J.S.バッハ/ブゾーニ シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番BWV1004より)
- オピッツ(Haenssler<2002>)(13:43)◎-○
ジャケット→
低音部の重量感、ここぞというところでの畳み掛け、緩徐部分での歌い方など、この編曲の(ここはこう弾いて欲しいと私が思う)ツボを余すところなく押さえている。
それでいて(ワイセンベルクなどのように)やり過ぎにならない。いわゆる格調が高い。
単に指が回るだけでなく、何より音に充実感があるのがよい。
ただ録音のせいか音がやや硬質なので第1部前半部分などはもう少し柔らかい音があるとよかったかも。
他の収録曲(いずれもバッハの編曲物)は必ずしも全てよい出来とは言えないが、このシャコンヌは入魂の演奏。
- ラーベ(Dorian<93>)(12:19)○-◎
速いテンポで冷静かつ颯爽と弾き切っており、急速部分でのキレは抜群。
というわけでテクニカルな面では最も聴き応えがある盤。
ただコクの面では少々物足りないところもある。
特に第2部後半などアレヨアレヨと進んで、聴き終わったあと「あれ、もう終わったの?」という感じがしないでもない。
悪く言えば技に走った感じ。
音の吟味や声部の織りなす立体感なども(決しておざなりになっているわけではないが)もう一工夫欲しい気がする。
- レーゼル(Capriccio<87>)(13:23)○-◎
アーティキュレーションが明確で細部までカチっとしており、いかにもレーゼルらしい端正な演奏。
ロマン派というよりは(ベートーヴェンのような)古典派を聴くような趣がある。
禁欲的というか、良い意味で抑制が効いている。
かといって四角四面というわけでなく、緩徐部分での弱音での歌い方にも気品がある。
ただロマン的で気宇壮大な演奏を好む人には多少物足りないかも。
- ミケランジェリ(EMI<48>)(13:41)○-◎
ケレン味のない解釈でストレートかつ爽快に弾き進む。技巧も冴えている。
それでいて緩徐部分での味わいも深い。
ただ録音年が古いということで残念ながら音質はいまひとつ。音色の細かいニュアンスや音の美しさを楽しむのは難しい。
(音さえよければこの曲の最良の盤のひとつと言えそうだが。)
なお第1部終盤(終わりから13小節目)のところではossiaの方を弾いており、ドラマチックな効果を上げている。
(原曲からさらに離れて19世紀的バッハになる嫌いはあるが。)
- ガヴリリュク(Sacrambow<2003>)(14:27)○-◎
スマートで上品。技術的にも洗練されている。
また艶やかで潤いのある音が美しい。
ただ上品過ぎて、技巧的な見せ場や歌いどころではもう一押しあってもよいのではないかとも思う。ちょっと優等生気味。
(やり過ぎると下品になってそのあたりが難しいが。)
あるいは(これはラーベ盤にも通じることだが)流麗にひっかかりなくスッと流れるので、ここぞという力の入るところはもう少しアクセントや力感があってもよいように思う。(こうなると個人的好みの領域だが。)
- ワイセンベルク(EMI>)(13:06)○
ドラマチックで、表現の幅、スケールの大きさの点では1,2を争う。
オクターヴでは轟音をとどろかせ、技巧的な急速部分ではここぞとばかりに見せつける。
気合い入りまくりである。
それでも音が混濁せず、彼独特の明晰で輝きのある音を保持しているのは立派。
表現的には少しやり過ぎだと思うが、これが彼の芸であり、つべこべ言わずにそれを楽しむ盤であろう。
(毒にも薬にもならない演奏よりは聴く価値があるかも。)
- A.Serdar(EMI<97>)(14:37)○
変奏ごとの表情の変化や音色の変化などよく考えている。
特に第3部の前半などはいつくしむような音色が印象的。
非常に洗練された技術の持ち主であるが、ただスピードで畳み掛けるところが少し物足りないか。
全体にタメが割りと多い。
また個人的には音にも少し透明感というかヌケの良さにあった方が好きである。
彼も第1部終盤変奏ではossiaの方を弾いている。
- トライオン(CBC<97>)(13:43)○
楽器のせいなのか、時代楽器のようなやや鄙びた音がする。(ライナーには楽器の記述は特にない。)
演奏もそれに合わせて端正で誠実。技巧的に派手さや洗練さはさほどないが手堅くまとめている。
解釈もオーソドックスで奇を衒ったところがない。
というわけで買って損はない盤だが、特徴という点では印象は薄いかもしれない。
- K.W.パイク(Decca<2000>)(14:49)○-△
