ラフマニノフ/ピアノソナタ第2番変ロ短調Op.36
特に断りのないものは改訂版(1931年版)である。
- クズミン(Russian Disc<93>)(ホロヴィッツ版)(7:40/5:05/5:15)◎ ジャケット→
怒涛の攻め。音の洪水。クズミン節とでも言おうか。
それでいて細部まで音が緻密でクリア。
爆演系テクニシャンの面目躍如たる演奏。
この曲に彼のベストフォームが現れているのではないかと思う。
ただしこの盤を聴き慣れると普通の演奏がヌルく感じられてしまうという危険も孕んでいる。
- アムラン(Isba<94>)(7:36/6:44/4:22)◎-○
スマートでスピード感溢れる。技術的にも洗練の極み。
例によって薄味なところはあるが、変な癖がなく、模範演技のような演奏。
- ホロヴィッツ(CBS<68>L)(ホロヴィッツ版)(8:25/6:10/5:30)◎-○
緩急・強弱の付け方、歌い方が大胆かつ自在。すっかり手の内に入って聴かせるツボを心得ている。
まさに(よい意味で)ヴィルトォオーゾ的演奏。
終楽章での轟音のように響く低音が特に印象的。
- ホロヴィッツ(RCA<80>L)(ホロヴィッツ版)(9:21/6:31/6:12)◎-○
'68年盤に比べるとテンポがやや遅めで、特に急速部ではやや安全運転気味になっているが、それでも彼独特の魅力は失われていない。
特にスケルトン的な乾いた音と重低音の炸裂は'68年盤よりもさらに磨きがかかっている感じである。
- クズミン(ogam<2001>)(ホロヴィッツ版)(8:30/6:28/5:09)◎-○
'93年の録音と比べると、多少大人になったのか(?)、響きが整理され、落ち着きが出てきたという感じ。
爆演ぶりはやや薄まり(それでも普通の演奏と比べたら派手かも)、むしろ格調高いといった仕上がりになっている。
- F.ケンプ(BIS<99>)(オリジナル版)(9:47/7:05/6:27)○-◎
抒情的で美しくまとまているし、歌心にも溢れている。いわゆる聴かせ上手。
ただスタジオ録音ということもあってか実演に比べるとやや力をセーブした(手堅くまとめた)感じもある。
- コチシュ(Philips<95>)(オリジナル版)(9:15/7:08/6:30)○-◎
正統派。
技術的にも音楽的にもケチをつけるようなところはあまりない。
ただ録音のせいかやや音ギレの悪いところがあって、部分によってはもっと乾いたタッチを織り交ぜてもよいのではないかと思う。
あと終楽章などはもうすこし派手に畳み掛けてもよい。
- ラン・ラン(TELARC<2000>L)(8:10/7:41/4:47)○
爆演系かと思いきや、急速部分は意外とすっきりしている。
むしろ第2主題や第2楽章のような緩徐部分での慈しむような歌い方にセンスを感じられ、ここに彼の真骨頂が現れているようである。
- タラソフ(fontec<97>L)(9:01/7:15/4:55)○
'97年浜松国際ピアノコンクールライヴ。
フォルテでは打鍵に気迫がみなぎっており、一方緩徐部分ではかなりテンポを落として濃密に歌う。
その落差の大きさがロマン的スケールを感じさせる。ただちょっと重苦しいというかシリアスになりすぎと思えなくもない。
ちなみにこのとき彼は第3位。
- ガヴリリュク(fontec<2000>L)(7:58/5:46/5:05)○
2000年浜松国際ピアノコンクールライヴ。
模範演奏タイプの佳演。解釈、技術的にはケチをつけるところはないのだが、強い個性というか特徴がそれほどないのが多少物足りないか。
(第2楽章の内声の出し方などが特徴的と言えば特徴的だが。)
なお曲の冒頭でどっかの客が小銭を床にぶちまけた音がしっかり入っているのが少々耳障り。
- ハイルディノフ(Live Notes<98>)(8:31/6:55/5:22)○
音に透明感があり、抒情的。普段はあまり聴き取れない声部を強調するなど、読みの深さを感じさせる。
特に緩徐部分が聴かせる。
迫力よりも美しさを求める人向けの演奏と言えるかも。
- ワイセンベルク(DG<89>)(6:01/4:44/4:32)○
あまり間を入れずに先へ先へと進む。この直進性はある意味爽快だが、息継ぎもせずに突っ走っている感がある。
また確かにテンポは速いが、技巧的見せ場での瞬間風速的な速さは実はそれほどでもない。
それでも第1,2楽章は(演奏時間を見ればわかるように)オーソドックスな解釈とは一味違うのでその意味で一聴の価値はあるかも。
- Ioudenitch(HMF<2001>L)(オリジナル版)(9:49/6:48/6:54)○
2001年ヴァン・クライバーンコンクールライヴ。
全体に軽量級ではあるが、ffでも思い切りぶちかまさないで軽く捌いたり、小粋というか洒落たところがある。
細かい瑕は多少あるが、音楽の流れは悪くないのでそれほど気にならない。
