J.S.バッハ/リスト 幻想曲とフーガ ト短調BWV542, S.463
- J.トッコ(DHM<91>)(5:24/4:45)◎-○ ジャケット→
併録の前奏曲とフーガと同様、技術的に非常に安定している。
特にフーガの躍動感、リズムの正確さ、タッチの安定性などは(他にテクニシャンタイプのピアニストでこの曲を録音している人があまりいないせいもあるが)他の追随を許さない。(個人的には、原曲よりもこの曲の良さを伝えていると思う。)
ただ幻想曲の方が、幻想という割には一本調子で面白みに欠ける(正直言って少し退屈)。特に音色の変化がないのがつらい。
また録音のせいか少し音が硬い。
それでも難曲の(部分的に編曲に無理があるとも思える)フーガがこれだけの完成度で弾けているという点で価値は高い。
- ブライロフスキー(Pearl<35>)(4:16/4:24)○
音質は悪いが演奏は立派。
幻想曲は速めのテンポですっきりしている。声高にはならないが必要な表情は付いており、タッチや音色の変化もある。
フーガもかなり速めのテンポながらインテンポをキープしており、技術的な水準は高い。
たまに細部が曖昧になるのが惜しい。
- グレインジャー(Pearl<31>)(6:43/5:01)△-○
幻想曲がまさに幻想的で、変幻自在に聴かせる(が、ちょっとやり過ぎかも)。
フーガも出だしから軽快で、これはと期待させるが、途中(難所)でテンポがあからさまに落ちる。
その後も割合健闘はしているが苦しさは隠せない。
全体として幻想曲を聴くための盤だと言ったら言い過ぎか。
音質は(録音年相応に)かなり悪い。
- A.ピツァロ(Collins<96>)(6:10/5:48)△-○
幻想曲は遅めのテンポだが表情の変化が少なくやや真面目すぎる感じ。トッコ盤の幻想曲と似たような印象を受ける(つまり少し退屈)。(そもそも個人的にこの幻想曲はフーガに比べるともうひとつ面白みがないのだが…。)
フーガも堅実で技術的には安定しているが非常に大人しく、躍動感というものが感じられない。淡々とした感じ。
悪く言えば覇気がない。(難曲であるからこれだけ弾ければよしとしなければいけないのかもしれないが…。)
- Plessis(Pavane<92>)(5:42/5:10)△-○
幻想曲は(単調な演奏が多い中にあって)緩急の変化があって悪くない。語り口がなかなかうまい。
フーガもまずまず破綻無く弾けてはいるものの、ところどころぎこちないというか音の流れがスムーズでない。
表情や躍動感ももうひとつで、技術的にまだそこまで気が回す余裕がないという感じ。
- ハワード(Hyperion<90>)(5:15/5:35)△-○
フーガはピツァロ盤あるいはPlessis盤と似たような印象で、技術的にまずまず無難にこなしているのだが、音符を正しく音にするのに気を遣いすぎて躍動感や生き生きとした表情はあまり感じられない。
幻想曲はピツァロ盤に比べれば音色に工夫があり、歌心も感じられる。
- V.Viardo(ProPiano<96>)(6:11/5:03)△-○
幻想曲はかなり遅めのテンポでじっくりと弾き進める。緩急・強弱の付け方にセンスが感じられ悪くない。
フーガもノンレガート主体のアーティキュレーションでとっても丁寧に弾いているのだが、技術的に少し苦しいのか、部分的にテンポが走ってしまう。
また細部が多少怪しくなってしまうところもある。
細かな表情付けなどは非常によいだけに、この表現意欲を支えるだけの十分な技術があったら、と思うと惜しい。
- スパーダ(Frequenz<86>)(5:20/6:25)△-○
例によって超安全運転。
破綻はないが緊張感・切迫感も皆無。
幻想曲部分も生真面目にインテンポなのはそれはそれで面白いのかも。
フーガでアーティキュレーションもヌボーっとしている。(主題のスタカート指定はほとんど無視されているようである。)
- ワイルド(Ivory Classics<85>)(5:49/5:23)△
フーガの方が(俗受けするような派手さではなく、基本的なテクニックが露になる曲だけに)技術的に見劣りする。
タッチの安定感に欠けるし、難所ではいかにも苦しいという感じ。テンポもやや揺れる。
幻想曲の方も、聴かせ上手なヴィルトゥオーゾタイプのワイルドにしてはやや平凡か。もう少し工夫があってもよい。
- P.Moss(Centaur<94>)(6:03/5:20)△
これも誠実な演奏ではあるが、フーガが技術的に弱い。
やはり難所でタッチが安定しておらず、音の流れもスムーズでない。(重音進行などいかにも苦しい。)
幻想曲ではそういう技術的な問題は現れないが、面白みを出すまでには至っていない。
- M.マックルーア(Columna Musica<2000>)(6:54/5:52)△-×
幻想曲ではそれほど目立たないが、フーガでは遅いテンポをとっているにもかかわらず技術的にいかにも心許ないというかたどたどしい。
タッチが素人っぽくまるで洗練されていない。
音も硬い。
正直、この曲を弾きこなすだけの技量を持っていない感じである。
未記入盤
- オピッツ(Haenssler<2002>)(5:20/5:00)
- マルディロシアン(Transport<2003>L)(7:16/5:19)(ブログ記事)
- フェインベルク(Arbiter<50>)(5:05/4:10)(ブログ記事)
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