響きが豊潤(悪く言えば風呂場サウンド的)で、ロマンチック・抒情的な解釈に合っているが、
逆に言えば響きが整理されていないというか、音にしまりがない印象も受ける。
また緩徐部分での科(しな)を作るような(少しナヨっとした)歌い方にも個人的には少し違和感を感じる。
- H.グローショップ(Capriccio<2000>)(13:14)○-△
地味だが丁寧。
スケール感は少ないし、派手な技巧もないが、誠実な演奏。こぢんまりという言葉が似合う。
ノンレガート気味のアーティキュレーションを多用している。
第1部でのここぞという部分でもあまりテンポが上がらないのはちょっと物足りない。
- プレトニョフ(DG<2000>L)(13:55)△-○
彼らしい手練手管を駆使したシャコンヌ。特に隠れた旋律を浮き立たせるのが上手い。
ただ、多彩ではあるが表現がちょっとケレン味がかっている。急に加速したり、解釈がやや恣意的(よく言えば自在)。
いつものことながら、部分部分の表現は凝っていて面白いのだがそれが全体として繋がったときの構成感・まとまりはどうなのか、という問題は残る。
(純粋にロマン派の曲ならこれでもよいのだが、バッハでこれをやられてしまうと、ちょっと違うんではないかなと思ってしまう。)
彼も第1部終盤変奏ではossiaの方を弾いている。
- F.サイ(Warnar<98>)(14:28)△-○
思い切り19世紀的なバッハ。
ロマンチックでスケールが大きく、デュナーミクやテンポの変化も激しい。
フォルテ和音では思い切りペダルを踏むし、緩徐部分では夢見るような音色を紡ぎ出す。
ラストなどは非常に大きくアラルガンドして、他はともかくここはちょっと付いていけない感じ。
録音のせいか、やや音がヒステリックなところがある(聴き疲れするタイプの演奏かも)。
響きも多めだが、もう少しクッキリした音の方が好みである。
- デミジェンコ(Hyperion<2001>)(16:56)△-○
演奏時間(ちなみ手持ちCDで最長)からわかるように全体的にかなり遅めのテンポ。
緩徐部分の表現に重心を置いているようで、ここは彼の持ち前の抒情性が発揮されているようだが、さすがにちょっと深く沈滞し過ぎという気がしないでもない。
また急速部分がもうひとつピリっとしないというかややモサっとしたところがあって、技術的にどんな難曲でもハイレベルにこなす才人デミジェンコにしては意外。
- スパーダ(Arts<88>)(15:35)△-○
遅めのテンポであくまで安全運転だが、音の出し方がややぶっきらぼう。
技術的な流麗さや洗練はない。
特に第1部後半の32分音符のパッセージが続く部分などではタッチがちょっとぎこちない。
ヒステリックなところや聴き疲れはしないところはよいのかも。
第1部終盤変奏はossia。
- ボレット(RCA<74>L)(14:50)△-○
第1部前半の緩徐部分での自然な歌い方や、慈しむような音遣いが非常に上手く、これは期待できるかなと思っていると、
急速部分に入って細かな瑕が結構目立ち、(ライヴなので多少仕方ないとは言え)聴いていて集中力が削がれてしまう。
しかもテクニカルな部分での瑕なので心証が悪い。
また瑕でなくても苦しさが見えてしまって、キレに乏しい。
もう少し完成度の高い演奏であればよかったのだが…。
- A.プラット(EMI<94>)(14:48)△-○
全体的に静かな印象だが、悪く言えば生温い。
技術的な見せ場はもう少し鮮やかに弾いて欲しいところ。
また音の出し方がどこかポツポツとして(よく言えば素朴)、タッチが洗練されているとは言い難い。
- 高橋悠治(DG<76>)(13:19)△
タッチがあまり磨かれていない。音が硬いし、表現的にもやや生硬。技術的にももうひとつピリっとしないというか、ぎこちなさが目立つ。(ミスタッチ気味の部分がそのまま残っているところも散見される。)
解釈的にも割と普通で、DENONへの一連の録音(例えばシューマン)に見られるような独自性はあまり見らず、そういった意味での魅力も乏しいか。
あと録音の問題なのか左右の定位が安定しないところがある。
- 高須博(WAVE Factory<96>L)(16:39)△
芝居がかっているというか、ケレン味たっぷり。
フレージング、アゴーギクに凄く癖があり、極端に言えば1小節ごとにタメが入る感じ。
自分に酔っていると言ってもいいくらいで、個人的にはちょっとついて行けない。
技術的にも少し心許ない。
ライヴだけに瑕も多少ある。
未記入盤
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