ちなみにこのときは彼は(オルガ・カーンと並び)第1位。
- ガヴリリュク(Arts Core<2001>)(8:38/6:20/5:28)○-△
浜コンの5ヶ月後の録音。浜コンライヴに比べるとじっくりと丁寧で完成度が高いが、(スタジオ録音では往々にしてあることだが)その分やや慎重というか覇気が多少失われているようにも感じる。(これは併録のハイドンやパガニーニ変奏曲ではさらに感じる。)
- ルガンスキー(Vanguard<93>)(8:33/6:30/5:14)△-○
整ってはいるが、音の絵で見せたようなキレキレの技巧はあまり感じさせず、どちらかというと普通の演奏。
あまり大きな期待をこめて聴くと拍子抜けするかも。
特に(彼にはよくあることだが)緩徐部分であまり胸にせまってくるものがない。
- オグドン(RCA<68>)(7:28/6:24/5:09)△
どんな爆演を繰り広げるのかと思いきや、意外とまとも。
となるとどうしてもこの演奏、という魅力にはやや乏しいかも。
細部の仕上げも多少粗い。
- スルタノフ(TELDEC<92>)(ホロヴィッツ版)(10:22/6:42/6:14)△
ちょっと粘りすぎ。
ホロヴィッツ版を使っているが、この版特有の技巧的パッセージもややもったいぶった弾き方で、彼らしい怒涛の攻めというか迫力はあまり感じられない。
(ラストのところは彼らしさ――音の追加を含めて――が現れているが。)むしろ歌の方を重視しているようである。
- シチェルバコフ(Naxos<99>)(8:32/6:54/5:25)△
全体的にゆったりしたテンポ。
1音1音をよく吟味しているという感じだが、ちょっと持って回ったようで流れが滞る感がなきにしもあらず。
彼らしい技巧のキレを時折見せてはいるが、やや散発気味である。
- J=P.コラール(EMI<78>)(ホロヴィッツ版)(8:51/6:43/5:58)△
全体的に音の運びがやや堅いというか、こなれていない感じがある。
この楷書的なところが彼の魅力なのかもしれないが、それにしてももう少し闊達さが欲しいところ。
- Y.ディデンコ(Vista Vera<95>)(9:03/6:20/5:55)△
やや線が細い。というか、迫力やスピード感はあまり追い求めず、ゆったりじっくり美しく弾くことを目指している感じ。
とはいえ畳み掛けるべきところでなかなか前に進まないのはちょっとフラストレーションが溜まる(特に終楽章)。
- W.Y.シェン(Cypres<2003>)(8:41/6:10/5:47)△
ソツなくまとまっていはいるが、特長というか魅力がもうひとつ。
歌い方や緩急・強弱のメリハリにもうひとつセンスが感じられないのが大きな要因と思われる。
- ヴォルコフ(fontec<89>L)(8:03/6:04/5:22)△
'89年日本国際コンライヴ。
全体的に落ち着いたテンポで、ここぞというところでもあまり加速しないのがちょっと物足りない(特に終楽章など)。
よく言えば音をしっかり出す方を重視している。
ちなみにこのとき彼は第3位(1位がJ.シュミット、2位がタラソフ)。
- ヤブロンスキ(Decca<92>)(8:50/7:25/5:35)△-×
キレがあまりなく、歌いっぷりもいまひとつセンスが感じられない。一言でいうと退屈な演奏。
特に第2楽章はテンポが遅い割りにそれに見合った充実感に乏しい。
併録のプロコフィエフではその無機的な音が曲に合っていたが、ラフマニノフでそれをやられるとつらい。
未記入盤
- グレムザー(Oehms<2005>)(オリジナル版)(11:11/6:52/6:40)(ブログ記事)
- マツマニシュヴィリ(Oehms<2005>)(8:35/6:26/5:08)(ブログ記事)
- D.トン(Melba<2003>)(8:06/6:51/4:36)(ブログ記事)
- スドビン(BIS<2005>)(ホロヴィッツ版)(9:04/5:51/5:48)(ブログ記事)
- マツーエフ(RCA<2007>)(8:04/5:57/5:21)(ブログ記事)
- D.クズネツォフ(Denis Kuznetsov<2006>)(ブログ記事)
- R.Dank(ABC<2008>L)(7:45/6:10/5:12)2008年シドニー国際コンクールライヴ(ブログ記事)
- ナセリ(Centaur<2006>)(オリジナル版)(10:55/6:53/8:05)(ブログ記事)
- ヴィニツカヤ(naive<2008>)(8:46/5:47/5:03)(ブログ記事)
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- カーメンツ(ARS MUSICI<2009>)(8:33/6:51/5:09)(ブログ記事)
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