リスト スペイン狂詩曲S.254
- ハフ(Virgin<87>)(13:47)◎ ジャケット
タッチが明晰でかつ安定している。和音の強打にも輝きがあり、技術的には文句をつけるところがない。全体的に力強いという印象だが、意外なところでフッと間を置いたりルバートをしたりとアゴーギク上のひねりも多く、いわゆる「聞かせる」演奏。クライマックス部分(跳躍+オクターヴで激しく左右交互連打するところ)の盛り上げ方もうまい。多少クセのある演奏なのかもしれないが、ラプソディーならこのくらいはやってもいいだろう。
- グレムザー(Koch<90>)(12:40)○
技巧的には十分なのだが、例のクライマックス部分でテンポが走る(寸詰まりな)感じになるのが(意図的なのかもしれないが)ちょっと不満。(ここは速ければいいってもんではなく、やはり正確なリズム感が欲しい。)その他の解釈は、ハフのようにひねったところは少なく非常にオーソドックス。立派な演奏だが、これといった個性というか特長には欠けるかも。
- シュタルクマン(Russin Disc<96>)(12:28)○
解釈がちょっと変わっていて個性的。乾いた軽めのタッチ主体で、普通は思いきりアクセントをつけるところも軽くさばいたりして、慣習に囚われず自分で考えて弾いている感じ。(冒頭の和音も思いきりスタカートだがこれは確かに楽譜通り。)全体的に表現意欲に溢れているのだが、技巧がそれに十分についていってないと言ったら言い過ぎだがちょっと安定感を欠くところがある(細かい重音の動きなど)。前半部の、ダブルオクターヴの(3度音程での)上昇を繰り返すところがちょっとぎこちなく、クライマックス部はやっぱり少し走り気味になる。
- ペライア(Sony<90>)(13:25)○
細部まで丁寧で、ごまかしというか曖昧なところがない。特にこの曲に多い重音がきれいに粒立ち良く鳴っているところが気持ちがいい(こういうのはペライアの得意なところだろう)。その分、流麗さが犠牲になっているというか、表現がちょっと硬いかもしれない。あくまで羽目をはずさず、色気を出さず、真面目である。狂詩曲なんだからもう少しラプソディックなところが欲しいと言ったら贅沢かな。
- ギレリス(Melodiya<68>L)(12:53)○
前半は割と普通だが、クライマックス部のスピードは(持っているCDの中では)トップクラスで、鬼気迫る勢いがある(テンポも走らない)。その後も多いに盛り上げ、終わったときは私も思わず拍手したくなる。録音が古いせいか、タッチがやや乱暴というか叩きつける感じに聞こえるのが残念。ライヴらしい熱気に溢れた演奏だが傷がほとんどないのは立派。
- キーシン(RCA<90>L)(13:51)○
軽快な部分での指の動きは万全で、特に最初のニ長調Allegro部での3度重音のクリアさは思わず聴き惚れてしまう。ただ、(他のラプソディーでも感じることだが)前半のゆったり部分などはややリズムが重いというか真面目過ぎて、もう少しノリがよくてもいいのではないかと思う。全体的に、技巧をひけらかすようなことを罪悪視しているように、あくまで格調高く禁欲的であるが、もう少し自発性や(多少の)遊び心があってもよいと思う(やり過ぎはこれでまた問題だが)。一応ライヴだが、予めCD化を予定して編集されているのだろう、傷はほとんどない。
- アルダシェフ(Supraphon<91>)(13:16)○
やや小粒というかスケールは大きくないが、技巧は安定していてまずまず悪くない。前半部の長調のAllegro部分がかなり安全運転のテンポだが、いいかげんに弾き飛ばされるよりはいい(さすがに遅すぎてちょとイライラするところもあるが)。全体的に身振りの大きい表現は避け、素直に(素っ気なく?)弾いている。クライマックスはテンポはかなり速いが走ったりせずあくまで冷静。
- ヴィルサラーゼ(Melodiya>)(13:26)○
技術的にはちょっと(かなり?)見劣りするが、アゴーギクやテンポの変化を殆どつけずにあくまでインテンポで弾き進むところが新鮮でかえって面白い(本人はそんなつもりはないだろうが)。演奏は淡々としていて、どんなに盛り上がるところも決して慌てない。クライマックス部でこれほど切迫感がないというか落ち着いた演奏も珍しい。不思議な魅力の1枚。
- L.ベルマン(Hungaroton<56>)(12:15)○
録音はもうひとつボケ気味だが音楽的には充実している。
