バラキレフ イスラメイ(東洋風幻想曲)
- ベレゾフスキー(Teldec<94>)(7:48)◎
ジャケット→
彼の十八番の曲だけあって、スピード感があり技巧のキレも秀逸。
特に終盤の追い込みは迫力十分。
部分的に速すぎて語尾がよく聴こえないというか曖昧になるところもあるが、曲が曲だけにそれほど気にならない。
ムストネンのような凝った小細工というか工夫はないが、かと言って直線的でもなくフッと力を抜くような緩急・強弱もあり、語り口が上手い。
正攻法で曲の良さを伝えている。
音が良いのも嬉しいところ。
- ムストネン(Decca<91>)(8:23)◎-○
こういう技巧顕示だけのような曲でも彼は何か一工夫やらずにはいられない。
特定の音を(例によってアクセント付きスタカティッシモで)強調したり、メロディーを浮き立たせたり、あくまで表現重視である。
技巧のキレは言うまでもないが、何よりすべての音がコントロールされている感じがする。
タッチが攻撃的過ぎるので、もう少し滑らかさや柔らかさがあってもいいと思うが(それでは彼の良さが出ないか?)。
中間部も感情がこもっており、音楽センスを感じる。
- ガヴリーロフ(EMI<77>)(7:54)◎-○
ベレゾフスキーの演奏をさらに豪快にした感じ。
打鍵が迫力に満ちている。
ただアレグロ部分では攻めがやや一本調子か。
中間部(緩徐部分)は遅めのテンポでたっぷり歌う。
録音のせいか少し大味というか荒っぽい感じがある。
完成度というか細部のタッチの磨きの点でまだ向上の余地がありそう。
- ラン・ラン(Telarc<2000>L)(8:48)○-◎
スピード感やスケール感はさほどではないが、筋の良い安定した技術で確実に弾いている。
青筋立てたような演奏とは一線を画しており、猛演・爆演が多いこの曲にあって、清潔感が漂うという意味で希少的価値があるかも。
すっきり爽やか、力みがない。
多少硬いところもあるが、オクターヴ連打などでもあまり苦しさを見せない。
目も眩むようなヴィルトゥオージティを期待している人には少し物足りないかもしれないが。
- S.バレル(apr<47>L)(8:00)○-◎
'36年のスタジオ録音と同様の超特急の演奏だが、ライヴということもあってかさらに表現にメリハリが効いた熱演となっている。
ライヴでありながら目立つような瑕もほとんどなく、このような超絶技巧の演奏ができるとはたいしたものである。
最後は演奏終了前から思わず聴衆が拍手を始めるが、その気持ちもわかるほど。
完成度はスタジオ録音の方が高いが、テンションの高さ、凄まじさなどバレルの魅力を伝える点ではこちらの方が上だろう。
音質はスタジオ録音盤と同程度か若干悪い。
- プレトニョフ(DG<2000>L)(7:40)○
プレトニョフらしい技巧のキレがあり、かつ表現上の工夫(小細工)にも満ちている。
特に左手が雄弁(重低音を炸裂させたり、芝居がかった表現も多少鼻につくが)。
ただ(プレトニョフにはよくあることだが)、部分部分を聴くと細部の彫刻の鋭さに感心するが、全体をつなぎ合わせてみるともうひとつしっくりしない感もなきにしもあらず。
またライヴのせいか細かいところではやや勢い任せというか弾き崩した感じのところもある。
なお曲の出だしが拍手とかぶっている。
- S.バレル(Pearl<36>)(8:10)○
緩徐部分があるため演奏時間こそそれほど短くないが、(局所的に)速弾きの限界に挑戦しているかのようなバレルらしい猛烈テンポの演奏。
その指回りには感心するほかない。
ただ(個人的には)それが音楽的充実や面白さにあまり結び付いていないというか、単にせわしないという感じもなきにしもあらず(「間」が少ないせいもある)。
音が悪いのも一因かもしれない。
そのせいで細部も少し不明瞭である。
- T.ジャッド(Chandos<78>L)(8:10)○
'78年チャイコフスキーコンクールライヴ。
(緩徐部分は遅めのテンポだが)全体的にスピード感に溢れ、小細工などはあまりせず、一気に突っ走る。
若々しさに満ちている。
直線的という点では名演ヒナステラ第1ソナタの終楽章を思い出す(ライヴだけあってヒナステラほどの冷静さ・完成度がないのが惜しいが)。
音がイマイチ(ライヴ過ぎるのか音の分離がもうひとつ)なのが残念なところ。多少の瑕もある。
- ブレンデル(Vox<55>)(8:49)○
リスト弾きとして売り出してた頃の演奏だけあって、技巧的に安定している。
(その頃のリストの演奏もそうだが)ヴィルトゥオーゾ臭というかケレン味はなく、熱くなり過ぎず、勢い余ってコントロールを失うこともない。
よい意味で模範的、教科書的演奏といえるかも。
最大の問題は音質。
録音がライヴ過ぎるせいか細かい音型が曖昧(ダンゴ気味)になっている。
- ギレリス(Doremi<51>L)(7:40)○-△
ギレリスらしい、ちょっと押したくらいではびくともしないような安定した技巧が聴ける。
特に連続オクターヴがスムーズさでは1、2を争うかも(リストのハンガリー狂詩曲第6番やシューマン・トッカータでもみられるように、彼の連続オクターヴでの安定性は特筆すべきものがある)。
ただ非常に残念なのは、中間部の後くらいで急に暗譜が怪しくなったような事故があること。なんとか誤魔化しているがこれは結構大きな瑕。
演奏後には盛大な拍手をもらっているが、本人は内心忸怩たるものがあったのではないかな。
これがなければかなりの秀演なのだが。また音質ももうひとつ。
- F.ケンプ(fontec<97>L)(8:10)○-△
