の行進曲風の部分も速めのテンポをとり、ここも私の好み(作曲者の自演盤くらいが理想的)。第2楽章はやや単調。特に歌う部分でリズムを杓子定規にとりすぎるように思える。アゴーギクがうまくないという感じ。正直言ってこの楽章は彼の弱点が出ていると言えるかも。第3楽章はAllegroテーマのテンポがかなり速くてちょっと心配したが、ちゃんと弾けているのは立派。その後もスピード感があり、技巧も冴えている。なかなかよい出来である。

松本和将(東京芸大1年) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
冒頭の和音は2つにずらして弾くという一番オーソドックスなやり方(3人とも弾き方が違うのは面白い。本音を言えばもちろんバラさずに弾いてもらいたいのだが)。全体的にゆったりめのテンポで、歌うところはじっくりと歌っている。展開部は速めのテンポだが高田君のようにオケを引っぱることはせず、オケにのせている感じ。その後の行進曲部分も繰り返しのときにテンポを落とすのはありがちだがあまり好きではない。第2楽章はやはり歌い方がうまい。ここらへんは高田君より一日の長というかセンスを感じる。第3楽章もまずまずではあるが、正直言って技巧のキレは高田君の方が上か。こういう曲は微温的になるより多少やり過ぎくらいがいいと思っているのだが、その点からするとちょっと上品過ぎる感じがしないでもない。全体的に外面的効果を追求する高田君と、内面を重視する松本君と言ったら単純化しすぎかな。

***

以上で全員の演奏が終了。全員を聴き終えて(3次の演奏も勘案して)私が順位をつけるとすれば以下くらい。

1.松本和将
2.高田匡隆
3.川村文雄
4.山崎早登美

今日のラフマニノフの2番に関しては松本君より高田君の方が好きだが、3次の貯金が効いてやっぱり松本君が1位。それほど彼の3次は(2次も)印象に残った。申し訳ないが山崎さんの最下位は固いところ(山崎さん、ゴメンナサイ)。

そして実際の順位は以下の通り。

1位 松本和将
2位 川村文雄
3位 高田匡隆
入選 山崎早登美

2位と3位が私の順位と入れ替わっているが、まあ納得できるところ。高田君が3位になったところをみると彼のコンチェルトはあまり評価されなかったみたいだ(3次の点が低かったのかもしれないが)。全体的に今年は波乱がなくほぼ順当だったような気がする。松本君は音楽性十分。願わくはこれから小さくまとまってしまわないことを祈る。

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