センスがあるというか、強弱や緩急のつけ方がうまいというか、流れが自然。
特にアゴーギクの付け方がうまく、畳み掛けるようなアッチェレランドなどで非常に盛り上げる。
また弱音を効果的に使っており、緩徐部分では天国的な美しさがある。
ただし勢いを大切にした分、細部ではさらなる完成度の高さが望まれる部分もある。
- シフラ(Aura<63>L)(11:58)○
相変わらずのシフラ節ではあるが、自由度の高い曲だけにデフォルメの仕方も悪趣味になる一歩手前にかろうじて踏みとどまっているという感じで、細かく聴けば技術的に怪しいところもあるが、聴いていて面白いことは確か。
クライマックスでのオクターヴ交互連打のスピードも凄まじい。
随所に編曲(というか音の追加)も入っていて、特にニ長調Allegro部分の後半のところに入れたパッセージはなかなか印象的。歌い方もうまい。
音質はもうひとつで、(曲ごとに入る)熱狂的な拍手も録音レベルが高くてちょっとうるさい。
- S.バレル(Pearl<34>)(11:54)○
録音が古いせいかダイナミックレンジが狭く、迫力はそれほどでもないが、とにかくスピードに関しては随一で、バレルの面目躍如と言える。
ニ長調Allegroのところなど、速すぎて細部がよく聞きとれない。3度もやや曖昧。
それでも(ライヴとスタジオの違いもあるだろうが)シフラなどと比べると技巧もしっかりしており、もう少しテンポを落としてでもうまくメリハリを付ければさらに完成度が高まると思うが(のべつ速くて何かセカセカした感じもなきにしもあらず)、それではきっと彼の持ち味が出ないだろう。
- アラウ(Pearl<35>)(9:34)△
演奏時間がかなり短いが、これは(全体的にテンポが速いせいもあるが)かなりあちこちでカットがあるため。
そのせいかどんどん先に進むような印象を受ける(あるいはダイジェスト版を聴いているような感じ)。
バレル盤と同様、ダイナミックレンジが狭く迫力には乏しいが、技巧的にはまずまず。
ただし細部は録音のせいか曖昧になるところも多く、音の悪さを補うほどの魅力があるかと言われると…(カットするときの参考になるかな)。
- M.アンダーソン(Nimbus<95>)(14:06)△
序奏の後のAndante moderatoの部分をかなり遅めのテンポで始めてゆっくりと加速していく。音楽の作り方にセンスがある。長調のAllegro部分の細かい音型(3度)がややぎこちないとうか不安定な感じがする。その後も細部が曖昧に聞こえる部分が多い。というわけで音楽性は感じるのだが技巧的にはちょっと弱い。
- M.Soucek(ORF<96>)(14:43)△
fの和音など、音がきれいに響くのはよいのだが、全体的に動きが硬い。
重音の難しいパッセージでは(ごまかさずに)ちゃんとテンポを落として丁寧に弾くところは、ある意味好感は持てるが、おそるおそる弾いているような感じのところもあり、(まだ若いのだから)もう少し流麗に弾けるようになってから、あるいは完全に自分のものになってから録音してもいいんじゃないかと思う。
未記入盤
- ボレット(RCA<72>)(13:51)
- イオウデニチ(HMF<2001>L)(12:43)2001年ヴァン・クライバーンコンクールライヴ
- A.Yemtsov(ABC<2000>L)(13:32)2000年シドニー国際コンクールライヴ
- シャン=トン・コン(Walsingham<92>L)(12:18)'92年シドニー国際コンクールライヴ
- レスチェンコ(EMI<2003>)(12:00)
- D.ワイルド(EMI<68>)(13:05)
- ヘルムヘン(Avi<2002>L)(13:53)2002年ルール・ピアノフェスティバルライヴ
- D.クズネツォフ(Denis Kuznetsov<2006>)(ブログ記事)
- E.Zuber(ABC<2008>L)(12:44)2008年シドニー国際コンクールライヴ(ブログ記事)
- L.ベルマン(Sony Classical<79>L)(13:25)(ブログ記事)
- マルシェフ(danacord<2008>)(13:03)(ブログ記事)
- カーメンツ(ARS MUSICI<2009>)(13:11)(ブログ記事)
- モーゼル(Brilliant Classics<2008>)(13:30)(ブログ記事)
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