'97年浜松国際ピアノコンクールライヴ。
落ち着いた足取りながら緩急・強弱のつけ方が自然で、巧みに盛り上げている。
内声の歌い方にもセンスが光る。
ただ(生で聴いたときはその日の全演奏者の中で最も印象に残る演奏だったが)録音でじっくり聴いてみると細かな瑕もやや目立つ(「安全運転だが退屈」な演奏には決してならないのが彼の長所でもあるが)。
彼の演奏は細部まで精密に練り上げるというより、微妙なリズム感、強弱、音色の変化などの歌いまわしのセンスの良さが特長なので、録音ではその良さが表れにくいのかもしれない。
- カッチェン(Decca<54>)(7:56)△-○
部分的な技巧の冴え(指回り)には感心するところもあるが、録音のせいか細部が曖昧になるところがあり、またタッチやテンポに関して勢いで弾く(十分にコントロールされていない)感じがあって、個人的にはあまり好きではない。
それでも終盤の追い込みはスタジオ録音とは思えないほど興奮が伝わってくる。
良くも悪くもヴィルトゥオーゾ的演奏と言える。
- シフラ(EMI)(8:20)△-○
シフラ編曲版だが、曲の大筋は変えておらず、味付けとして音を加えている(特に主題の最後の音を3連打するところや中間部でのトリルが印象的)。
それよりもテンポの変化というかアゴーギクがやりたい放題。フレーズをゆったり始めたかと思うと(無意味に?)急加速したり…。
打鍵も強烈。まさに動物的感覚とでも言おうか。
ただし例によってタッチはゴツゴツしており、粒の揃いのような基本的な部分はもうひとつ(個人的には、正式の基礎的訓練を受けていない人の演奏という感じ。
ジプシー・ヴァイオリンならぬジプシー・ピアノというところか)。
曲が曲だけにこういう破天荒な演奏もあってもよいと思うが。
- シフラ(Hungaroton<54>)(8:40)△-○
やはり彼の編曲(後半でグリッサンドを連発)が少し入っているが、EMI盤ほど派手ではなく、その点ではやや大人しい。
技術的にはEMI盤より多少整っており聴きやすいが、やはり基本的な部分での粗さは隠せず、シフラ的魅力に満ちているという点ではEMI盤の方が面白いかも。
- アラウ(Pearl<28>)(8:04)△-○
音は非常に悪いが演奏はしっかりしている。
若いときの演奏だけに溌剌としているし技巧的にも高レベル。
終盤の追い込みのスピードなどバレルを思わせるところもある。
ただし勢い余ってテンポが少し走ってしまったり、勢い任せになる感じのところがあるのが惜しい。
これで音がもう少し良ければもっと評価は高くなるのだが。
- サトゥカンガス(Finlandia<95>)(9:05)△-○
他のヴィルトゥオーゾや技巧派のような卓越した技巧を持っているわけではないが、筋は悪くない。
ただ(出だしなどを聴くとかなり期待させるのだが)技術的な難所にくると多少ぎこちない。
特に急速な連続オクターヴが頻出する終盤は苦しさが見える(それほどスピードを出しているわけではないが)。
あとテンポの揺らし方というかアゴーギクに少し違和感を感じるところもある。
- オグドン(RCA<62>L)(8:15)△
体育会系のオグドンらしい熱演。
前半は彼にしては割と冷静だが、終盤はヤケッパチとまでは言わないが気迫で押し切っている。
ただし技術的にはみるべきところはあまりない。
打鍵が乱暴で、もう少し丁寧に弾いてもバチは当たらないと思うが、ライヴでもあるしそれは無理な注文であろう。
逆に緩徐部分の歌いっぷりの方に魅力を感じる。
- M. Kollontai(Saison Russe<94>)(9:13)△
テクニシャンタイプでは決してないが、己の実力をよく知っているのか、ゆったりしたテンポで確実で弾こうと心がけているようである。
ただし技術的な爽快感とは無縁。後半になるとさすがにもどかしいところもある。
中間部で左手の低音をやけに強調するのが変わっている。
M.ビンズ盤と同じくバラキレフのピアノ曲を集めた一枚だが、ビンズほどは悲しい演奏にはなっていない。
- M.ビンズ(Pearl<2000>)(9:13)×-△
他盤より技術的に明らかに見劣りする。
細部が曖昧になりがちだし、リズムの詰めも甘い(というか余裕がなくて弾き急いでしまうのか、フレーズの終わりが寸詰まりになりがち)。
オクターヴの速いパッセージは苦しさがありあり。
好意的にみれば、Kollontaiがゆっくり確実に弾こうとしているのに対し、ビンズは(細部を犠牲にして)雰囲気を大切にしていると言えなくもないが……はっきり言って弾けてない。
バラキレフのピアノ曲を集めたCDなので、一番有名なこの曲はどうしても入れざるをえなかったかもしれないが、少し痛々しい(他の曲では技術的なことはそれほど気にならないのだが)。
未記入盤
- M.Lewin(Centaur<91>)(9:07)
- クズミン(Russian Disc<93>)(7:38)
- J-G.パク(Cypres<2003>L)(8:01)2003年エリザベートコンクールライヴ
- チアーニ(Dynamic<>L)(7:59)
- J.チェン(ABC<2004>L)(8:38)2004年シドニー国際コンクールライヴ
- ファンゾヴィッツ(Diskant<2005>)(8:33)(ブログ記事)
- エル=バシャ(Triton<2006>)(8:35)(ブログ記事)
- F.ケンプ(BIS<2006>)(8:32)(ブログ記事)
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