レコード(CD)は中身で評価
(注:以下で「レコード」と呼ぶのは録音された音楽という意味で、CDと読み替えてもらってよいです。)
「CD聴き比べ」での私の大原則は「中身で評価する」、つまりレコードから出てくる「音」「音楽」だけを考慮するということです。
以下それについてもう少し詳しく説明してみたいと思います。
- 演奏者の名声や実績に囚われない。
これは最も基本的なことですが、「この人は著名な演奏家だから(良い演奏に違いない)」とか
「この人はその後消えた演奏家だから(ダメに違いない)」という先入観は禁物です。
その意味で、巨匠と呼ばれる名演奏家も、ポッと出の新人も同じスタートラインで評価します。
実力のある人だから、今は多少衰えが見えるけどこれまでの実績に敬意を表して(or敬老精神を発揮して)甘くする、とか、まだ荒削りだけど若いから将来性を見込んで大目にみる、なんてことはありません。
似たようなことですが、これまでのレコードがどれも良かったから今度も良いはず、とか、今までどれもイマイチだから次もダメに違いないという考えも捨てなければなりません。
(私の場合逆に、贔屓にしているピアニストだと、期待が大きいだけに評価が辛めになる傾向があるかもしれません。)
- 歴史的意義はあくまで参考程度。
「作曲者の自作自演である」「演奏者は作曲者の愛弟子(or直接教えを受けた人)である」という事情は決定的な要因ではありません。
それらは作曲者の解釈に忠実(な可能性が高い)であることを意味するだけです。
(そして、他でも何度か言っているように、作曲者の解釈が最良であるとは限りません。)
演奏者の解釈がたとえ楽譜に忠実ではなくても、それが(私に対して)説得力を持っていれば評価は高くなります。
(もっとも、多くの場合は楽譜に忠実である方が説得力を増しますが。)
また「世界初録音である」「このような解釈(or編曲)を彼が初めて行った」「録音当時はこのような演奏は画期的であった」というような歴史的な話もあまり大きな意味を持ちません。
誰が初めにやったのか、オリジナルは誰なのかというような歴史的意義はレコードの中身とは直接関係ありませんし、
解釈は発明や特許ではありませんので早い者勝ちということはありません。
むしろ後から録音する人は以前の解釈を研究できるので有利であるとも言えます。
- 実演とは別物である。
いまどきレコードはコンサートの代用品であると考えている人は少ないと思いますが、
「レコードを聴いたら良いと思ったけど、実演を聴いたら全然ダメだった」からレコードもあまり評価しないとか、逆に「レコードはイマイチだったけど、実演は素晴らかった」からやっぱり良いレコードである、なんてことはありません。
レコードはあくまでレコード、それだけで完結している作品(創造物)です。
演奏家によってはライヴで本領を発揮する人もいれば、スタジオに篭る方が創造性が発揮されるという人もいます。
そもそも実演で再現できることとレコードに録音された音楽の価値とはなんら関係がありません。
- 作成の過程は気にしない。
レコードとしての質を高めるものであれば、編集・継ぎ接ぎ・多重録音は気にしません、
というより、完成度を上げるためならむしろ積極的にやってもらいたいと思います。
もちろん聴いていて継ぎ目がわかるのは大いに興醒めなので、わからないように上手にやってもらうことが条件です。
「(聴いてもわからないけど)継ぎ接ぎがある(らしい)から高くは評価できない」などという度量の狭いことは言いません。
(もっとも、編集し過ぎて実演はレコードには遠く及ばずがっかりした、と言われるリスクは自分で負ってもらうしかありませんが。)
同じようにコンピュータによる演奏も大いに結構です。
(「CD聴き比べ」でも、コンピュータ演奏を人による演奏と同列に扱っています。)
極論すれば、結果(output)が良ければコンピュータで弾こうが足で弾こうが鼻で弾こうが、はたまた猫が弾こうがかまいません。
さきほども言いましたが、実演で再現可能であることとレコードに録音された音楽の価値には関係がありません。
- 音質も重要な要素である。
演奏が同じであれば、音質が良い方が良いに決まっています。(そうでなくて演奏者のネームバリューの方が重要という人もいますでしょうが。)
その意味では近年の優れた録音のレコードの方が有利です。(もっとも、'80年代のディジタル録音以降は録音年が新しいほど音質が良いということはなく、むしろエンジニアの力量に左右されると思いますが。)
ただ、逆に古い録音が有利な面もあります。
「夜目、遠目、傘の内」ではありませんが、音が不明瞭な部分は聴き手が良い方に頭の中で勝手に補完して聴くことができるからです。
壁越しに演奏を聴くと実際より何割か増しに上手く聞こえることがありますが、それと似ています。
- 演奏家自体の評価ではない。
「CD聴き比べ」は、レコード(に収められた演奏)の評価をしているのであって、演奏家自体を評価しているのではないつもりです。
演奏家だって、得意な曲もあればそうでもない曲もあります。
「CD聴き比べ」でも、ある曲では◎だった人が別の曲では△というのはザラです。
一人の演奏家がすべての曲を素晴らしく弾けるわけではありません。
評価がイマイチだからといって、その曲の演奏がイマイチなだけであって、その演奏家が駄目なわけではありません。
(もちろん、どのレコードを聴いてもイマイチならば、その演奏者に対する評価・イメージも下がっていくわけですが、あくまでそれは私自身の中のことです。)
以上思いつくままに挙げてみました。
もちろん、すべからくレコード評論はかくあるべし、と言っているわけではありません。
むしろ私のような聴き方の方が少数派かもしれません。
本当は、これらをすべて満たすには演奏家等を伏せて聴くブラインドテストが最適なんでしょうけども、面倒くさくてやっていません:-)。
(2005/03/30)
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