プロコフィエフ ピアノソナタ第8番変ロ長調Op.84
- ガヴリーロフ(DG<91>)(13:59/4:01/9:11)◎-○
全体的にガヴリーロフらしい技巧が冴えている。第1楽章の緩徐部分は素っ気ないというほどでもないがやや速めのテンポで、もう少しコクがあってもいいかなと思うが、Allegro展開部の急速音型では技巧も鮮やか。一気に駆け抜ける感じである。第2楽章も穏やかというよりはメリハリのある表現。第3楽章はかなり速めのテンポで、技巧がキレまくっている感じ。表現もダイナミック。オフチニコフと違って最後にわずかにタメが入るところがあるが、ほとんど問題なし。中間の行進曲風の部分もあまりテンポを落とさず突っ走っていく。なお彼はこの曲を以前EMIにも録音していたが、そちらも(1回試聴した限りでは)DG盤とそう大きな違いはないようである。
- オフチニコフ(EMI<93>)(16:25/4:02/10:38)◎-○
なんと言っても終楽章が良い。テンポは落ち着いていてそれほどの迫力はないが、技巧が安定し、特に終盤の、かなりのメカニックの強さを要求されるところでも苦しさを見せずにほぼインテンポをキープしているのがえらい(この盤の価値はこの部分にあると言ってもいいくらい)。第1楽章は抒情派(?)のオフチニコフだけにゆったりしたテンポだが、全体的に表情づけが淡泊でちょっと退屈な感じがする(実を言うとこの楽章は今だにあまりピンとこないところがあって、そのせいもあるのだが)。Allegroに入ってもあまり力を発散させず、おとなしめ。彼の自制心がここではマイナスに働いているような気がする。第2楽章も淡々としているが、あまりモタレないのがよい。
- チュウ(HMF<91>)(14:58/4:01/9:12)○-◎
オフチニコフ盤とは逆に第1楽章が良い。ゆったりしたテンポだがニュアンスに富んでいて飽きさせない。ちょっとしたフレーズでも意味があるように聴こえる。正直言っていま一つ掴みどころがないと思っているこの楽章に関して一番好きな演奏である(音楽的センスのなせる技かも)。Allegroの部分はメチャ速くて右手の細かい音型が聴き取れないほどだが、左手が雄弁であり表現意欲は買える(正統的解釈とはとても言えないが)。終楽章も基本的に悪くないが、一部フレーズで微妙にテンポが変わるところが気になると言えば気になる。テンポはガヴリーロフ並みに速く、終盤での技巧のキレはなかなか聴かせるが、やや勢いにまかせるというか、悪く言えば綱渡り的(良く言えばスリリング)な感じもする。
- オールソン(Arabesque<98>)(15:30/4:35/10:57)○-◎
オフチニコフ盤と同様、第3楽章がよい。vivace部のテンポはオチニコフ盤よりさらに落ちるが、最後までテンポが揺れず、タッチもシャープさこそないがまずまず安定している(この曲に関しては、無理なテンポをとった挙句に最後に苦しくなってルバートで逃げたりするよりは、このような演奏の方を断然評価する)。全体的にはマイルドというかスタティックというか、抑制された表現で、鋭さはないが(そこが不満な向きももちろんいるだろう)、技術的に安心して聴いていられる(安全運転とも言えるが)。ただ、第1楽章は全体的にのんびりしている割にAllegro部になってもあまり加速がかからず、メリハリに欠けるところがあってちょっとかったるい。
- グレムザー(Naxos<94>)(14:03/4:15/9:23)○
第1楽章はAllegroの部分の細かい音型がノンレガートでクリアに聞こえ、小気味がよい。ここに彼の良さがでている感じ。緩徐部分はオーソドクスで小細工がないが、そこが(例によっていまいちピンとこない楽章だけに)やや単調というか物足りない面もある。偏見かもしれないが、彼は音楽センスよりもテクニックで勝負するタイプだけに、このような緩徐部分や第2楽章はやや平凡な印象を受ける。メカニックの強さが出る第3楽章は彼向き。歯切れの良い、エッジの利いた音を聴かせる。ただしガヴリーロフほどのスピード感・迫力やオフチニコフほどの安定したインテンポ感はない。また(特に終盤で)心なしかタッチに安定感・均質感を欠く感じがする。
- ペトロフ(Melodiya<72>)(17:13/4:41/10:17)○
第1楽章は全体的にゆったりめのテンポだが、音色やデュナーミクの変化などの表現にセンスがあってそれほど退屈させない。特に展開部後半の盛り上げ方がうまい。Allegro部で左手をやや強調しているのもなかなか聴かせる。第2楽章も多少ゴツゴツしているが、夢見るような、気持ちよく揺れ動くような、そんな感じが出ている。終楽章は割と落ち着いたテンポながら、骨太かつ乾いた明晰な音で、確かな技巧を見せている。同じようにノンレガート指向のグレムザーよりもタッチに安定感がある感じ。ただ終盤は少しルバートというかタメを作るところがあって、(あまり速いテンポをとってないだけに)もう少しインテンポで突っ走ってほしかった気もする。
- リヒテル(DG<61>)(15:46/4:17/9:41)○
全体的に渋い。第1楽章は抑制された表現で、モノクロームというか水墨画のような印象。Allegroの部分も比較的おとなしい。深い精神性が漂う雰囲気もするが、そういうものを持ち合わせていない私にはちょっと面白みに欠ける演奏という感じがしてまう。第2楽章も霞がかかったような音で淡々と弾き進める(ペトロフとは対照的)が、悪くない。第3楽章もそれほど強い印象はないが、技巧は高度に安定し、安心して聴いていられる。終盤の難所でもインテンポをほぼキープしている。変なクセがないという点で模範的な演奏なのかもしれない(でも私にはちょっと物足りない)。
- プレトニョフ(DG<97>)(14:25/4:38/10:45)△-○
例によって第1楽章から独自の世界に入っている。やや速めのテンポだが1音1音よく考えているのがわかる(が、説得力があるかはまた別の話)。Allegro部は逆にスピードをあまり上げずに、それよりも音のコントロールに注意を払っているようだが、私にはモッサリしているというか、覇気のない足取りに聞こえてしまう。第2楽章も同じ路線。終楽章はかなり遅めのテンポ設定をして、その分余裕を持って音をコントロールしようとしている。それはそれでいいのだが、少し表情をつけすぎというかナヨっとした感がある。また終盤は遅いテンポに見合うだけの(7番終楽章で見せたような)コントロールがされているかというと、ちょっと不満が残る。
- K.W.パイク(Dante<92>)(13:57/4:20/9:36)△-○
ピアノの音が少し妙なのは相変わらずだが、全体的に悪くない。第1楽章はAllegro部での急速音型にもうひとつクリアさが欲しいが、他はまずまず。終楽章もテンポはやや落ち着いているが終盤まで技巧が乱れず、大いに健闘している(ただ最後は気のせいかちょっと音が抜けているように聞こえるところがある)。併録の他の戦争ソナタに比べると全体的に一番出来がいいようである。ただ(音がイマイチだけに)どうしてもこの盤、という魅力・個性に欠けるのは否めない。
- ラエカリオ(Ondine<88>)(15:06/4:12/9:29)△
第1楽章はアゴーギクやデュナーミクのつけ方、いわゆる語り口がうまくて聴かせる。こういうロマンティックな曲想は彼に合っていそう。左手も生きている。ただコーダの急速部分はラエカリオにしてはやや安全運転のテンポで少し迫力に欠ける。終楽章はかなり速めのテンポで、覇気に満ちたタッチでグイグイと攻める。が、終盤のクライマックス途中でテンポが明らかに落ち、それでもインテンポが保てずルバートで逃げるところがあってちょっとシラける。(そこまではよかっただけに、初めて聴いたときは正直言って失望した。)というわけで最後の最後が残念。
- P.ドミトリエフ(fontec<95>L)(13:42/4:10/10:12)△-×
'95日本国際音楽コンクールライヴ。第1楽章はダイナミックやアゴーギクの変化をあまりつけず、こじんまりした感じ。やや表面的という印象も受ける。Allegroの部分もキレがいまひとつで、16分音符の動きがややぎこちない感じがする。第2楽章は健康的にサクサク進む。終楽章も明るい音色でキビキビしているが、ところどころにタメやルバートが入り、終盤はさらにテンポも落ち気味で苦しそう(多少テンポが落ちても打鍵をしっかりしようという姿勢のようだが)。全体的に筋はいいのだが完成度はまだまだという感じ。この演奏は私も生で聴いていたが、これをコンクールハイライトCDに入れるよりは、他にもっと良い演奏曲があったと思う。
未記入盤
- マルシェフ(danacord<92>)(16:14/5:21/9:59)
- カスマン(Calliope<93>)(14:49/4:24/10:01)
- P.ドミトリエフ(Arte Nova<2001>)(13:21/4:17/10:43)
- ギイ(naive<2001>)(15:08/4:08/9:45)
- エッカードシュタイン(MDG<2002>)(16:31/4:52/10:36)
- テベニヒン(Naxos<99>)(15:42/4:44/11:05)
- P.ドミトリエフ(Port-Royal<96>)(14:36/4:29/11:05)
- アシュケナージ(Decca<67>)(16:23/3:46/9:45)
- デ=グルート(VAI<77>L)(15:36/4:22/9:41)'77年ヴァン・クライバーンコンクールライヴ
- デ=グルート(apex<79>)(16:58/4:30/9:58)
- ニコルスキー(Arte Nova<91>)(14:45/4:10/10:08)
- ギルトブルグ(EMI<2005>)(14:33/4:22/8:59)(ブログ記事)
- エゴロフ(Canal Grande<86>L)(15:46/3:46/9:54)
- マクダーモット(Bridge<2002>)(15:57/5:25/10:05)(ブログ記事)
- テベニヒン(Piano Classics<2011>)(16:38/4:53/11:22)(ブログ記事)
- コジュヒン(Onyx<2012>)(14:16/5:02/10:00)
- メルニコフ(HMF<2015>)(13:22/4:44/9:51)
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